2016年04月13日

企業物価指数(2016年3月)~強まる物価下落圧力、10ヵ月連続のマイナス

岡 圭佑

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1.強まる物価下落圧力、10ヵ月連続のマイナス

4月13日に日本銀行から発表された企業物価指数によると、2016年3月の国内企業物価は前年比▲3.8%(2月:同▲3.4%)と事前の市場予想(QUICK集計:前年比▲3.5%)を下回る結果となった。前月比では▲0.1%(2月:同▲0.3%)と前月から下落幅が縮小したものの、10ヵ月連続のマイナスとなった。
国内企業物価変化率の寄与度分解 国内企業物価注1の前月比寄与度をみると、鉄鋼・建材関連(前月比▲0.0%)、電力・都市ガス・水道(同▲0.1%)、機械類(同▲0.0%)、素材(その他)(同▲0.0%)、その他(同▲0.0%)が物価下落に寄与した。一方、為替・海外市況連動型(前月比0.4%)は国内企業物価を押し上げた。鉄鋼・建材関連は、アジア需給の悪化に伴う鉄鋼や金属製品の下落を主因に、マイナスを続けている。電力・都市ガス・水道は原油価格の下落を反映した電力・都市ガスの燃料調整から、マイナスを続けている。機械類は電子部品・デバイスや生産用機器の下落を反映して弱含んでいる。素材(その他)は化学製品の下落を主因にマイナスが続いている。一方、為替・海外市況連動型は非鉄金属の上昇を反映して上昇に転じている。
 
注1  1.機械類:はん用機器、生産用機器、業務用機器、電子部品・デバイス、電気機器、情報通信機器、輸送用機器
   2.鉄鋼・建材関連:鉄鋼、金属製品、窯業・土石製品、製材・木製品、スクラップ類
   3.素材(その他):化学製品、プラスチック製品、繊維製品、パルプ・紙・同製品
   4.為替・海外市況連動型:石油・石炭製品、非鉄金属 
   5.その他:食料品・飲料・たばこ・飼料、その他工業製品、農林水産物、鉱産物

2.輸入物価は円高で下落幅拡大

3月の輸入物価は円ベース(2月:前年比▲17.9%→3月:同▲20.2%)、契約通貨ベース(2月:前年比▲15.1%→3月:同▲15.6%)ともに前月から下落幅が拡大した。年初来の円高の影響が徐々に強まり、円ベースでの下落幅は契約ベースを上回る状況が続いている。
輸入物価(円ベース)注2の前年比寄与度をみると、石油・石炭・液化天然ガス(2月:前年比▲11.2%→3月:同▲12.6%)、食料品・飼料(2月:前年比▲1.0%→3月:同▲1.1%)、化学製品(2月:前年比▲0.6%→3月:同▲0.7%)、機械器具(2月:前年比▲1.7%→3月:同▲2.1%)、その他(2月:前年比▲0.6%→3月:同▲0.9%)が輸入物価の下落幅拡大に寄与した。
足元の原油価格(ドバイ、月中平均)は前年比▲36%と、昨年8月(同▲53%)をピークに下落幅が緩やかに縮小している。しかし、石油・石炭・液化天然ガスは2015年9月以降前年比▲40%程度の下落を続けている。これは、昨年夏場にかけての大幅な原油安の影響が6ヵ月程度遅れて液化天然ガス(LNG)に波及しているためと考えられる。一方、原油価格の変動が1ヵ月程度遅れて反映される石油製品は、マイナス寄与が縮小傾向にある。先行きについては、昨年末以降の原油価格の下落幅縮小が石油製品、LNGの下落を抑制することから、4月以降は石油・石炭・天然ガスの下落幅が緩やかな縮小に向かう可能性が高い。一方、食料品・飼料は円高の進展などから加工原料食品(2 月:前年比▲18.4%→3月:同▲20.7%)や飼料(2月:前年比▲18.5%→3月:同▲19.8%)を中心に下落幅が拡大している。また、化学製品はエチレン・プロピレン(2月:前年比▲4.8%→3月:同▲17.8%)やベンゼン(2月:前年比▲12.6%→3月:同▲22.9%)などが輸入物価を押し下げた。
 
輸入物価指数変化率の寄与度分解/輸入物価(石油・石炭・天然ガス)の推移
輸入物価指数の変動要因 輸入物価は、国際商品市況の低迷が続くなか、円高の急進もあり下落圧力を強めている。輸入物価(円ベース)の変化率を為替要因と契約通貨ベース要因に分解してみると、2012年末以降の円安局面において輸入物価は大幅なプラスを維持しており、為替レートが原油安による下押し圧力を緩和する役目を担っていた。しかし、年初来の急激な円高によって為替レートは逆に輸入物価を押し下げる方向に作用し始めている。
為替レートは年初からの新興国の景気減速懸念に加え、米利上げ観測の後退を受けて1ドル=108円程度と前年に比べ10%の円高水準にある。原油安による押し下げが続くなか、急激な円高の影響が顕在化するため、輸入物価は大幅な下落を続ける公算が大きい。
 
 
注2 1.機械器具:はん用・生産用・業務用機器、電気・電子機器、輸送用機器
   2.その他:繊維品、木材・同製品、その他産品・製品

3.原油安と円高の影響は2016年夏場がピーク

輸入物価と国内企業物価の時差相関 上述のとおり、原油安と円高の影響は輸入物価を経由して国内企業物価に大きく影響しているが、原油価格の急上昇や大幅な円安が実現しないことを前提とすれば、こうした下押し圧力は今後一段と高まる可能性が高い。以下では、原油価格や為替の変動が国内企業物価へ波及するまでにどの程度時間を要するかについて検証するため、品目毎に物価指数と輸入物価の時差相関係数を計算した。
まず、エネルギー関連ではガソリンや軽油などの燃料価格は輸入物価との相関性が高く、時間的ラグはほとんど生じていない。すなわち、エネルギー関連については輸入物価が変動すれば、短期間で国内企業物価へ波及することを意味する。一方、電気代やガス代などの公共料金は時間的ラグが6ヵ月程度と比較的長い。これは、原油価格等の変化分を転嫁させるための燃料費調整制度によって時間的が生じるためである。エネルギー関連以外についてみると、石油化学系基礎商品や非鉄金属など素材関連は時間的ラグが生じず、短期間で輸入物価の変動が国内企業物価に波及する。一方、食品関連は相関係数が低い傾向にあり輸入物価の変動の影響を受けにくいほか、時間的ラグは6ヵ月前後に集中しておりかなり遅れて波及している。なお、食パンなどは輸入麦の政府売渡価格が年2回改定されるため、時間的ラグは6ヵ月程度となっている。
このように、輸入物価の変動は品目毎に異なるペースで国内企業物価に波及し、均してみると4ヵ月程度で原油価格、為替との連動性が最も高くなる。年初来の原油安や円高の影響はラグを伴い夏場にかけて顕在化することから、前年比でみた国内企業物価は大幅な下落が続くことが予想される。
 
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(2016年04月13日「経済・金融フラッシュ」)

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