2016年04月22日

米国製造業の動向-製造業の不振も、米国のリセッションに繋がる可能性は低い

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

鉱業も含めた米国製造業の不振が顕著である。米国経済は労働市場の回復を背景に、消費主導の成長が持続しているが、15年10-12月期の民間設備投資(前期比)がマイナスに転じたほか、財輸出の落ち込みから外需が成長の足を引っ張る構図となっている。これは、輸出関連をはじめ製造業が不振であることを示している。不振の要因としては、原油安に伴うエネルギー関連企業の生産・投資の落ち込みや、ドル高に伴う輸出競争力の低下などが挙げられる。
本稿では、米製造業の主要な指標について最近の動向を確認するほか、米経済への影響や今後の見通しについても整理している。なお、結論から先に言うと、米国製造業の本格回復は見込めないものの、過去の米景気循環と鉱工業生産の関係や、米経済に占める製造業のシェア低下を考慮すれば、製造業の不振によって米国経済がリセッションに陥るのではとの懸念は行き過ぎであるということである。
 

2.米製造業の現状

2.米製造業の現状

(1)鉱工業生産、出荷および新規受注:自動車関連は好調も、鉱業の落ち込みが大きい
鉱工業生産指数は、14年11月をピークに低下基調が持続している(図表1)。主要業種別の推移をみると、鉱工業生産の8割弱を占める製造業(鉱業、公益を除く)では、自動車関連が好調を維持する一方、機械が低下するなど、業種によってバラつきがみられる。製造業全体では15年末まで増加基調となっていたものの、16年以降は3ヵ月連続で低下しており、モメンタムが悪化している。
一方、鉱工業生産の1割強を占める鉱業は、原油価格下落に伴い14年後半以降は大幅に下落しており、鉱工業生産指数の低下に大きく影響している。
次に、製造業の出荷および新規受注(3ヶ月移動平均、3ヶ月前比)は、鉱工業生産と連動性の高い出荷の伸びが14年後半以降に概ねマイナスとなっているほか、足元でマイナス幅が拡大している(図表2)。また、新規受注額も14年9月以降はマイナスが持続しているほか、出荷同様足元でマイナス幅が拡大している。とくに、民間設備投資の先行指標である国防・民間航空機除きのコア資本財受注が2月は▲10.2%とマイナス幅が2桁に拡大しているため、今後、設備投資の削減幅拡大が懸念される。
(図表1)鉱工業生産指数/(図表2)製造業新規受注および出荷
(2)設備投資:資源関連の建設投資が押下げ、底入れの兆しはみえない
米GDPにおける民間設備投資は、15年10-12月期で前期比年率▲2.1%と12年10-12月期以来のマイナスとなった(図表3)。設備投資の中身をみると、資源関連の建設投資が▲39.6%と大幅な落ち込みとなっており、これだけで設備投資を▲1.6%ポイント押下げている。15年を通じて原油価格の下落に伴い、資源関連の建設投資が設備投資を押下げる傾向が続いている。米国内で原油生産の減少が持続しているほか、原油稼働リグ数は16年4月15日時点で362基と、09年11月以来の水準に低下しており、増加に転じる兆しはみられない(図表4)。
(図表3)民間設備投資および原油価格/(図表4)米国内原油生産と原油稼働リグ数
(3)企業収益:米国企業収益の落ち込みもエネルギー関連や製造業が主導
米国内産業の企業収益1は前期比▲7.8%と11年1-3月期(▲14.7%)以来の落ち込みとなった(図表5)。主要業種別寄与度をみると、製造業のうち、石油・石炭製品関連の寄与度が▲6.2%ポイントを占めるほか、製造業全体では▲7%と減益の大宗を占めている。
さらに、商務省が発表する製造業の四半期財務報告書をみると、売上高は15年4-6月期こそ前期から増加したものの、14年10-12月期から減少基調となっているほか、税引き後利益も減益基調が持続している(図表6)。もっとも、税引き後利益の売上高に対する利益率の推移をみると、足元では7.9%となっており、12年以降の平均(8.5%)と比較して低いものの、大幅に下回っている訳ではないため、製造業の減益は売上高の減少による部分が大きいとみられる。
(図表5)米企業収益(前期比寄与度)/(図表6)製造業企業の売上高・利益
 
1 在庫評価調整を反映したベース。
(図表7)非農業部門雇用増加数(業種別) (4)雇用者数:建設業は堅調も、建設業以外の雇用回復に遅れ
非農業部門雇用者数は、12年1月から16年3月までの累計増加数が1,085万人となり、雇用の回復が持続している(図表7)。
これを産業別にみると、財生産部門の中でも建設業では、住宅市場の回復を背景に雇用が106万人増加し、全体の累計増加数に占めるシェアも足元で増加するなど、雇用が回復している。一方、建設業を除く財生産部門では、累計増加数が15年1月の57万人をピークに足元では38万人まで低下しており、累計増加数に占めるシェアも低下基調が持続している。このように、米労働市場の順調な雇用増加が続く中でも、建設業を除く製造業の雇用回復は遅れている。
 
(図表8)財輸出額(主要国・地域) (5)世界輸出・鉱工業生産:相対的に米国の伸びは鈍化、ドル高が影響している可能性
これまで米国の状況をみてきたが、米国以外の状況を確認するために世界全体の動きを確認しよう。財輸出数量指数の推移をみると、世界合計では15年以降にほぼ横這いとなっており、財輸出の回復が滞っている(図表8)。これを地域別にみると、多くの地域で横這い圏での推移となっているものの、米国については15年以降に低下し、14年初の水準も下回るなど、他の地域に比べて落ち込みが際立っている。米国輸出の落ち込みは、ドル高の進行と連動がみられるため、ドル高によって米国が輸出シェアを失っている可能性が高い。
(図表9)鉱工業生産指数(主要国・地域) 次に、鉱工業生産は財輸出と異なり、世界合計では14年以降も緩やかな上昇が持続している(図表9)。主要地域別では、アジア新興国で順調な増加が持続しているほか、ユーロ圏でも増加基調となっている。一方、米国は15年以降に低下基調に転じており、鉱工業生産もドル高の影響で世界シェアを失っているとみられる。ちなみに、日本は円安にも係わらず14年初の水準を下回って推移しているが、こちらは日本の消費増税の駆け込み需要と消費税後の反動減の影響が大きい。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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