2016年05月20日

“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(2)~健診受診年から5年後のリスク

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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■要旨

肥満でなくても、血液や血圧のうち複数項目が基準外である場合(いわゆる“かくれメタボ”)が問題となっている。“かくれメタボ”は、メタボと同様に心臓病を発症するリスクが高いが、現在の肥満を前提とする保健指導では、指導の対象外となっている。

そこで、健康診断結果データとレセプトデータを使って、標準的に使用されているメタボ判定を細分化した判定基準を作成し、細分化した判定結果ごとの生活習慣病リスクを確認した。まず、前稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)」では、メタボ判定の結果と、健診受診年の生活習慣病による入院との関係や医療費を分析した結果を報告した。続く本稿では、「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(2)」では、最初のメタボ判定の結果別に、5年後の判定結果や5年後の生活習慣病との関係を分析した結果を報告する。

■目次

1――“かくれメタボ”は肥満でなくても生活習慣病リスクが高い
2――分析方法
  1|分析対象者の概要
  2|メタボ判定基準の概要
3――分析結果
  1|5年間のメタボ判定の変化
  2|メタボ判定と、5年後の生活習慣病による入院発生率
4――「腹囲なしメタボ」「腹囲だけ」にも長期的な注意喚起が必要

1――“かくれメタボ”は肥満でなくても生活習慣病リスクが高い

 

1――“かくれメタボ”は肥満でなくても生活習慣病リスクが高い

「メタボ」(正式には「メタボリックシンドローム」。以下「メタボ」とする。)とは、内臓脂肪が蓄積されることで代謝異常が重なり、心臓疾患や脳疾患、糖尿病などの生活習慣病の発症リスクが高い状態を言う。現在、国の生活習慣病対策は、血液や血圧の測定値が基準外である肥満者を「メタボ」や「メタボ予備群」と判定し、保健指導を行ってきた。

しかし、非肥満でも血液(血糖、脂質)や血圧のうち複数項目が基準外である代謝異常の有病者(いわゆる“かくれメタボ”)は、「メタボ」と同様に、メタボに該当しない健康な人に比べて心臓病を発症するリスクが高い。そこで、「特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会」において、これまでの肥満を条件に指導対象者を選んできた制度を見直し、肥満でなくても血圧などの検査値が基準を超えれば、「非肥満保健指導」の対象とする方針が打ち出した。

このような背景のもと、健康診断結果データとレセプトデータを使って、“かくれメタボ”などの生活習慣病リスクを分析した。分析では、標準的に使用されているメタボ判定を細分化した判定基準を作成し、判定結果ごとの生活習慣病リスクを確認した。

まず、前稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)」では、メタボ判定の結果と、健診受診年の生活習慣病による入院との関係や医療費を分析した。その結果、肥満1でなくても、血液や血圧の測定値に基準外の項目が複数あると、健診受診年の生活習慣病による入院発生率2は高かった。また、血液や血圧の状態が同じであれば、腹囲が基準外だと高かった。入院発生率の高さに伴い、医療費も血液や血圧の測定値で複数の基準外がある場合や腹囲が基準外である場合に高い傾向があった。「腹囲だけ」が基準外の場合は、健診受診年の生活習慣病リスクは「メタボなし」と同様に低かった。また、腹囲を測定していない「腹囲なし」も基準外が複数あるほど入院発生率は高かったが、若年が多いことから相対的にリスクは低かった。

続く本稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(2)」では、最初のメタボ判定の結果と、5年後の判定結果や5年後の生活習慣病との関係を分析した結果を報告する。
 
 

1    肥満かどうかは、本稿においては「腹囲」が定められた基準内であるかどうかで判定している。詳細は、図表2、3をご参照ください。
2    一度でも、該当する生活習慣病で入院をした人の割合。

2――分析方法

 

2――分析方法

使用したデータとメタボ判定基準は、「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)」と同じである。
 
1分析対象者の概要
(1) 使用したデータ
分析に使用したデータは、(株)日本医療データセンターによる健康診断結果データベースとレセプトデータベースである3。これらのデータベースは、個人を特定しうる情報を完全に削除した上で市販されており、各種研究で活用されている。健康保険組合のデータであるため、60歳以上のデータが少ないほか、2008年度以降は後期高齢者医療制度が施行されたため75歳以上のデータを含まない。
図表1 分析対象者の男女別年齢分布(1回目の健診時) (2) 分析対象者
本稿では、2007~2014年のデータのうち、2007~2009年と、それぞれその5年後にあたる2012~2014年の少なくとも2時点で健診4を受けたサンプルを分析対象とした。データ期間中に3回以上健診を受けているサンプルは、より新しい5年間を分析対象とした。

分析対象となったのは133,892人である。対象者の1回目の健診受診時の男女別年齢分布は、図表1のとおりだった。
 
図表2 健診項目の「基準外」の定義 2メタボ判定基準の概要
今回の分析では、メタボの判定基準は特定健診で標準的に測定されている健診項目を用いた。肥満の判定は腹囲で行い5、判定で使われる腹囲や血液(血糖と脂質)と血圧の「基準外」は厚生労働省のホームページに掲載されている定義(図表2)を用いた。このように標準的な健診項目と基準値を用いた上で、腹囲の測定値に注目して、通常のメタボ判定を細分化した判定基準を作成した(図表3)。
図表3 本稿で使用した「メタボ判定」 例えば、腹囲が基準内であり、血液や血圧が基準外である場合は、「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」または「腹囲基準内メタボ予備群」とした。また、腹囲を測定していない場合で、血液や血圧の測定値が基準外である場合は、「腹囲なしメタボ」または「腹囲なしメタボ予備群」とした。これらはいずれも、標準的なメタボ判定では「メタボ」に該当しない。

なお、これらの判定がつかないものは「判定不能(未受診項目あり)」とした6
 
 
3    データの一部を2012年度財団法人かんぽ財団の研究助成で購入した。本稿の発行にあたっては、(株)日本医療データセンター倫理委員会(IRB)にて内容の確認を行っている。本稿は、(株)日本医療データセンターの提供したデータに依存しており、筆者はその質についてチェックしていない。
4    40歳以上が受ける特定健診を含む。
5    肥満の基準は、CT撮影で腹部の断面を撮影した場合に「内臓脂肪の面積が100cm²以上」に相当する水準で決まっている。健診においては、CT撮影を行うより簡易に測定できる腹囲やBMIによる基準を使うことが多い。腹囲とBMIの関係については最終ページの(参考)をご参照ください。
6    図表3の条件より、腹囲、血液(血糖、脂質)、血圧の測定値のうち1つでも基準外の項目があれば、「判定不能(未受診項目あり)」以外に分類される。そのため、「判定不能(未受診項目あり)」には、メタボ判定に必要な項目をすべては測定していないものの、測定した項目については基準内だったサンプルが分類されている。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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