2016年05月25日

シドニーのオフィス市場~海外資金による取得は高水準、日本の投資家にとっても魅力的~

増宮 守

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1.活発な海外資金による不動産取得

近年、オーストラリアの不動産に対し、世界の投資家の注目が集まっている。先進国で不動産ストックも比較的大きいオーストラリアは、グローバルに運用する投資家がアジアパシフィック地域でコア型1の不動産投資を検討する際の主な投資対象である。特に、リーマンショック以降、市況の回復とともに海外資金によるオーストラリアの不動産取得が大幅に拡大してきた(図表-1)。投資対象となる不動産ストックは日本よりはるかに小さい2にもかかわらず、海外資金によるオーストラリアの不動産取得額は、日本での取得額を大幅に上回っている。

その要因として、まず、オーストラリアの成熟した不動産投資市場が挙げられる。オーストラリアでは、上場REITが1971年に開始3するなど、早くから不動産投資市場の整備が進んでおり、現在、欧米と並んで世界で最も透明度4の高い市場のひとつにランクされている(図表-2)。

また、比較的金利の高いオーストラリアの不動産投資利回りは欧米や日本よりも高くなっており5、近年の世界的な低金利環境のもと、少しでも高い利回りを求める世界の投資家にとって魅力的に映っている。

加えて2013年以降、為替市場において豪ドル安が大幅に進み(図表-3)、米ドル建てでみた不動産価格の割安感が強まってきたこともあり、海外資金によるオーストラリアの不動産取得が加速したとみられる。
図表-1 海外資金によるオーストラリアおよび日本国内の不動産取得額
図表-2 不動産市場透明度指数(JLL)/図表-3 為替市場・豪ドル/米ドルの推移
 
1 長期の賃料収入確保を目指す一般的な不動産投資をコア型と呼ぶ。対して、取得後の追加投資により売却可能価格の引き上げを目指すバリューアップ型、破綻企業の不動産に投資するオポチュニステック型などがある。
2 日本不動産研究所による日本全国のオフィスビルストックは約11,000万㎡(うち約6割が東京、2015年1月時点)、対して、英サビルズによるシドニーのオフィスビルストックは約800万㎡(2016年1Q時点)。各社で集計方法などが違うため、単純比較はできないものの、日本とオーストラリアのオフィスストックの格差は大きいとみられる。
3 日本のJ-REIT、シンガポールのS-REITの初上場はともに2002年。
4 JLLとラサールインベストメントマネジメントが、グローバルネットワークを活用して収集した定量的データとアンケート調査の結果を対象項目ごとに検証、数値化。大きく、「パフォーマンス測定」、「マーケットファンダメンタルズ」、「上場法人のガバナンス」、「規制と法制度」、「取引プロセス」の5つに分類している。
5 英サビルズによると、2016年1Q時点のグレードAオフィスの投資利回り(CAPレート)は5.25%~6.5%。
 

2.経済環境と不動産市況

2.経済環境と不動産市況

オーストラリアは資源国のイメージが強く、実際、輸出品目の1位は鉄鉱石、2位も石炭6と鉱物資源が上位に並んでいる。こうした鉱物資源の最大の輸出先が中国であるため、オーストラリアの輸出額は資源価格および中国の景気動向に大きく左右される。よって、豪ドルの為替レートは中国の景気動向などに連動する性質が強く、特に、リスクオフ時に回避先となる日本円に対する変動は非常に激しい。そのため、とりわけ日本の投資家にとって、オーストラリアはハイリスクな資源国のイメージが強いとみられる。

しかしながら、オーストラリアのGDPを産業別にみると、欧米の先進国と同様、第3次産業が7割以上を占めており、第1次、2次産業の比率は低い。輸出入についても、鉄鉱石と石炭が主要な輸出品目である一方、原油と精製油がそれぞれ輸入品目の2位、3位7を占めており、鉱物資源の輸出に一方的に依存した経済ではない。国内に限ってみると、成熟したサービス業が基盤となっており、経済構造は安定的といえる。

また、都市毎に経済構造が大きく異なっており、パースやブリスベンなどの資源会社の開発拠点都市は、地域経済が資源関連事業に大きく依存している。一方、国内経済の中心としてサービス業が集積するシドニーでは、資源関連事業の存在感は小さい。そのため、資源価格の低迷を受けて不動産市況が悪化する各都市を横目に、サービス業が主体のシドニーでは、資源価格の不動産市況への影響は軽微で、海外資金による不動産取得も活発となっている。
 
6 外務貿易省統計によると、2013/14年度の輸出額に占める割合は、鉄鉱石が22.6%、石炭が12.1%。
7 外務貿易省統計によると、2013/14年度の輸入額に占める割合は、石油が6.7%、精製油が6.0%、1位は個人旅行サービスの8.25%。
 

3.シドニーのオフィステナント

3.シドニーのオフィステナント

シドニーの賃貸オフィス市場をみると、サービス業、なかでも金融、不動産セクターのテナントが占める比率が高く、特にCBD(中心業務区域)のオフィステナントの大半を金融、不動産セクターが占めている。国内の金融機関に加え、欧米やアジアの金融機関も多く、オーストラリアに進出する海外の金融機関のほとんどが、シドニーにオフィスを構えている。

金融セクター以外では、ITや通信など消費者向けのサービス業やその他の製造業など、様々なテナントが混在している。政府系団体や学校といった公的セクターも一角を占めており、公的不動産の民営化8が進んだオーストラリアでは、公的セクターによる民間オフィスの賃貸需要も比較的大きい。公的不動産が膨大9に存在する日本とは対照的であり、オーストラリアの地方都市では公的セクターが最大のオフィステナントとなっているケースも少なくない。一方、資源関連企業については、シドニーのオフィステナントとしての存在感は小さい10

こうした特徴に加え、シドニーのオフィステナントについては海外企業比率の高さも特徴となっている。グローバル展開する金融機関が多いほか、英連邦王国であることから、多数の英語圏を主体とする欧米企業がオーストラリアで事業展開している。そのため、シドニーのオフィス需要動向は、概ねグローバル景気に連動するといえる。

資源価格や中国の景気動向は、シドニーでも比較的少数の資源関連企業のオフィス需要を直接的に左右する。しかし、シドニーのオフィス需要にとってより影響が大きいのは、グローバル景気を介した、あるいは、豪ドルの為替変動に左右される輸入企業や国内の消費動向を介した間接的な影響である。
 
8 不動産に限らず、空港や高速道路などのインフラ施設の民営化も進んでおり、年金基金や民間の投資ファンドが多数の施設を所有している。
9 国土交通省によると、日本国内の公的不動産は約570兆円に達し、国内の不動産資産の24%(平成24年末時点)に相当する。
10 シドニーのオフィステナントにおいて資源関連企業が占める比率は数%に過ぎないと言われ、たとえば、世界有数の資源会社であるリオティントは2012年にシドニーオフィスを閉鎖している。
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増宮 守

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