2016年05月09日

【4月米雇用統計】賃金上昇率は加速したものの、雇用回復ペースは鈍化

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は予想を大幅に下回る

5月6日、米国労働省(BLS)は4月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は前月対比で+16.0万人の増加1(前月改定値:+20.8万人)と前月から伸びは大幅に鈍化、市場予想の+20.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も下回った(後掲図表2参照)。
失業率は5.0%(前月:5.0%、市場予想:4.9%)と、こちらは市場予想の低下に対し、前月から横這いとなった(後掲図表6参照)。一方、労働参加率2は62.8%(前月:63.0%、市場予想:63.0%)と、15年9月以来7ヵ月ぶりに前月から悪化した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:単月だけで判断できないものの、労働市場回復の持続性に疑義が生じる結果

4月の雇用者数は、前月から伸びが大幅に鈍化したほか、過去2ヵ月の雇用者数も合計▲1.9万人下方修正された。この結果、年初来の月間平均増加数は+19.2万人増となり、20万人増のペースを割り込んだほか、15年の平均+22.9万人増からペースダウンしたことが示された。
さらに、失業率は前月から横這いとなったものの、労働参加率が前月から低下したほか、非労働力人口も前月から大幅に増加した。このため、4月は職探しを諦めて労働市場から退出した人が増加した結果、労働需給を過大評価している可能性が高く、失業率も良い結果とは言えない。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と、こちらは前月および市場予想並みの増加基調が持続した。さらに、前年同月比も+2.5%(前月:+2.3%)と前月から伸びが加速したほか、市場予想(+2.4%)を上回っており、15年の2%近辺からは明確な加速がみられる(図表1)。
このようにみると4月は強弱入り混じった結果と言える。単月の結果だけで判断するのは総計だが、雇用鈍化や労働参加率の低下は、労働市場の回復基調の持続可能性に疑義を生じさせるものである。もっとも、詳細は後述するが、非農業部門雇用者数の結果を業種別にみると、雇用の伸び鈍化が業種全般に及ぶというよりも、小売、政府部門、建設と言った特定の業種に限定されており、その他のサービス業では雇用者数の伸びが加速している業種も多いほか、製造業でも雇用者数が増加に転じている。このため、来月以降の数値を注視する必要があるものの、現時点では、雇用者数の増加基調は持続していると判断している。
一方、4月の雇用統計がFRBの金融政策に与える影響については、次回のFOMCまでに5月の雇用統計も確認できることから、限定的であろう。

3.事業所調査の詳細:小売・政府部門が減少、建設業の伸びが大幅に鈍化

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+17.4万人(前月:+18.4万人)と、前月から伸びが鈍化した(図表2)。
サービス部門の中では、これまで順調な伸びを示していた小売業が前月比▲0.3万人(前月:+3.9万人)と14年12月以来の減少に転じた。一方、小売業以外では、専門・ビジネスサービスが+6.5万人(前月+3.7万人)、医療サービスが+3.8万人(前月:+3.4万人)、金融サービスが+2.0万人(前月:+1.4万人)と前月から伸びが加速しており、サービス業全体の伸びが鈍化した訳ではないことが分かる。
財生産部門は▲0.3万人(前月:横這い)と、小幅ながら減少した。資源関連が▲0.7人(前月:▲1.2万人)と減少が続いているほか、これまで好調を維持していた建設業が+0.1万人(前月:+4.1万人)と増加ペースが大幅に鈍化した。一方、製造業は+0.4万人(前月:▲2.9万人)と、こちらは3ヵ月ぶりに増加に転じた。
最後に政府部門は+▲1.1万人(前月:+2.4万人)と15年10月以来の減少となった。内訳をみると連邦政府が▲0.9万人(前月:+0.1万人)、州・地方政府も▲0.2万人(前月:+2.3万人)と、いずれも前月から減少した。
前月(3月)と前々月(2月)の雇用増(改定値)は、前月が+20.8万人(改定前:+21.5万人)と▲0.7万人下方修正されたほか、前々月も+23.3万人(改定前:+24.5万人)と▲1.2万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲1.9万人の下方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って5月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が+15.6万人(前月改定値:+19.4万人、市場予想:+19.5万人)と、BLSの雇用統計と同様に前月、市場予想を下回った。
 
4月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が25.53ドル(前月:25.45ドル)となり、前月から+8セント増加した。週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.4時間)と、こちらも前月から+0.1時間増加した。その結果、週当たり賃金は880.79ドル(前月:875.48ドル)と、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率が15年9月以来の低下

家計調査のうち、4月の労働力人口は前月対比で▲36.2万人(前月:+39.6万人)と、7ヵ月ぶりの減少となった。内訳を見ると、失業者数が▲4.6万人(前月: +15.1万人)となったほか、就業者数も▲31.6万人(前月:+24.6万人)と、前月から減少した。とくに、就業者数は13年10月の▲91.0万人以来の大幅な減少となった。非労働力人口も、労働力人口の減少を反映する形で+56.2万人(前月:▲20.6万人)と、15年6月の+59.0万人以来の大幅な増加となった。
この結果、労働参加率は62.9%と15年9月(62.4%)の底からは依然として+0.4%ポイント高い水準となっているものの、これまでの回復基調に陰りがみられる結果となった(図表5)。今後、労働参加率が再び回復基調に復するのか、低下基調に転じるのか注目される。
一方、失業率は小数第2位までとると4月は4.98%(前月:5.00%)と小幅低下した(図表6)。もっとも、前述の通り、労働参加率の低下等と併せて考えるとあまり良い結果とは言えない。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、4月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、206.3万人(前月:221.3万人)となり、前月対比では▲15.0万人(前月:+4.8万人)とこちらは4ヵ月ぶりに減少した。さらに、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも、25.7%(前月:27.6%)と前月から低下した(図表7)。平均失業期間も27.7週(前月:28.4週)と、4ヵ月ぶりに改善した。
最後に、周辺労働力人口(171.5万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(596.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、4月は9.7%(前月:9.8%)と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.7%ポイント(前月:4.8%ポイント)と、こちらも前月から▲0.1%ポイント低下した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年05月09日「経済・金融フラッシュ」)

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