2016年05月24日

EUソルベンシーIIの動向-各国の保険監督制度の同等性評価を巡る最近の動きはどうなっているのか-

中村 亮一

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■要旨

EU(欧州連合)のソルベンシーIIは、2016年1月にスタートしたが、これに関連して、EU加盟国の保険監督当局から構成されるEIOPA(欧州保険年金監督機構:European Insurance and Occupational Pensions Authority)を中心に、EU域外の国(第三国)の保険監督制度に対して、ソルベンシーIIとの同等性評価が行われてきている。この動きについては、基礎研レター「EUソルベンシーIIの動向-各国の保険監督制度の同等性評価の現状はどうなっているのか-」(2015.8.10)(以下、「前回のレター」という)で報告した。

今回のレポートでは、前回のレター後の同等性評価を巡る状況について報告する。

■目次

1―はじめに
2―EUソルベンシーIIとの同等性評価の概要
  1|同等性評価の3つの監督分野
  2|同等性の3つのタイプ
3―同等性評価の実施状況
  1|2015年6月5日の欧州委員会の決定
  2|2015年11月26日の欧州委員会の決定
4―今後の動き
  1|ここまでの状況の総括
  2|EUと米国との対話プロジェクト
  3|評価対象国及び評価対象分野の拡大
5―まとめ

1―はじめに

1―はじめに

EU(欧州連合)のソルベンシーIIは、2016年1月にスタートしたが、これに関連して、EU加盟国の保険監督当局から構成されるEIOPA(欧州保険年金監督機構:European Insurance and Occupational Pensions Authority)を中心に、EU域外の国(第三国)の保険監督制度に対して、ソルベンシーIIとの同等性評価が行われてきている。この動きについては、基礎研レター「EUソルベンシーIIの動向-各国の保険監督制度の同等性評価の現状はどうなっているのか-」(2015.8.10)(以下、「前回のレター」という)で報告した。

今回のレポートでは、前回のレター後の同等性評価を巡る状況について報告する。

2―EUソルベンシーIIとの同等性評価の概要

2―EUソルベンシーIIとの同等性評価の概要

EUソルベンシーIIとの同等性評価については、評価に用いる「原則」、「目的」、「指標」等を示したコンサルテーション・ペーパー No. 78(CP 78)1が、2009年11月に公表されている。その後、このペーパーに示された考え方等に基づいて、「再保険」、「グループ・ソルベンシー評価」、「グループ監督」の3つの監督分野について、同等性評価が実施されてきている。
上記3つの各監督分野において、ある第三国の保険監督制度がソルベンシーIIと同等と認められた場合には、その第三国での規制に従う保険会社が、EUの規制に従う保険会社と(同等と認められた監督分野において)同等に取り扱われることになる。
1|同等性評価の3つの監督分野

(1)再保険(ソルベンシーII指令の第172条)
第三国の再保険会社(再保険事業を行う会社を含む)が関係する。
第三国のルールが同等だと評価されれば、その国の再保険会社は、EEA(欧州経済領域)2の監督当局によって、EEAの再保険会社と同様に取り扱われなければならない。このことは、EEAの保険会社が第三国の再保険会社との再保険取引を締結する魅力を高めることになる。

(2)グループ・ソルベンシー評価(ソルベンシーII指令の第227条)
第三国で事業を行うEEAの保険会社が関係する。
第三国のルールが同等だと評価されれば、EEAの国際的に活動している保険グループが、その子会社等のソルベンシー評価において、ソルベンシーIIではなく、ローカル基準を使用することが認められることになる。このことは第三国における子会社等がソルベンシーII要件に合致するようにデータを再計算する必要性を軽減することになる。

(3)グループ監督(ソルベンシーII指令の第260条)
EEAにおいて事業活動を行う第三国の保険会社が関係する。
第三国のルールが同等だと評価されれば、EEAの監督当局は一定の条件下で第三国によって行われるグループ監督に依存することになる。これにより、第三国の国際的に活動している保険グループが二重のグループ監督から発生する不必要な負担から解放されることになる。
2|同等性の3つのタイプ

