2016年04月18日

介護施設の選定-終の住処 (ついのすみか) は、どう選ぶか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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(3) サービス付き高齢者向け住宅
通称、「サ高住」と呼ばれる。サ高住は、2011年より新設されている施設だ。通常、入居時に頭金は不要なことが多いが、一般の賃貸住宅のように敷金等がかかる。月々の利用料は、特養より高いが、有料老人ホームよりは安い。介護サービスは、地域の居宅介護サービス等を利用する。施設といっても、起床や食事時間が自由で、外出の制限がなく、来客の宿泊も可能であるなど、賃貸住宅の感覚に近い。そのため、入居ニーズが急騰しており、それに応える形で、新設ラッシュが続いている。

(4) ケアハウス
ケアハウスは、軽費老人ホームの類型の1つである。軽費老人ホームは、その名前のとおり、費用の安い老人ホームであり、実際に有料老人ホームより利用料は安いことが多い。軽費老人ホームには、食事付きで所得制限のあるA型、食事なし(自炊)で所得制限のないB型、食事付きで所得制限のないケアハウス(C型)に分かれる。A型とB型は、健康な人が対象。要介護状態の人は、ケアハウスに入居する7。更に、ケアハウスは、自立型と介護型に分かれる。介護型ケアハウスでは、通常、施設の介護スタッフが介護サービスを行う。全室個室の上、利用料が安いため、近年、人気が高まっている。
図表4. 軽費老人ホームの種類
(5) 認知症高齢者グループホーム
認知症高齢者グループホームは、その名のとおり、認知症の高齢者が共同生活を送る施設となっている。法令上、1ユニットの定員は5~9人と定められている8。2ユニット構成の施設が多い。入居者は、家庭的な雰囲気の中で生活する。認知症の知識のある介護スタッフが常駐している。介護スタッフから、介護サービスや日常の世話を受けつつ、機能訓練を行い、認知症の緩和を図ることを目指す9
認知症高齢者グループホームは、「地域密着型」の介護サービスである。地域密着型とは、施設や事業所が、同じ市区町村に住んでいる人に限定して、介護サービスを行うことを意味する。
この他にも、経済的理由から自宅での生活が困難な高齢者が入居する「養護老人ホーム」や、公営住宅等の公共賃貸住宅をバリアフリー化した「シルバーハウジング」、比較的健康な高齢者が共同生活をする「グループリビング」など、多様な高齢者向け入居施設がある。
なお、実際の施設は、各類型の中で、様々な形で運営されている。入居費用も、施設によって異なる。例えば、介護付き有料老人ホームには、頭金がかからないものから、数千万円するものまである。このため、介護施設の選定の際は、施設見学や体験入居をするなど、十分な検討が必要と言える。
図表5. 主な介護施設 (終身に渡り入居可能なもの) の入居費用 の目安
 (参考)主な介護施設の施設数、定員数
政府は、特養をはじめ、各種の介護施設の拡充を図っている。
図表6. 主な介護施設 (終身に渡り入居可能なもの) の施設数、定員
 
7 都市部の入居ニーズに応える「都市型ケアハウス」もある。定員20人以下で、住民票が、施設と同じ市区町村の人が対象。
8「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年3月14日厚生労働省令第34号)第93条
9 認知症の症状の進行などにより、重度の要介護状態になると、共同生活が難しくなり、退去が必要となる場合もある。
 

5――介護施設を選ぶことの難しさ

5――介護施設を選ぶことの難しさ

要介護状態になって、入居する介護施設を選ぶ際に、直面することの多い難しさを見てみよう。

1突然型の要介護状態では、介護施設の選定が難題
漸次型の要介護状態では、入居者の意向や、費用負担等を十分に踏まえて、プランを設計することができる。ただし、首都圏近郊の特養等、人気が高い施設では、待ち期間が数年に及ぶこともある。
突然型の要介護状態の場合、介護施設の選定は、難題となる。脳卒中等で入院、治療を受けた結果、幸いにも一命をとりとめ、身体機能の麻痺を軽減すべく、リハビリを開始したとする。患者本人も、家族も、やれやれと一安心するところだ。ただ、この頃から、退院後の患者の行き先が問題となる。
病気が完治すればよいが、身体の麻痺が残り、要介護状態となることも多い。その場合、自宅で療養しつつ、訪問介護等のサービスを受けるか。それとも、介護施設に入居して、介護サービスを受けるか、を決めなくてはならない。その際、自宅での介護の場合の、家族の負担と、施設での介護の場合の、施設の空き状況や費用負担等とを、天秤にかけることとなる。仮に、高額の入居費用を賄うだけの資力があるとしても、終の住処(ついのすみか)として、施設を選定することは、容易ではない。

2サ高住に入居して、検討時間を確保することも考えられる
突然型の要介護状態の場合、サ高住に入居して、介護を選ぶための検討時間を確保することも考えられる。サ高住は、敷金等はかかるが、頭金は不要なことが多い。月々の料金も、有料老人ホームほど高くはない。また、老健のような入居期間の制約はなく、いつでも入居・退去が可能である。
サ高住は使い勝手がよいため、入居のニーズが高まっている。これを受けて、事業参入が相次いでおり、事業者により、サービスの質が玉石混淆(こんこう)となっている懸念もある。政府は、サ高住の質を確保しつつ、戸数を、2020年までに60万戸に増やすべく、促進策をとっている。
 

6――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

要介護状態になったときに、どの介護サービスを受けるか。施設での介護を選ぶのであれば、どの介護施設に入居するか、を決めることは難しい。介護プランの設計にあたり、ケアマネージャーと十分に相談することが必要であろう。検討に時間が必要であれば、サ高住へ入居することも考えられる。
今後、介護施設の整備や、介護人材の育成が進んでいく。政府は、2015年に掲げた新三本の矢の3本目「介護離職ゼロ」に向けて、動きを加速させている。その進捗に、引き続き、注目していきたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2016年04月18日「基礎研レター」)

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