2016年04月25日

EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)の見直しに関するコンサルテーション・ペーパーを公表-

中村 亮一

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■要旨

生命保険会社の責任準備金の評価において重要な意味を持つ、超長期の金利水準の設定に関連して、EUのソルベンシーIIにおいては、UFR(終局フォワードレート)という概念が導入された。このUFRについて、通貨ユーロの場合には4.2%という水準に設定されていたが、この水準が昨今の金利水準に比較して高く、結果として、責任準備金の過小評価につながっているのではないか、との批判が起きていた。
こうしたUFRを巡る議論の状況について、基礎研レター「EUソルベンシーIIの動向―最近のUFR(終局フォワードレート)を巡る議論はどうなっていたのか―」(2016.1.12)で報告した。
その後も、EIOPA(欧州保険年金監督局)において、UFRの見直しに関する議論が進められていたが、4月20日に「UFRの方法論とその実施に関するコンサルテーション・ペーパー」が公表された。今回のレポートでは、このコンサルテーション・ペーパーが提案する見直しの内容について、その概要を報告する。

■目次

1―はじめに
2―UFR(終局フォワードレート)とは
  1|UFRとは
  2|UFRを使用する補外法において決定すべき要素
3―UFRの見直し提案の概要
  1|今回のコンサルテーション・ペーパーの概要
  2|今回のUFRの見直し提案の概要
4―今回のUFRの見直し提案に対する反応
  1|Insurance Europeの意見
  2|ESRBの反応等
5―まとめ

1―はじめに

1―はじめに

生命保険会社の責任準備金の評価において重要な意味を持つ、超長期の金利水準の設定に関連して、EUのソルベンシーIIにおいては、UFR(終局フォワードレート)という概念が導入された。このUFRについて、通貨ユーロの場合には4.2%という水準に設定されていたが、この水準が昨今の金利水準に比較して高く、結果として、責任準備金の過小評価につながっているのではないか、との批判が起きていた。
こうしたUFRを巡る議論の状況について、基礎研レター「EUソルベンシーIIの動向―最近のUFR(終局フォワードレート)を巡る議論はどうなっていたのか―」(2016.1.12)で報告した。
その後も、EIOPA(欧州保険年金監督局)において、UFRの見直しに関する議論が進められていたが、4月20日に「UFRの方法論とその実施に関するコンサルテーション・ペーパー」1が公表された。今回のレポートでは、このコンサルテーション・ペーパーが提案する見直しの内容について、その概要を報告する。
 
1 「Consultation Paper on the methodology to derive the UFR and its implementation」(2016.4.6)
EIOPA の以下のWebサイトによる。 https://eiopa.europa.eu/Publications/Consultations/RFR%20CP%20on%20methodology%20to%20derive%20the%20UFR%20%28after%20BoS%29.pdf
 

2―UFR(終局フォワードレート)とは

2―UFR(終局フォワードレート)とは

まずは、簡単に、UFRの概念について、前回のレターの説明を繰り返しておく。

UFRとは
一般的に、市場で得られる一定の流動性がある信頼度の高い債券の金利は、20年、30年といった期間までに限定される。これに対して、生命保険会社は終身保険等の超長期の保険商品を販売している。このため、将来的にこれらの契約から収入される保険料や支払われる保険金等のキャッシュフローを、現時点まで割り引いて、現在価値を求めることによって、適正な責任準備金評価を行うためには、50年や60年といった超長期の金利水準の設定も重要になってくる。こうした超長期の金利水準の設定のような、既知のデータに基づいて、そのデータの範囲の外側で予想される数値を求める手法を、一般的に「補外法(Extrapolation method)」と呼んでいる。UFRを使用する手法は、そのうちの代表的な手法の1つである。
具体的には、(スポットレートではなく)フォワードレートが終局的に(外部から定められた)一定の水準に向けて収束するとの前提にたって、超長期の金利水準を決定する手法であり、この時に設定される終局のフォワードレート水準が「UFR(終局フォワードレート:Ultimate Forward Rate)」となる。

UFRを使用する補外法において決定すべき要素
UFRを使用して超長期の金利を設定する場合には、以下の要素を前提として決定する必要がある。
(1)UFR(終局フォワードレート:Ultimate Forward Rate) 最終のフォワードレートの収束水準
(2)LLP(最終流動性点:Last Liquid Point) 市場金利を(そのまま)採用する最終点
(3)CP(収束期間:Convergence Period) LLPからUFRへの収束期間
(4)LLPにおける市場金利からCP終了時におけるUFRへの収束方法
これには直線補間の他に、金利の性質をより適切に反映する形で設定する各種の手法がある。

なお、これらの各種要素を決定する際の考え方の概要は、以下の通りである。
(a)UFRの水準については、マクロ経済的な長期均衡金利等に基づいて設定される。
(b)LLPについては、市場の流動性等を考慮して決定される。
(c)CPや(4)の収束方法については、UFRへの収束速度や形状の滑らかさ等を考慮して決定される。
 
要素の関係を示したイメージ図 これらの要素の関係を示したイメージ図は右の通りである。
(1)UFR :4.2%
(2)LLP :20年(20年までは市場金利を使用)
(3)CP :40年(LLPから40年かけてフォワードレートがUFRに収束)
(4)収束方法:スミス・ウイルソン法2
 
2 スミス・ウイルソン法は、UFRをインプットし、債券価格の観測値にフィットするイールドカーブを算出する手法であるが、パラメータの水準によって、UFRへの収束速度とイールドカーブの滑らかさを決定することができる。
 

3―UFRの見直し提案の概要

3―UFRの見直し提案の概要

1|今回のコンサルテーション・ペーパーの概要
EIOPAの説明によれば、今回のUFRの見直しに関するコンサルテーション・ペーパーを公表するにあたって、その概要について、以下の通り説明している。
「ソルベンシーIIの法的枠組みによれば、最終のフォワードレートは、長期間にわたって安定的で、長期の期待の変化の結果としてのみ変化すべきである。UFRを導き出すための方法論は明確に規定され、長期間にわたって首尾一貫した、透明で、慎重で、信頼性が高い、客観的な方法で決定されるべきである。さらに、UFRは、長期の実質金利と期待インフレの予想を考慮すべきである。
ソルベンシーIIの主な目的は、保険契約者の保護である。その目的を達成するために、UFRは適切に選択されなければならない。提案されたUFRの方法論は、UFRの安定性と、金利とインフレに関する長期の期待に変化があった場合のUFRの調整の必要性、との間のバランスを図ろうとしている。
EIOPAは、利害関係者に対して、UFRの方法論とその実施の提案に関するフィードバックを求めている(セクション2)。コンサルテーション・ペーパーはまた、EIOPAの提案の基礎となる理論的根拠を説明し(セクション3)、リスクフリーレート、貨幣の時間的価値及び保険キャッシュフローの現在価値に対するUFRの変更の影響を分析している(セクション4)。」
(参考1)現在のUFRの水準設定の考え方とその水準
 
3 AMECO(Annual macro-economic database)は、DG ECFIN(the European Commission's Directorate General for Economic and Financial Affairs:欧州委員会経済・金融総局)の年刊マクロ経済データベースである。
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中村 亮一

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