評価により決定される同等性には、以下の3つのタイプがある。なお、同等性が認められる期間に差異はあるものの、いったん同等性が認められれば、(1)と(2)又は(3)について、実質的な取扱に差異はないものと考えられている。

(1)完全同等性(Full Equivalence)
3つの全ての監督分野が対象で、無制限の期間有効

(2)一時的同等性(Temporary Equivalence)
(完全同等性に向けて進展がなされているならば)再保険とグループ監督が対象で、5年(2020年12月31日(1年延長の可能性有))まで有効
一時的同等性が認められるためには、同等と評価できる健全な制度を採用・適用し、将来の同等性評価プロセスに従事することをコミットしなければならない。さらに、経過期間内にそのコミットメントを果たすために、ワーク・プログラムを設定し、十分なリソースを割り当てたことを示さなければならない。

(3)暫定同等性(Provisional Equivalence)
(完全同等性に向けて進展がなされているならば)グループ・ソルベンシー評価が対象で、10年(さらに10年更新可能)まで有効
暫定同等性が認められるためには、現在の制度が完全同等性の要件を満たすことができること、又は将来そのような制度が採用され、適用されるということを示さなければならない。
 
1 第三国同等性評価に係るコンサルテーション・ペーパー No. 78
http://archive.eiopa.europa.eu/fileadmin/tx_dam/files/consultations/consultationpapers/CP78/CEIOPS-CP-78-09-L2-Advice-Equivalence-for-reinsurance-and-group-supervision.pdf
2 EU加盟28カ国にスイスを除くEFTA加盟国のアイスランドリヒテンシュタインノルウェーを加えた31カ国
 以下では、実質的にEEAを指している場合でも、代表する形でEUの表現を使用している。
 

3―同等性評価の実施状況

3―同等性評価の実施状況

同等性評価に関して、これまでに決定された結果は、以下の通りである。

1|201565日の欧州委員会の決定

前回のレターで報告したとおり、欧州委員会(European Commission)は2015年6月5日に第三国の同等性評価に関して、以下の2点の内容を採択した。
第三国の同等性評価(2015年6月5日)
こうして、欧州委員会で採択された内容については、原則3ヶ月以内(ただし、期限の3ヶ月延長が可能)に、欧州議会(European Parliament)及び欧州理事会(European Council)による精査と承認が行われる。その後、Official Journal of the European Unionに公表され、20日後に施行される。

上記の決定に対しては、前回のレターで、②に関して、欧州理事会の経済・財務相理事会(ECOFIN)が7月14日に採択案を承認したが、欧州議会での承認手続きに時間がかかっていることを述べた。ただし、その後、これについても無事12月に異議申し立ての期間を過ぎて、承認が得られた形になっている。

これにより、スイスについては、再保険、グループ・ソルベンシー評価及びグループ監督の3つの分野に関しての同等性評価が認められることとなり、EUで事業を行うスイスの保険会社はEUの保険会社と同等の条件で事業を行うことが可能になった。

また、米国等については、グループ・ソルベンシー評価の暫定同等性が認められたため、EUの保険会社が米国等における子会社や子会社グループのソルベンシー資本を「控除と集計(deduction and aggregation)」手法に基づいて算出する上で、ソルベンシーIIを使用するのではなく、米国等のソルベンシー・ルールを使用することができる4こととなった。

ただし、これは、あくまでもEUの保険会社に対してメリットを与えるものである。米国等の6カ国からの保険会社のEUにおける事業の規制取扱については何の直接的な影響も与えない。
 
3 バミューダの同等性の評価においては、(EIOPAの最終評価の通り)キャプティブや特別目的の保険会社は除かれている。
4 ただし、具体的な算出方法については、米国子会社の資本要件の、ソルベンシーIIにおけるSCR(ソルベンシー資本要件)への反映比率に幅があることに示されているように、欧州保険グループ間で必ずしも統一されていない。
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中村 亮一

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