2016年05月24日

EUソルベンシーIIの動向-各国の保険監督制度の同等性評価を巡る最近の動きはどうなっているのか-

中村 亮一

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2|20151126日の欧州委員会の決定

さらに、欧州委員会は2015年11月26日に第三国の同等性評価に関して、以下の2点の内容を採択した。
第三国の同等性評価(2015年11月26日)
なお、これらの決定についても、欧州議会及び欧州理事会による精査や承認も得られ、3月に正式決定している。

バミューダについては、既に6月5日の段階で、グループ・ソルベンシー評価の暫定同等性が得られていたが、その後7月に、ソルベンシーⅡの同等性に対応するため、新たな保険規制が採択されたことを受けて、スイスと同様に、完全同等性の位置付けが与えられることとなった。

これにより、バミューダの保険会社は、国内での税制や規制面での有利な取扱から得られるベネフィットを享受しつつ、EUの保険会社との取引において、EUの保険会社と同等の競争条件が認められることになった。

日本については、2015年3月に公表されたEIOPAによる最終評価レポートにおける評価に基づいて、再保険については「一時的同等」、グループ・ソルベンシー評価については「暫定同等」ということになった。 欧州委員会は、EIOPAによる技術的サポートを受けて、今後5年間に、日本における再保険契約に対する規制制度の進展や完全同等性の条件達成に向けての評価を行っていくことになる。

4―今後の動き

4―今後の動き

1|ここまでの状況の総括

3で述べたように、2016年4月末の時点で、完全同等性の評価が与えられたのは、スイスとバミューダの2カ国のみである。それ以外では、日本の再保険に対する一時的同等性が認められた以外は、日本を含めた6カ国にグループ・ソルベンシー評価の暫定同等性が認められただけとなっている。

EUの保険会社にとっては、グループ・ソルベンシー評価の同等性が最も重要であることから、優先順位が高くなっているのは止むを得ない。

第三国の保険会社にとっては、むしろ再保険やグループ監督の取扱が大きな意味を有している。

第三国の「再保険」の同等性が認められないと、こうした国々の再保険会社は、技術的準備金をカバーするための資産をEU内に保持することを求められることにもなり、EUの再保険会社に比べて、不利な立場に置かれることになる。さらには、日本とバミューダの再保険の同等性が認められたことから、例えば米国の再保険の同等性が認められなければ、これは米国の再保険会社にとって容認しがたい状況となる。こうした状況を踏まえて、米国の再保険協会も、EUと米国という2大市場における再保険会社に対する競争条件の平等化を強く要望している。

また、「グループ監督」の同等性については、もしこれが認められなければ、EUに子会社や支店を有するEU域外の保険グループは、EUにおける中間持株会社のようなサブグループを設立するという代替的な手段を考慮しなければならなくなる。EU加盟国の監督当局がこうした手段を認めなければ、EUにおけるグループ監督に服さなければならなくなることにもなる。
2|EUと米国との対話プロジェクト

EUと米国との間では、両者の監督規制の枠組みの相互理解を達成する目的で、2012年に「EU-US対話プロジェクト5」がスタートしており、再保険6やグループ監督を含めて各種の議論等が行われてきている。そこで得られる情報等が同等性評価等に重要な役割を果たしている。

現在、EUの保険会社は、ソルベンシーIIと米国の再保険担保要件の両方を遵守しなければならないが、これについては、現在、EUと米国の間で、「カバード・アグリーメント(Covered Agreement)7」の採択に関する協議8が行われている。カバード・アグリーメントが採択されれば、米国において、EUの保険会社が事業展開することが容易になり、一方で米国の保険会社が欧州で事業展開することを容易にするソルベンシーIIの同等性評価に向けた足掛かりになるものと見なされている。

2015年11月に、米国の財務省と通商代表部(USTR)は、EUとのカバード・アグリーメントの交渉を開始することを公表した。2016年2月には、「保険と再保険に関する2者間合意に向けての米国とEUの交渉に関する共同声明」を公表し、「両者は、効率的かつ迅速に行動することに合意し、グループ監督、監督当局間の機密情報の交換及び担保を含む再保険監督に関係する事項についての合意を誠実に追求することを確認した。」と述べている。

