2016年05月11日

創造都市ボローニャに学ぶ「公共のあるべき姿」-公共空間を活用したまちづくりと地域振興

基礎研REPORT(冊子版) 2016年5月号

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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1――はじめに

ボローニャ市のアーバンセンターを訪ねた際に、同館長から紹介された3つのまちづくり事例を報告したい。いずれも市がリーダーシップをとり、市民や起業者と共に公共空間や施設の活用を推進している事業である。

ボローニャ市はイタリアの中央部北側に位置し、人口は約37万人で横ばい傾向にある。イタリア産業の特徴を縮図したように、同市でも高度の技術をもつ中小企業がネットワークを形成し、地域経済の活力を保持している。

同市は、世界でもいち早く「創造都市」の概念を提唱し、まちづくりのイノベーションに取り組んだ都市である。世界最古のボローニャ大学が位置し、年に8万人の市民が入れ替わる若者の力に満ちた都市でもある。

2――T-days事業

T-daysは、世界歴史遺産に登録された旧市街地を、人々が自由に楽しく歩けるようにし、活性化を促そうというボローニャ市交通局の事業である。

1│対象公共物
 市中心部のリッツオリ、ウーゴ・バッシ、インディペンデンッア通りとこれらの連結部や広場からなるエリア。3つ通りがT字型を成すので、T-days事業と名付けられている。


2│事業概要

(1)事業背景
EUの都心政策に基づき、市中心部を安全で魅力ある歩行者自由空間とし、活性化を促すことが目的である。

(2)事業内容
毎週土曜日の午前8時から日曜日の午後10時まで、指定エリアへの自動車乗り入れを原則不可とし、歩行者と自転車だけが通行できるエリアとする。
2011年2月と9月に試行を行い、翌年2月から社会実験に移行し効果を確認しながら、同年5月から実施。

(3)事業スキーム
広場や道路、歩道、庭園などの公共施設の質的水準を高め、公共空間利用ルールづくりを行い、事業者や市民による活用を促進。指定エリアでは、時間が来ると手動か自動装置でゲートを閉めて自動車の進入を規制する。

(4)事業評価
実施前の住民会議では約400人の住民から各々約200件と約300件の質問と提案を受けた。ブログには2万件を超すアクセスがあり、約840人から公開質問を得た。YouTubeで2,300回も閲覧されたという。市が進めた事業だが、このように十分な住民参加を得て実施したため、好評を得た。
週末には道路ではない別の空間を設けた結果、市民団体による様々なイベント展開とにぎわいが生まれ、エリアに対する住民の認識は大きく変わった。
この事業を歓迎してくれたのは主にファミリー世帯と若い人たちだが、公共バス等が使えず不便という高齢者の声や一部の商業者からは不便になったという不平もあった。
高齢者や障がい者向けには、郊外部から縁辺部、縁辺部同士を回遊できるような公共交通網を新設し、利便性改善のための試行を行っている。
 
T-days

3――小さな路のプロジェクト

小さな路のプロジェクトは、2010年に建築家3名が立ち上げた非営利組織Association Centotrecentoが展開する路上駐車スペースなどの公共空間を活用したコミュニティ活動である。市は公共空間利用の認可と情報提供等を通じて、プロジェクトを支援している。

1│対象公共物
道路、特に路上駐車帯や広場など


2│事業概要

(1)背景
住民同士の交流が希薄になり地域としての力が落ち、疲弊し始めたコミュニティの中で、お互いに地域の空間をシェアし居心地を改善することによって絆を再生しようとしている。彼らのビジョンは人々を結びつけることであり、中間支援団体として行政と市民を仲立ちし、身近な公共空間を活用し、参加型ワークショップを展開している。

(2)事業内容
たとえば、2台分の路上駐車スペースを使い、飲食による交流や文化的で楽しめる小さなイベントを開催し、少しずつできることから近隣の交流を進めている。

(3)事業スキーム
路上駐車帯や歩道、広場などの利用認可を市から取得し、テーブルや椅子、白板等の用具を持ち込み、公共空間をコミュニティの場に一時的に転換する。

(4)事業評価
既に1年近く継続している事業となり、活動範囲は徐々に広がっている。住民が自発的に行う活動が増え、他地区にも活動が広がり、市内の小路に新たな価値が生まれつつある。
小さな路のプロジェクト

4――インクレディブル事業

高齢化や景気後退による空家や空地、空店舗などの増加に伴うコミュニティ衰退への対応はわが国でも喫緊の政策課題であるが、ボローニャ市都市経済発展部は、特に公共所有の空家や施設の再利用に向けて取り組んでいる。

1│対象公共物
市所有の空家や店舗等施設及び空地


2│事業概要

(1)背景
市所有の空家や空店舗等が増え、再有効活用による地域経済の振興が課題となった。一方、文化芸術産業の発展のために、芸術家等の若い起業家への支援が課題であった。この2つを解決するために、インクレディブル(すごい)事業が企画創設された。

(2)事業内容
文化創造的事業を起業したいグループの提案を公募し、採択した提案に対し、起業に必要な支援策を講じる。

(3)事業スキーム
採択された起業者は、事務所・スタジオ・工房などに使える市所有の空家等を最大4年間無償で借りられる(ユーティリティや修繕費は起業家負担)。あるいは、起業費用として最大1万ユーロの補助を受けることができる。その他、市の斡旋により、弁護士や会計士、コンサルタントサービスなども無償で受けられる。宣伝等のプロモーションについても市が支援する。

(4)事業評価
市は2010年から2015年現在までの公募に対し446提案を受領し、起業意欲と本事業に対する需要は強いとみている。このうち62事業を採択し、最終的に24起業家を支援。現状では約半数以上の起業家が成功し、自ら事業を展開できるだけの力量を発揮している。
これまで支援した起業家が446提案中5%程度というのは、少ないという声もあるが、この種の事業は容易ではなく、きめ細やかさと忍耐が要求される。ボローニャ市としては、むしろ希望に満ちた成果と考えており、起業意欲を喚起しつつ、今後も着実に推進する方針である。

5――公共空間利用のまとめ

今回の訪問により、ボローニャ市が単に市民に依存するのではなく、直接的あるいは間接的に、公共空間を最大限に活用し、旧市街地やコミュニティの活性化、空家対策と経済振興を図ろうとしている様子が理解できた。

ボローニャ市の役割と責任、意識が明確に感じられ、日本の公共の本来あるべき姿を考える上で大変参考になったと思う。
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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴
  • 【職歴】
     1975年 丸紅(株)入社
     1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
     2001年より現職

    【加入団体等】
     ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
     ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
     ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
     ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
     ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
     ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
     ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
     ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
     ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
     ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

(2016年05月11日「基礎研マンスリー」)

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