2016年05月02日

総合診療医の養成-かかりつけ医の配置は、順調に進むか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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■要旨

日本では、少子高齢化が進行する中で、高齢者への医療・介護の提供の枠組みが整備されつつある。その際、極めて重要な点は、地域医療を担う、総合診療医の養成であろう。
総合診療医は、2017年より研修が始まり、養成が進められる予定である。
本稿では、日本の医師の現状を俯瞰し、その上で、総合診療医の養成について見ていくこととする。

■目次

1――はじめに
2――日本の医師の現状
  1|医師数は、徐々に増加している
  2|複数の診療科を標榜する、小児科医や産婦人科医は減少している
  3|診療所では、50歳代をピークに、多くの高齢の医師が活躍している
  4|大都市と過疎地域の間では、医師の偏在が見られる
3――今後不可欠となる総合診療医
  1|総合診療医は、全人的な医療を行うことが求められる
  2|総合診療医の研修には、ありとあらゆる医療技術や、地域医療の経験が組み込まれている
4――総合診療医を養成する上での留意点
  1|総合診療医の需給バランスを、どのようにとるか
  2|既存の医師が、総合診療医に転換する仕組みをどう構えるか
  3|医師の地域偏在の問題を、どう解消すべきか
5――おわりに (私見)

1――はじめに

1――はじめに

日本では、少子高齢化が進行する中で、高齢者への医療・介護の提供の新たな枠組みが整備されつつある。従来の病院中心の医療から、高齢者が自宅や介護施設で生活する中で、医療・介護ケアを充実させていくことを目指す、地域包括ケアシステムの構築という動きである。その際、極めて重要な点は、地域医療を担う、総合診療医の養成であろう。総合診療医は、患者が、まず最初に受診する先であり、その診断に基づいて、以後の治療や養生の方針が定まる。高齢者の医療・介護の質を担保しつつ、治療費の抑制にも努め、医療の効果を高める、いわば、高齢者ケアの司令塔の役割を果たす。
総合診療医は、2017年より研修が始まり、養成が進められる予定である。日本でも、以前から、内科医や小児科医の開業医が、かかりつけ医として、地域密着の医療を行ってきた。しかし、これまでは総合診療医のような体系化されたトレーニングはなく、主に、各医師の素養や、経験に委ねられてきた。また、現状では、かかりつけ医を持たない人もおり、社会の認識に陰りも見えている1
本稿では、日本の医師の現状を俯瞰し、その上で、総合診療医の養成について見ていくこととする。
 
1 「かかりつけ医機能の強化に向けた調査研究」江口成美(日本医師会総合政策研究機構, 日医総研ワーキングペーパーNo.294, 2013年7月30日)によると、40歳以上の国民に対するアンケート調査(回答回収数2,080票)の結果、かかりつけ医がいないと回答した人は、34.9%であった。

2――日本の医師の現状

2――日本の医師の現状

日本の医療については、医師不足が問題とされることが多い。この問題は、医師の絶対数の不足と、診療科や地域ごとの医師の偏在という、2つの側面に分けて見ていくことが必要となる。

1医師数は、徐々に増加している
まず、医師数の推移を見る。臨床の医師は、戦後一貫して増加し、2014年には、30万人に達した。
図表1. 医師数の推移
2000年代には、医療の崩壊が喧伝され、その中で、医師不足の問題が取りあげられることもあった。この時期に、医師数が減少したような印象を持つかもしれないが、実際には、医師は増加している。増加の背景には、1980年代以降、新卒医師を養成する大学医学部の定員が、8,000人前後で推移し、医師が、安定的に供給されてきたことが挙げられる。その後、医学部の定員は、2010年度に大きく引き上げられた。2016年度には、過去最多の9,262人となっている2
図表2. 大学医学部定員数の推移
 
2 なお、2016年には、37年ぶりに、東北医科薬科大学(宮城県仙台市)に、医学部が新設された。また、2017年には、国際医療福祉大学でも、千葉県成田市に医学部を開学すべく、準備が進められている。
2複数の診療科を標榜する、小児科医や産婦人科医は減少している
診療科別の医師数の推移を見てみよう。勤務医で、1つの診療科だけを名乗る医師もいれば、診療所の開業医などで、複数の診療科を標榜する医師もいる。1996年から2014年の18年間で、主たる診療科について見ると、多くの診療科で、医師は増加している。その中で、内科、外科、産婦人科では、減少している。一方、複数回答で見ると、これも多くの診療科で増加している。しかし、小児科、産婦人科では、減少している。その背景として、例えば、乳児や幼児の患者に対する、診療の安全性に、医師が懸念を持った結果、従来、内科兼小児科などとしていた診療所が、内科のみを標榜するように変わるといった、専門分化が進んでいることが考えられる。
今後、地域医療を推進するにあたり、内科や小児科の診療所の医師に、かかりつけ医としての機能を果たすことが期待されている。これらの科の医師を安定的に確保していくことが必要となろう。
図表3-1. 主たる診療科別 医師数推移/図表3-2. 複数回答診療科別 医師数推移
3診療所では、50歳代をピークに、多くの高齢の医師が活躍している
次に、年齢層ごとに、病院と診療所の医師の分布を見る。病院は30歳代を中心に、幅広い年齢層の医師が勤務している。一方、診療所は50歳代をピークに、70歳以上にも多くの医師が活躍している。
図表4. 年齢層別の医師の分布
4大都市と過疎地域の間では、医師の偏在が見られる
続いて、地域ごとの医師数の推移を見る。現在、全国で、344の二次医療圏3がある。まず、これらを、人口と人口密度により、大都市型、地方都市型、過疎地域型の、3つに分類する4
図表5-1. 二次医療圏の分類
その上で、型ごとに、医師数を見る。大都市型は、単位人口、単位面積あたりとも、充実している。地方都市型は、単位人口あたりでは大都市型と遜色ないが、単位面積あたりの医師数は少ない。過疎地域型は、いずれも大都市型より少ない。即ち、大都市と過疎地域の間では、医師の偏在が見られる。
図表5-2. 二次医療圏の型ごとの医師数
また、僻地(へきち)での医療アクセス改善への取組みは、徐々に進んでいる。しかし、依然として、問題は残っている。2014年には、全国に637の無医地区5があり、そこで12万4千人が暮らしている。
図表6. 無医地区の数と人口の推移
 
3 一次医療圏は市町村、三次医療圏は主に都道府県。二次医療圏はその中間に属し、複数の市町村が1つの単位。2015年より、都道府県は、地域医療構想を策定することとなっている。地域医療構想は、原則として二次医療圏ごとに策定される。
4 図表5-1、5-2の出典データでは、大都市型は、人口100 万人以上または人口密度2,000 人/㎢以上。地方都市型は、大都市型以外で、人口が20万人以上であるか、または人口が10万人以上かつ人口密度が200人/㎢以上。過疎地域型は、大都市型、地方都市型以外、とされている。
5 医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点として、概ね半径4㎞の区域内に50人以上が居住している地区であって、かつ容易に医療機関を利用することができない地区、を指す。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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