ただし、カバード・アグリーメントの採択については、米国内でも、連邦と州との規制問題等も関係していることから、一筋縄では行かない可能性もあり、今後の動向は注視していく必要がある。
3|評価対象国及び評価対象分野の拡大

これまでに、少なくとも1つの監督分野で同等性評価を受けた国は、8カ国に限定されている。

今後さらに評価対象国及び評価対象分野が拡大していくことが期待されている。当初の計画では、昨年の段階でさらなる評価範囲の拡大が期待されていたが、内部モデル承認の評価等の課題も抱える中で、計画も縮小されてきた。

こうした中で、欧州の保険業界団体であるInsurance Europeも、欧州委員会に対して、既にEIOPAによる同等性評価の分析を受けている、中国、香港、シンガポール、イスラエル、チリ、南アフリカ及びトルコといった国々に対して、同等のステータスを認めるように働きかけている。

これらの国々に子会社等を有しているEUの保険会社にとっては、これらの子会社等に対してソルベンシーIIによる規制が課せられることは、他のローカルの保険会社等にはない追加の事業運営負荷や規制コストを負担しなければならないことを意味することになるため、できる限り回避したいと考えている。

なお、こうした国々以外にも、韓国、台湾、タイ等においても、欧州保険グループの有意なプレゼンスを有する子会社等がある場合には、同等性が認められることが期待されている。

因みに、保険料収入で世界のトップ20の国に対する同等性評価の現状は、次ページの図表の通りとなっている。
世界のトップ20の保険市場のEUソルベンシーⅡとの同等性評価の状況(◎:完全同等、○:一時的・暫定同等)
 
5 米国からはNAIC(全米保険監督官協会)及びFIO(連邦保険局)、EUからは欧州委員会、EIOPA等が参加している。
6 米国も米国外の再保険会社への出再に対しては担保を要求する等の規制を課してきており、一部の適格国(2015年1月1日時点で、バミューダ、フランス、ドイツ、アイルランド、日本、スイス、英国の7カ国)からの高格付けの再保険会社との取引については担保割合を削減する等の緩和を進めてはいるが、例えばEUの全ての国が適格国に該当しているわけではなく、EUはこの点の修正を要求している。
7 「カバード・アグリーメント」とは、米国において、州による保険や再保険事業の規制に対して、必要な場合に、財務省や通商代表部(USTR)が行使する独自の予備権限として、ドッド・フランク法において導入された概念である。
8 第1ラウンドが2月にブリュッセルで開催され、第2ラウンドが5月にワシントンで開催される。

5―まとめ

5―まとめ

以上、EUの同等性評価を巡る状況について報告してきた。

そもそも、グローバルで事業展開をする保険会社にとって、世界的に規制内容が統一されていくことは、望ましい方向である。EUの保険会社にとって、世界各国の監督規制がソルベンシーIIと同等であると認められていくことも、望ましいことである。ただし、当然のことながら、評価を行うEUの監督機関の立場から考えれば、それが実態を適正に表しているものであり、そのベースとなる原則的な考え方に整合性がないと、同等であるとの評価を与えることは難しい状況にある、と思われる。

一方で、現在、IAIS(保険監督者国際機構)において、EUのソルベンシーIIも踏まえつつ、グローバルな資本規制であるICS(国際資本基準)の検討が進められている。各国の監督当局の立場からすれば、このような形で国際的に統一された資本基準が構築されていくのであれば、必ずしもソルベンシーIIとの完全な同等性を追求する必要性はないものとも考えられる。

さらに、EU域外の保険会社の立場からは、自国の保険監督について、ソルベンシーIIとの同等性が認められることは望ましいことではあるが、一方でその目的のために、自国の監督規制がソルベンシーIIに準じる形で複雑化・厳格化していくことについては懸念も感じているようである。

こうした状況の中で、各国の監督当局は、IAISやEIOPA等における今後の監督規制に関する議論の展開を考慮に入れながら、自国の状況にマッチした規制の構築や改革に取り組んでいくものと思われる。

いずれにしてもEUのソルベンシーIIとの同等性評価を巡る動きについては、各国の監督当局にとっても関心の高い項目だけに、EUが各国の保険監督制度をどう評価し、各国間でどのような調整が行われていくのかについては、大変興味深く、今後とも注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年05月24日「保険・年金フォーカス」)

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