2016年04月27日

非伝統的金融政策の歴史とマイナス金利

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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速水総裁:ゼロ金利政策から量的金融緩和へ
新日銀法が98年にスタートし、最初の総裁となった速水氏は98年9月には政策金利を0.25%に引き下げ、その後99年2月には「ゼロ金利政策」を導入した。2000年8月には一旦解除されたが、2001年3月に操作目標を金利から量に変更する「量的緩和政策」をスタートさせた。同時にこの量的金融緩和政策の枠組みを「消費者物価指数(CPI)の前年比が安定的に0%以上となるまで継続する」ということをコミットメントし、いわゆる「時間軸効果」を導入した。
 
福井総裁:量的金融緩和の強化を解除
2003年3月20日に福井総裁にバトンタッチされると当座預金残高の引き上げピッチは加速した。また福井総裁は、2003年10月に「CPIを、単月でゼロ%以上となるだけでなく、基調的な動きとしてゼロ%以上であると判断できること、日本銀行の消費者物価の予測が再びマイナスにはならない」などの条件を新たに提示し、コミットメントの強化も実施している 。
2006年3月、約5年ぶりに量的金融緩和は解除されることとなった。
 
白川総裁:包括的金融緩和
2008年4月より白川総裁体制へと引き継がれる。9月にリーマンショックが発生、12月に政策金利を0.1%に引き下げ、2010年10月には実質ゼロ金利政策と資産買い入れ基金の創設などを柱とする「包括的な金融緩和政策」を導入した。
2011年3月東日本大震災が発生、10月円相場が対ドルで75円32銭と戦後最高値を更新すると緩和を進め包括緩和で基金買取は100兆円に達する。2012年2月には物価上昇率で当面1%を目指す「中長期的な物価安定の目途」を導入、さらに2013年1月に、物価上昇率で2%を目指す「物価安定の目標」とコミットメントの強化を実施した。
 
黒田総裁:量的・質的金融緩和、マイナス金利付き量的・質的緩和
2013年3月に就任した黒田東彦総裁は、2%の上昇目標を2年程度で達成すると公約。世の中に供給するお金の量を示す「マネタリーベース」を倍増させ、国債に加えてETF・リートなども大規模に買い増す「量的・質的金融緩和」の導入を決めた。さらに2016年1月にはマイナス金利政策を導入し「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」をスタートさせた。

マイナス金利政策の導入の背景と影響

第2章 マイナス金利政策の導入の背景と影響

2016年は年初から波乱の幕開けだった。年初に120円程度だったドル円レートは1月20日に一時115円台に上昇。年初に1万9000円近くだった日経平均株価も1月21日一時1万6000円に急落した。
日本の大企業・製造業の想定為替レートは118円程度(日銀短観12月調査)、このまま円高が進めば業績悪化が避けられない。日銀にとっては、せっかく広がってきた賃上げの動きもストップし、早期の物価2%達成もまったく見通せなくなってしまう。
その危機意識が日銀をマイナス金利導入へ向かわせた。総裁は「年初来の金融市場の不安定さなどが人々のデフレマインドからの脱却に悪影響を及ぼす恐れに対して躊躇なく対応した」と導入の理由を説明した。
円高阻止を意識し、バズーカ2までの質的・量的金融緩和の拡大ではなく、市場に金利差拡大を着目させ円安を促せるマイナス金利が、黒田日銀の第3弾のバズーカとして導入された。
通常、預金者が金融機関に預金する利子(利息)を受け取るが、マイナス金利は、預金しても利子を払うという逆転現象。預金に対するペナルティーといってもいい。このペナルティーを、2月16日から日銀が金融機関から預かっている当座預金の一部に適用した。
円高・株安を阻止したかったが、結果はさらなる円高・株安に
マイナス金利導入を発表して国内の金利は日銀の目論見どおり低下した。
金融機関はいっせいに定期預金や住宅ローン金利の引き下げを発表した。市場の金利も低下し2月9日には10年物国債の利回りが0%を下回り、初めてマイナスをつける。
ところが金利低下とは逆に日銀の目論見が大きく外れたのが円高と株安だった。
導入決定(1月29日)後、円安・株高は2日しか続かず、ドル円レートは、2月11日には一時110円台に、日経平均株価も2月12日には1万5000円をあっさり割り込むことになってしまった。
中国など新興国景気の減速や原油安などへの不安が消えない中、最近では米国の利上げや欧州の金融システム不安など先進国に問題は拡大した。そのため日銀の苦渋の決断のマイナス金利は、世界の大きなうねりの中でもみ消されてしまった。
マイナス金利の効果は未知数
マイナス金利政策は、日銀が銀行から預かる当座預金の一部に適用する金利を初めてマイナス金利にする。銀行は日銀に資金を預けると、今までとは違い金利を支払わなければならないため、その分の資金を企業向け融資や有価証券への投資に振り向けるようになる。
短期金利がマイナスになることで長期金利も強烈な低下圧力を受ける。長期金利の低下により企業の設備投資や個人の住宅購入が促進される。また金利差に着目した国内外の投機家による円売りで円安を促し、株価上昇も期待される。
融資など実体経済が動くのは時間がかかる。市場が先々の動きを予想し円安・株価上昇となるのが、短期間で見える効果というわけだ。
一方で金融機関の利ざや縮小による収益圧迫などの副作用がある。
今回マイナス金利導入で短期的に期待されていた円安・株高はこれまでのところ実現していない。このため副作用が強く出てしまっている。
以下では個人や企業にまた他産業などにマイナス金利がどう影響してきそうなのかを考察したい。
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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