2016年05月10日

オフィス賃料は再上昇、訪日外客数増はホテル市場に加え地価を牽引-不動産クォータリー・レビュー2016年第1四半期

加藤 えり子

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3.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
東京のオフィス市場では、賃料の上昇トレンドがより確かなものになってきている。三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料データに基づくオフィスレント・インデックス2によると、2016年第1四半期の東京都心部オフィス賃料は、Aクラスビル3で33,995円/坪、前期比+3.4%、前年同期比+9.1%となった(図表-11)。2015年第4四半期は、大型物件の供給の影響から一旦下落したものの、当期は再び上昇に転じ、2012年以降の回復基調が継続した。空室率については、前期から横ばいの3.3%で需要は底堅い。しかし、一部では賃料水準が高まったことからテナント誘致に時間がかかる傾向も見られるため、今後上昇ペースは緩和する可能性がある。Bクラスビル4の賃料も前期比+9.4%の大幅上昇となり19,971円/坪まで回復、空室率も5期連続で前期比マイナスの3.0%まで低下した(図表-12)。オフィス賃貸市況の改善は地方主要都市にも波及しており、仙台を除く主要都市で空室率の改善が見られた(図表-13)。
図表-11 東京都心Aクラスビルの賃料・空室率の推移/図表-12 東京都心Bクラスビル賃料・空室率の推移/図表-13 主要都市のオフィスビル空室率
 
2 三幸エステート株式会社『オフィスレント・インデックス』 http://www.sanko-e.co.jp/data/rent-index/publish-2016
3 述床面積10,000坪以上、基準階貸室面積300坪以上、築年数15年以内。
4 基準階面積200坪以上でAクラスに含まれないビル(築年数経過でAクラスの対象外となったビルを含む)。
(2) 賃貸マンション
東京都心5区のマンション賃料は、2012年以降緩やかな上昇基調を続けてきたが、16年に入り渋谷区以外では上げ止まり感がある。(図表14)。また、東京都心部の高級賃貸マンションは、空室率の低下傾向が続き2016年第1四半期は6.27%となった(図表-15)。前回同程度の空室率に低下した2006年第4四半期には、賃料が16,000円/坪を超えているが、当期は、15,601円/坪と16,000円/坪に届いておらず、空室率が下がっても以前ほどには賃料が上昇していない状況にある。賃料負担力のある外国駐在員等が減少し、入居者層が変化していることが要因の一つと考えられる。
図表-14 東京都心5区のマンション賃料/図表-15 高級賃貸マンションの賃料と空室率
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
業態別の商業販売額は、百貨店の変動幅が大きいが、総じて前年同期比プラスで推移している。特にコンビニエンスストアは、安定的に前年同期比プラスで推移している(図表-16)。図表-17に、東京および地方主要都市のプライム商業エリアの路面店舗賃料の推移を示した。銀座は2015年上期までは上昇が続いたが、2015年下期は前回ピークの2008年の水準までは届かずに上昇は一服した。地方主要都市では、心斎橋、天神(福岡)などが上昇基調にある。
図表-16 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの販売額(既存店、前年比)/図表-17 主要都市のプライム商業エリア路面店舗賃料
訪日外客数の過去12ヶ月合計値を各月で見ると図表-18のようになる。2016年1月以降は既に年間2,000万人を超えている状況にある。円安が顕著になってきた2015年に入って以降、増加のペースも上がってきている。その影響もあり、ホテル客室稼働率は好調が続いている。2016年に入り、全国61都市のホテル客室稼働率は2015年とほぼ同水準を維持、2016年3月は、前年同月比+0.7ポイントの82.6%であった(図表-19)。力強い需要を背景に、既存ホテルへの投資が活発化し価格が上昇するとともに、新規開発計画も相次いでいる。2015年度の宿泊業用建築物の着工床面積は、前年比40%増、着工棟数は34%増となった。しかし2005-8年の水準には戻っていない(図表-20)。
図表-18 訪日外客数の推移/図表-19全国ホテルの平均稼働率推移/図表-20宿泊業の建築着工動向
シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の16年第1四半期空室率は前期から1.4ポイント上昇し8.3%となり、2010年第4四半期以来の高い水準となった(図表-21)。新規需要は高水準ではあったが、当該四半期における12万坪の新規供給を吸収しきれなかった。竣工1年以上の空室率は1.7%と引き続き低いことから需要は底堅いが、それを上回る供給により空室率が高まった。第2四半期は13万坪を、第3四半期は9万坪をそれぞれ超える新規供給が予定されていることから、その間は空室率が高めで推移すると考えられる。近畿圏の空室率は0.1ポイント低下の3.4%となった(図表-19)。近畿圏では第3四半期に8万坪弱の過去最高となる供給が予定されていることから、2016年の後半は空室率が高まる可能性が高い。首都圏、近畿圏ともに供給増の影響で全般に賃料はやや下がると予想されるが、物件に希少性があり複数の消費地を後背地として持つ外環道周辺(首都圏)や京都周辺(近畿圏)では足元賃料は上昇しており、今後も下落リスクは相対的に低いと思われる。
図表-21 大型マルチテナント型物流施設の空室率
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加藤 えり子

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