2016年04月14日

金融リテラシーは向上しているか―優先すべきは消費者視点に基づくチャネルの位置づけの再考―

生活研究部 井上 智紀

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(2)金融商品の保有状況別にみた金融リテラシーの変化
次に、株式や投資信託などのリスク商品の保有状況との関係についてみると、株式投資の経験者6では「金融リテラシー」、「コンサルティング/情報希求」ともに両時点間での有意差は確認できないものの、「金融リテラシー」については、投信の保有者および株式・投信とも保有者では5%水準で、株式または投信保有者では10%水準で、それぞれ有意に2013年に比べ2015年の方が高くなっている(図表 4)。株式・投信とも保有者では金融リテラシーの向上が確認できているにもかかわらず、株式投資経験者の金融リテラシーでは2時点間で差異が確認できず、投信保有者に比べ金融リテラシーの水準も低くなっていたことは、株式投資経験者の中に従業員持株会を通した保有者や相続等により保有者となった者など、そもそも金融商品や投資に対する関与が低い者が含まれていることが平均値を引き下げているためと考えられる7
図表 4 株式・投資信託保有者の金融リテラシーの推移
これらの結果は、2013年以降の金融リテラシーの変化は、主として投資信託の保有者においてのみ生じており、非保有者に波及するなどの効果はみられていないことを意味している。
では、現在の高リテラシー層はどのような情報源を利用しているのだろうか。次章では、最新の2015年調査の結果に限定し、高リテラシー層が金融取引に際してどのような情報源を利用しているのかを明らかにすることで、今後のリテラシー向上に向けた顧客接点のあり方について検討する材料を探ることとする。
 
 
6 ここでは調査時点では株式を保有していないものの過去に株式を保有したことがある者を含んでいるる。
7 分析に用いたデータでは厳密な検証はできないものの、実際に投資信託の保有者を除く株式投資の経験者では両時点とも投資信託のみの保有者よりも金融リテラシーの水準が低くなっていることは、その証左であるものと思われる。

3――金融リテラシーと情報源

3――金融リテラシーと情報源

1|金融商品の情報収集に利用している情報源
図表 5 金融商品の情報収集に利用している情報源 先にみた金融リテラシー、コンサルティング/情報希求の両因子得点について、全体平均を境に二分し、金融リテラシー、コンサルティング/情報希求の高低の別に金融商品の情報収集に利用している情報源をみると、全体では「金融機関の窓口」(29%)が最も多く、「新聞記事」(29%)、「金融機関のDM」「金融機関の印刷物」(いずれも23%)の順につづき、「特にない」も3割弱となっているのに対し、金融リテラシーが高い層では、「新聞記事」(42%)が最も多く、「金融機関の窓口」(33%)、「金融機関のDM」「金融機関の印刷物」「取引金融機関のサイト」(いずれも31%)までが3割を超えて続き、「特にない」は1割台に留まっている(図表 5)。全体に比べ多くの項目で高くなっており、特に「新聞記事」や「マネー誌の記事」では10%ポイント以上の差、「取引金融機関のサイト」では9%ポイントの差と、差が大きい。一方、コンサルティング/情報希求の高低別では、全体に比べ高い層で「金融機関の窓口」(33%)がやや高く、低い層で「特にない」(36%)が約7%ポイント高くなっている以外は、総じて差が小さくなっている。
これらの結果は、金融リテラシーが高い層では積極的に情報を求めて様々な情報源に接しており、その結果さらにリテラシーが高まっていくという好循環が起こっているのに対し、コンサルティング/情報希求が高い層では専門家への相談ニーズはあるものの、金融機関の窓口や外交員を利用しようとする層を除けば、その多くは具体的な相談を持ちかけるには至らず、結果的に金融取引の都度、不十分な知識・情報のもとに金融商品の購入・売却を行っている可能性を示唆している。
2|直近の金融商品の購入・申込時の参考情報源
さらに、直近の金融取引におけるこれらの情報源への接触による金融リテラシー向上への寄与度を明らかにするため、直近の金融商品の購入・申込時に参考とした情報源を説明変数、金融リテラシー、コンサルティング/情報希求を目的変数とする回帰分析を行った。分析結果を図表 6に示す。
図表 6 回帰分析の結果 まず、金融リテラシーを目的変数とした分析結果をみると、金融機関の外交員、金融機関のDM、新聞記事、マネー誌の記事、取引金融機関のサイト、金融関連の情報サイトで有意に正、一般誌の広告、テレビCM、取引のない金融機関のサイト、家族で有意に負の結果となっている。有意に正となった情報源について、影響度の大きさをみると、取引金融機関のサイトが最も大きく、新聞記事、マネー誌の記事、金融関連の情報サイトの順に続く。総じて活字媒体の影響が大きい反面、一般誌の広告、取引のない金融機関のサイトや家族、テレビCMの順に負に有意となっている。このことは、新聞、雑誌等の記事情報といったある程度正確性が担保された情報源の利用者がこれらの情報を通じて自身の金融リテラシー向上を図っているのに対して、リテラシーが低い層ほど広告・CMを通して得られる情緒的な側面や、正誤綯交ぜの可能性がある家族間の口コミに頼った金融取引を行う傾向にあるとも考えられよう。
一方、コンサルティング/情報希求を目的変数とした分析結果では、金融機関の窓口、マネー誌の記事で有意に正、メールマガジンで有意に負の結果となっている。金融機関の窓口の寄与度が最も大きく、金融機関の外交員や投資顧問・FPといった他の人的チャネルが有意になっていないことは、消費者にとって、金融関連の相談先として認知される存在が、ほぼ金融機関の窓口に限られていることを表しているとも考えられる。
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