2016年04月12日

欧州大手保険グループの2015年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

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4―各社の自己資本やSCRの内訳

次に、各社の自己資本やSCRの内訳を、次ページの図表の通りにまとめている。
これらについての開示内容も各社毎に異なっている。

(1)自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類3され、 それぞれについて算入制限が設定されている。具体的には、「Tier1(無制限)は無制限、Tier1(制限付)はTier1全体の20%未満、Tier3 はSCRの15%未満、Tier2とTier3の合計でSCRの50%未満」となっている。
各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうちTier1の自己資本が7割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度を占めている。
Tier3は、繰延税金資産等が含まれている。
なお、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用している。

(2)SCRの内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示内容については、各社の事業構成等を反映する形で、その方式が異なっている。
リスク別では、各社とも信用リスクのウェイトが高い。ここで、表の「信用」に、(1)デフォールト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要である。
生命保険と損害保険のウェイトが共に高いAllianz、AXA、Generaliにおいては、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。なお、PrudentialとAegonは生命保険事業が中心であるが、長寿リスクを1つの項目として挙げており、その割合も1割から2割程度と有意な水準になっている。
株式や金利のリスクはともに、各社における構成比が1割程度となっている。
オペレーショナル・リスクについては、各社とも数%程度の構成比となっている。
地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。
 
(参考)欧州大手保険グループの事業別内訳(2015年)
欧州大手保険グループのソルベンシーⅡによる自己資本及びSCRの内訳( 2 0 1 5年末)
 
3 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産 等である。
 

5―その他の各社毎の補足情報

5―その他の各社毎の補足情報

各社毎の開示情報の内容が異なっているので、ここでは、自己資本やSCRの算出における各社毎の取扱に関する追加的な情報をまとめておく。

(1)Prudential
・ソルベンシーIIの算出に反映していない経済的資本のソースとして、以下のものが挙げられている。
1)米国の分散効果、2)アジアの認識の中止、3)不動産の株主持分、4)有配当資本、5)米国における認められた慣行、6)英国におけるVA

(2)Allianz
・SCRのうち、内部モデルの適用会社が72%を占め、標準的方式による会社が14%、米国が8%、資産管理や銀行が6%となっている。
・内部モデルを適用しているのは、ドイツ、フランス、英国、イタリア、韓国、米国の損害保険部門及びグループの保険会社のAllianz Global Corporate & Speciality等
・標準モデルを適用しているのは、オランダ、スペイン、ポルトガル、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ギリシャ等

(3)AXA
・ローカルSCRのカバリッジを超える少数株主持分は、グループの自己資本に利用していない。
・スプレッド及びデフォールトリスクを全ての国債に対して考慮している。
・繰延税金の損失吸収能力については、1)SCRに関する税調整は、ソルベンシーIIのバランスシートにおいて既に認識されている既存のネット繰延税金負債に限定、2)監督当局によって認められた場合に、税グループメカニズム(同じ税グループにおける会社間の損失を補填する能力)を使用、としている。

(4)Aegon
・米国事業に対する持株会社での分散効果や米国内の会社間での分散効果は反映していない。
・米国従業員年金制度はソルベンシーIIベースで反映している。
・オランダにおける税の損失吸収については、監督当局の承認との関係から、不透明性が存在(オランダの比率150%に▲5%から+10%ポイントの影響の可能性がある)している。
 
AegonグループのソルベンシーIIの構造
(5)Generali
・監督当局によって承認された内部モデルは、2016年1月1日において、イタリア、ドイツ、フランス損保、チェコをカバーしているが、さらに、フランス生保、他の欧州事業、オペレーショナル・リスクへ段階的に拡大していき、プロセスの最後までには、完全内部モデルと監督当局のビューとの間の重要な差異は想定されなくなる、としている。
・デフォールト、信用格付変化、スプレッドリスクに対する資本チャージを全てのソブリンに対して適用している。
・Generaliのエクスポジャーに基づく参考ポートフォリオに関しての特定の前提を用いて、EIOPA(欧州保険年金監督機構)の算式に従って、動的VAを算出している。
・繰延税金の損失吸収能力については、ソルベンシーIIのバランスシートにおいて既に認識されている既存のネット繰延税金負債に限定している。
 

6―まとめ

6―まとめ

以上、欧州大手保険グループの2015年末のSCR比率の状況等について報告してきた。
前回のレターでも述べたが、今回の決算発表においても、SCRの算出方法等の説明は一定程度行われているが、具体的な内部モデルの説明等についての開示は行われていない。
加えて、課題とされていた各国監督当局間の整合性の問題も、完全には解決せずに、引き続き未解決のまま残されており、大手会社間の取扱いも統一されているわけではない。
こうした点については、今後、ソルベンシーIIに基づく制度が本格的にスタートする形になる2016年の業績公表時に、さらなる情報提供の充実や考え方の整理が行われていくことが期待される。
いずれにしても、欧州の大手保険グループを中心とした各社の内部モデル等に基づくSCRの算出方法等については、今後の日本におけるソルベンシー規制やその中での各社のソルベンシー管理等を検討していく上において、大変参考になるものがあることから、継続的にウォッチしていくこととしたい。
 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年04月12日「保険・年金フォーカス」)

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