2016年04月26日

欧州大手保険グループの2015年決算状況について-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-

中村 亮一

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6|Aegon

(1)地域別の業績-2015年の結果-
Aegonも、保険料、基礎利益及び資産で見ると、自国のオランダの構成比が3割弱で、英国も2割程度を占めているが、米国を中心とした北米・中南米の構成比が5割程度と高くなっている。
自国のオランダでは、企業年金では第1位だが、個人生命保険では第5位となっている。Transamericaのブランドを中心とする米国子会社グループは、2015年末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第10位となっている。その他地域には、ハンガリー等の中東欧やスペイン・ポルトガル等の南欧に加えて、香港・シンガポール・中国・インド・日本等のアジアが含まれている。これらの地域での構成比も一定水準に達してきている。
なお、Aegonは、2015年11月3日にFSB(金融安定理事会)が公表したG-SIIsのリストに、Generaliに代わって、新たに加えられている。
保険事業の地域別内訳(2015年)
(2)地域別の業績-2014年との比較-
2014年との比較では、全体では増収増益となっている。
自国のオランダの保険料が大幅に減少したのは、一時払保険料の減少によるものであり、一方で(表にはない)預託金がオンライン銀行のKnabを通じて48%と大幅に増加した。営業損益は、損害保険事業が前年の13百万ユーロの利益から、21百万ユーロの損失に転じたことによる影響で、マイナス進展となっている。
他の地域は、為替レートがプラスに寄与している要素も大きく、報告数値はプラスを確保している。
ただし、英国では市場環境やソルベンシーⅡに対応した投資ポートフォリオの組み替えが投資関係損益にマイナスに働いており、米国でも責任準備金の評価替えやモデルの更新がマイナスの影響を与えているとしている。
さらに、北米・中南米の新契約価値が大きくマイナスな理由として、1)低金利によって米国での変額年金の販売が低迷したこと、2)カナダ事業からの撤退による影響、が挙げられている。
その他地域での新契約価値のマイナス進展も、販売低迷と低金利によるものである。
保険事業の地域別内訳(2014年から2015年に向けての増加額と進展率)
(3)投資関係損益を巡る状況
米国における運用利回りと保証利率の関係を見てみると、運用利回りの低下を理由として、両者の差額としてのスプレッドは毎年低下してきている。ただし、依然1.5%程度の水準を確保している。
米国における運用利回りと保証利率の関係
(4)その他のトピック
(4-1)資本収益率(ROE)の状況
Aegonは、資本収益率(ROE)を開示しているが、その地域別の状況は以下の通りである。これによれば、AXAとは異なり、アジアのROEは高くなく、オランダが最も高くなっている。
生命保険事業のROE(資本収益率)の状況
(4-2)ノンコア事業の売却等によるコア事業への集中
英国の年金事業の2/3をRothesay Lifeへ売却、オランダの企業物件損害保険事業のAllianzへの売却(2016年第3四半期に終了予定)、米国のランオフ事業への資本投下のさらなる減額等を通じて、コア事業への資本の割当の増加を図ろうとしている。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、欧州大手保険グループの2015年の生命保険事業について、地域毎の業績及び低金利環境下での投資関係損益を巡る状況等について報告してきた。ここで、今一度欧州大手保険グループの状況を総括するとともに、日本の生命保険会社への示唆について考えてみる。

1|地域別の事業展開及び業績状況

各社の自国以外の地域への事業展開の方針等は必ずしも一律ではなく、さらには、各社毎に、重点を置く事業種類等も考慮した上で、地域選定等に特徴を有した形になっている。その中には、積極的に海外進出するだけでなく、一旦進出した地域からの事業撤退等を行うケースも含まれている。
ただし、各社とも、自国以外の保険先進国や新興国への進出を通じて、自国以外でも一定規模の収益を確保してきている。特に、ここで取り上げた欧州大手保険グループでは、Generaliを除いて、各社とも米国において一定のプレゼンスを有し、高い収益を上げてきている。さらには、これらの地域に加えて、アジアや中南米等での展開を積極的に進めることで、収益機会を拡げてきている。
前年からの地域別の進展率等については、各社毎の異なる地域展開の方針及び地域毎の市場環境の違い等を反映して、必ずしも一律ではない。ただし、これらを合算した会社全体の数値は、分散効果も一定程度見られる中で、比較的安定した形になっている。自国以外の地域への事業展開は、こうした点での意味合いも有する形になっている。

2|低金利環境下での投資関係損益を巡る状況

低金利環境下で、各社は、新契約の保証利率の引き下げや、伝統的な保証商品に比べて保証を限定した商品(満期時保証、年金総額保証等)への代替を図ることで、負債コストの引き下げを図ってきている。一方で、今回のレポートの中では触れなかったが、リスク対応も図りつつ、安定的に高い運用利回りを確保するために、新たな分野での投資の拡大等の資産運用面での取組みも積極的に行ってきている。その結果として、再投資利回りと負債コストとのスプレッドを確保し、投資収益の減少をできる限り抑制するポートフォリオを構築してきている。欧州の多くの生命保険会社においては、投資関係損益が重要な収益源となっていることから、適正なマージンを確保すべく、各種の対応を図ってきている。
一方で、金利リスクに対するエクスポジャーを低下させ、その耐性度を高めるために、デュレーション・ギャップの解消等も図ってきている。これらを通じて、新たなソルベンシーIIという資本規制下で、適正な資本水準を効率的に確保しつつ、高い収益を目指す経営を追求してきている。

3|日本の生命保険会社への示唆

(1)海外事業展開
昨今、日本の生命保険会社も、アジアでの事業展開に加えて、米国や豪州の会社の買収等を通じて、先進国も含めた海外での保険事業の展開を積極化させてきている。ただし、欧州大手保険グループが以前からより積極的に海外事業展開に取り組んできたことに比べれば、日本の生命保険会社の海外事業展開やそのグループの中におけるプレゼンスは、まだまだ高いといえる状況にはない。日本の大手各社が公表している経営計画等によれば、今後海外事業からの収益を拡大する方向性が示されてきているが、この際に、欧州大手保険グループのケースから学ぶことは多いものと思われる。
例えば、昨今の欧州大手保険グループの海外事業戦略においては、一方的に事業地域の拡大を図るだけではなく、各国の保険市場の特性等を分析する中で、収益状況や成長可能性等を見極めながら、コア事業となりうるものに集中する等の方針が示されてきている。

(2)低金利環境への対応
低金利環境については、日本の生命保険会社が先行的に長期にわたって経験している状況であるが、欧州大手保険グループは、日本における先例も参考にしながら、そうした環境への対応を進めてきている。
ソルベンシーⅡという新たな規制への対応という観点も踏まえて、総合的なリスク管理を推進する中で、利率保証を限定した商品へのシフトやデュレーション・マッチングを推進することにより、逆ざやリスクや金利リスクの抑制を行い、必要資本の効率化への対応を着実に図ってきている。
これにより、少なくとも欧州の大手保険グループについては、現在のような低金利環境下においても、適正な投資マージンを確保できる資産・負債ポートフォリオを構築してきているようである。

以上のように、欧州大手保険グループの海外事業展開や低金利環境への対応は、日本の保険会社にとっても大変参考になるものがあると思われる。今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。
 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年04月26日「基礎研レポート」)

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