2016年05月19日

2016・2017年度経済見通し(16年5月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2.実質成長率は2016年度0.9%、2017年度0.0%を予想

(2016年4-6月期はマイナス成長も景気は夏場にかけて持ち直しへ)
2016年1-3月期は2四半期ぶりのプラス成長となったが、4-6月期はうるう年による押し上げの反動、熊本地震の影響、円高の顕在化による輸出の減少などから前期比年率▲0.5%のマイナス成長となるだろう。ただし、1-3月期とは逆に統計上の技術的な要因により成長率が押し下げられる(年率▲1%程度)ため、表面的な数字で過度に悲観する必要はない。
過去の震災時の経済指標の動きを確認すると、震災発生直後には個人消費や鉱工業生産を中心に経済活動の水準が大きく落ち込むが、翌月以降は持ち直しに向かっている。被災地では深刻な状況が続いているが、震災の影響で日本経済の低迷が長期化する可能性は低いだろう。
大震災後の鉱工業生産/大震災後の個人消費
長期にわたり低迷が続いてきた民間消費はうるう年による押し上げの反動で2016年4-6月期は前期比ほぼ横ばいにとどまるものの、雇用所得環境の改善が続く中、物価上昇率の低下によって実質所得が押し上げられることが下支えになり、徐々に持ち直しに向かう可能性が高い。また、公的固定資本形成は2016年度当初予算の前倒し執行、熊本地震の復旧に向けた補正予算による押し上げから、2016年度入り後は高めの伸びとなることが予想される。
実質GDP成長率の推移(年度) 7-9月期は民間消費の伸びが高まることなどからプラス成長に復帰し、2016年度末にかけては2017年4月に予定されている消費税率引き上げ(8%→10%)前の駆け込み需要によって成長率が高まることが予想される。2017年度は駆け込み需要の反動と消費税率引き上げに伴う実質所得低下の影響からゼロ成長となるだろう。実質GDP成長率は2016年度が0.9%、2017年度が0.0%と予想する。
なお、当研究所では2017年4月の消費税率引き上げ前後の駆け込み需要とその反動の規模を実質GDP比で0.3%程度と試算しており、前回(2014年4月)の0.6%程度(当研究所の試算値)よりも小さくなることを想定している。これは税率の引き上げ幅が前回よりも小さいこと、駆け込み需要が発生しやすい住宅、自動車など買い替えサイクルの長い高額品については、前回の税率引き上げ時にすでに前倒しで購入されている割合が高いこと、食品(酒類、外食を除く)などに軽減税率が導入されること、などによる。
また、2017年4月の消費税率引き上げによって消費者物価(生鮮食品を除く総合)は1.0%押し上げられると試算される(軽減税率導入の影響も含む)。2014年度に比べて税率の引き上げ幅が小さいこと、軽減税率によって物価の押し上げ幅が縮小することから、消費者物価上昇率への影響は2014年度(2.0%)の半分程度となろう。
実質雇用者報酬の予測 (需要項目別の見通し)
実質GDP成長率の予想を需要項目別にみると、民間消費は2015年度の前年比▲0.3%から2016年度には同1.5%と増加に転じた後、2017年度は消費税率引き上げの影響から同▲1.2%の減少となるだろう。
016年の春闘賃上げ率は前年の伸びをはっきりと下回った。このため、一人当たりの名目賃金の伸びが大きく高まることは期待できないが、企業の人手不足感の高さを背景に雇用者数が増加を続けること、円高、原油価格下落の影響で物価上昇率が低下することから、実質雇用者報酬は2015年度の前年比1.7%に続き、2016年度も同1.7%と1%台後半の伸びを確保すると予想する。また、年金生活者向けの臨時給付金の支給も家計の可処分所得を一定程度押し上げる。
前述したとおり耐久消費財のストック調整圧力が残存していること、2016年初からの株価下落による逆資産効果が引き続き消費の抑制要因となる可能性があることには留意が必要だが、実質所得の増加を主因として民間消費は回復に向かう可能性が高いだろう。
設備投資/キャッシュフロー比率と期待成長率の関係 2015年度の設備投資は前年比1.6%と2014年度の同0.1%から伸びを高めたが、企業収益が好調を続けてきたことからすれば低い伸びにとどまった。
内閣府の「企業行動アンケート調査(2015年度)」によれば、今後5年間の実質経済成長率見通し(いわゆる期待成長率)は1.1%となり、前年度から0.3ポイント低下した。企業の設備投資意欲を示す「設備投資/キャッシュフロー比率」は期待成長率との連動性が高いため、先行きも企業の投資意欲が大きく高まることは見込めない。足もとでは2015年度半ば以降の企業収益の悪化を受けて設備投資は大きく減速しているが、円高の影響などから企業収益の減速傾向はしばらく続く可能性が高い。設備投資の回復が本格化するまでには時間を要するだろう。
公共工事請負金額、出来高の推移 公的固定資本形成は2015年7-9月期が前期比▲2.2%、10-12月期が同▲3.5%と大きく落ち込んだ後、2016年1-3月期は同0.3%と減少に歯止めがかかった。先行指標の公共工事請負金額は2015年3月が前年比5.0%、4月が同10.6%と急増している。1/20に成立した2015年度補正予算の執行、2016年度当初予算の前倒し執行の効果が顕在している可能性が高い。また、熊本地震からの復旧に向けた事業を盛り込んだ2016年度補正予算(予算規模は7780億円、5/17予算成立)は7-9月期以降の公的固定資本形成を押し上げることが見込まれる。公的固定資本形成は2014年度、2015年度と2年連続で減少したが、2016年度は3年ぶりに増加し、景気を一定程度下支えする役割を果たしそうだ。
日本から見た海外経済の成長率 2016年1-3月期の輸出は前期比0.6%と2四半期ぶりの増加となったが、円高の影響が顕在化することにより4-6月期には減少に転じると予想する。海外経済は米国、欧州は比較的堅調だが、中国をはじめとした新興国経済は減速傾向が続いている。日本の輸出ウェイトで加重平均した海外経済の成長率は2012年以降、過去平均(1980年~)を下回り続けているが、2016年の伸びは2015年からさらに低下することが予想される。当研究所では米国の利上げ再開、日本の金融緩和継続を背景とした日米の金利差拡大を主因として徐々に円安・ドル高が進むと予想している。しかし、海外経済の低成長が続く中で円高がさらに進行するようであれば、輸出の失速を起点とした景気後退のリスクが高まるだろう。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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