2016年04月26日

日本の生命保険業績動向 ざっくり30年史(6) 剰余金・配当・内部留保など

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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3基金
基金は、相互会社特有の科目で、形の上では外部からの借入金である。または社債発行にも似ているともいえるだろう。ただし保険業法の規定により、基金を返済した後には、基金と同額の「基金償却積立金」を積立てなければならない等の規定がある。その分、自力での財源確保も必要であり、自己資本とみなされる。株式会社の資本金にあたるといってもよいものであるが、従来は、相互会社では、自己資本はあまり必要とされていなかったので、法令上要求されるほぼ最低限のままの状態に長らくあった。すなわち、相互会社は、保険契約者ではない株主がいる株式会社とは異なり、剰余が出ればほぼすべて契約者に還元すればいいし、損失の場合には、例えば保険金削減などをして、加入者で負担し合えばよい、いわば「閉じた集団」と考えられていたようだ。それが、1996年度の保険業法改正において、相互会社の自己資本の充実というのも一つの大きなテーマとなり、これを機に増額の途が開かれた。それ以降、自己資本増強の手段として、相互会社各社で基金が急激に充実した。
【基金・基金償却積立金(相互会社)+資本金(株式会社)の推移】

3――剰余金の使い道(本来の剰余を、どのくらい内部留保したか、あるいは配当したか)

3――剰余金の使い道(本来の剰余を、どのくらい内部留保したか、あるいは配当したか)

さて、当期純剰余を計算したとき、すでに危険準備金と価格変動準備金の繰入が反映されている。一方、基金や配当の財源は剰余から負担する。それを統一してみるために、簡便的にではあるが、
・危険準備金、価格変動準備金、および貸倒引当金を内部留保とみる。(他にも退職給付引当金なども考慮すべきかも知れないが、ここでは無視した。)
・剰余金(配当差引前)にそれらを足し戻して、「本来の剰余」と名づける。
・改めて、その使い道として、危険準備金、価格変動準備金、貸倒引当金の繰入、基金の財源準備、その他資本の部の増額(以上が内部留保)、そして配当財源 がある。 
とみなしてみよう。
まずはこの意味での「本来の剰余」は下図のような推移になっている。
【「本来の剰余」(危険準備金、価格変動準備金、貸倒引当金の増減を足し戻した金額、かんぽ除き)】
その使い道は下のグラフである。
【使い道(かんぽ除き)】
2008年度の見方だけ補足しておく。この年度はリーマンショックの影響で、「本来の剰余」が大きな「赤字」となっていたのだが、先にふれたように、危険準備金と価格変動準備金を大幅に取り崩すことによって、これを埋め、損益計算書上の当期損失を最小限にとどめた、という形である。
さて従来は、国内の生命保険会社がほとんど相互会社だったということもあり、剰余金はほぼすべて配当に充てられていた。その後、剰余金そのものが減少し、外資系・損保系などのほぼ無配当保険を主力とする生命保険会社の構成比が大きくなると、配当金もかなり小さくなった。不良債権処理の必要性から、一時的に貸倒引当金がやむなく増額された時期も含め、傾向としては、各種内部留保の充実のほうに注力されているようである。
 
(補足)契約者配当について
保険会社は、予定した保険金額、事業費、運用収益などにより保険料を設定し、契約を募集する。そして実際には、通常は剰余金が発生するので、それを保険契約者に配当金として還元するわけである。だから「概算で徴収した保険料を配当金で調整する」、という言い方もよくなされる。
ここまでは、相互会社も株式会社も同じだが、株式会社の場合にはそのあと、株主配当というのが当然ある。従って株式会社では、保険契約者と株主は、利益の取り合いで対立する関係にあり、そのバランスをとることが、相互会社にはない難しさであろう。
といったことも含め、契約者配当について少し解説しようと思ったのだが、それをやろうとすると、保険料の設定水準、配当水準のあるべき考え方、相互会社と株式会社の違いなど、あまりにも内容が多岐に渉り、とてもざっくりとはいきそうにない。というわけで、この稿では、配当財源の推移を見ただけにとどめ、また別の機会があれば、じっくり述べることにしたい。
内容の難しさとは逆に、保険契約者にとって、お金が戻ってくるというのは、目にみえるわかりやすい話である。配当を通じて、保険会社の業績がわかり、比較しやすい、という面がある。
そこで保険会社側も、その年毎に、配当の説明はかなり力を入れて(減配のときは当然充分な状況説明、増配のときは大々的にアピール)いるようである。実際、「右肩上がりの時代」には、配当の多さを販売場面での売りにしていた。
ただし、その後減配が続き、現在はおそらく配当に期待する人は(契約者、保険会社両方とも)少ないかもしれない。加えて、無配当保険が中心の株式会社が増えてきたということもある。

4――この後どうするか

4――この後どうするか

さて、剰余金の使い道まで、ざっくりと見たので、もうこの話は終わってもいい。
ところが近年、健全性規制の強化やディスクロージャーの充実といった動きの中で、30年前にはなかった新しい指標、新たな開示項目がいくつかでてきた。使えるデータは、一部の会社、最近数年など限られたものとなろうが、次回は、最後にそういった点を補足することにしたい。1
 
1 全体を通して、文中のグラフについては、特に断りのない場合、インシュアランス生命保険統計号(各年度版)(保険研究所)に基づくものである。グラフ化は筆者。なお、破綻や合併がある年度などにおいて、一部データに不明点や不整合がある箇所もあるが、業界全体の長期のトレンドをみるという主旨からご容赦頂きたい。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年04月26日「基礎研レター」)

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