コラム
2016年05月16日

子どもの数と「世帯主の勤務先」-少子化社会データ再考・親の勤務先はどう影響するか-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【夫が家事・育児参加するほど、第二子以降の生まれる割合が高くなる】

図表4は日本においては、夫が育児・家事に関与する時間が長いほど、第二子以降が出生している割合が高くなる、という大変面白いデータである。

現在の日本において、第二子以降、1人でも多くの子を望むならば、夫が家事・育児に参加できる時間が増えたほうが希望は叶い易いことを図表4は示している。しかし、夫がいくら家事・育児に時間をもっと費やしたいと希望しても、労働時間の問題でバランスをとることが困難になる場合もあるだろう。

そこで、上の図表2と図表3で示した勤務先の中で企業に勤務しているサラリーマンのケースについて、その労働時間は一体どうなっているのかについてのデータを次に検討してみたい。
【図表4】夫の休日の家事・育児時間別 第二子以降出生状況(8年間累計)
【労働時間の格差が子どもの数に影響?】

図表5は、労働基準法で定められた法定労働時間(1週40時間以内、かつ、1日8時間以内とし、休日を1週に1日以上与えること。労働基準法第32、35条。)を超える「法定時間外労働」(以下、残業)がどの程度発生しているかを従業員規模別に表したデータである。

企業規模が大きくなるほど最長時間従業員の平均残業時間が長くなっている。しかも、労働者に残業を課す場合には企業が必ず役所に届け出なければならない36協定(正式名称:「時間外・休日労働に関する協定届」。 労働基準法第36条。)の月当たり上限の45時間を残業時間が超える労働がある事業所の割合が、大企業になるほど激増してゆく様子も明確となっている。
【図表5】法定時間外労働の実績(最長の者)
これでは、経済的に安定しているとされる大企業に勤務すればするほど、労働時間の増加によって、勤務者が家事・育児に費やす時間が奪われてしまう可能性が高まることになる。

この図表5の結果と先ほどの図表4の結果を照合すると、「大企業に勤務すればするほど第二子以降をもつことが難しくなる」という結論が導き出され、それはそのまま、図表2・図表3の結果が示している「経済的に安定している勤務者世帯ほど多子家庭形成に消極的」を支持する結果となっている。
【時間泥棒が子どもを奪う、二者択一社会】

総務省統計局の平成26年経済センサスによれば、大企業2に従事する従業員は1458万人、中小企業に従事する従業員は3336万人である。サラリーマンの30.4%が大企業に、69.6%が中小企業(ただし、ここには図表1の定義の大企業も含む)に勤務していることになる。
 
図表1からサラリーマン世帯は、子どもをもつ世帯として主力世帯であり、少子化対策を考える際には「サラリーマン世帯における出生力の向上」はもっとも注力しなければならないところである。

しかしながら、今回の考察の結果では、安定企業に世帯主が勤務する世帯ほど、多子世帯に消極的になる、ということ、ならびに、出生力の足かせになっているのが「労働時間」ではないか、ということが示唆された。
 
簡単に言うならば、今の日本は「経済的安定を取るか、子どもの数をとるか」の二者択一社会の矛盾に悩まされている、ということが出来るだろう。
 
ドイツの哲学者、ミヒャエル・エンデの「モモ」の世界ではないが、まさに今の日本は、「時間泥棒に将来の子どもたちを奪われている社会」、そういえるのではないだろうか。
 
2 経済センサスにおける定義である。以下の中小企業に属さない企業。
 ここでの中小企業とは、
 ア 製造業、建設業、運輸業その他の業種:資本金3億円以下又は常用雇用者規模300人以下
 イ 卸売業:資本金1億円以下又は常用雇用者規模100人以下
 ウ サービス業:資本金5000万円以下又は常用雇用者規模100人以下
 エ 小売業:資本金5000万円以下又は常用雇用者規模50人以下
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2016年05月16日「研究員の眼」)

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