2016年04月12日

海外資金による国内不動産取得動向(2015年)~リスク回避の動きが不動産取引にも影響~

増宮 守

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1.不動産取引額の縮小

2015年を振り返ると、上期には力強い株価上昇が続き、不動産投資市場においても大規模な取得事例が目立った。しかし、8月の上海株の急落を契機に新興国経済の失速懸念が高まり、それ以降、株式市場に止まらず、世界中の様々な金融市場でリスク回避の動きが支配的となった。
こうした中、2015年の日本国内の不動産取引額は、4年ぶりの縮小となった。米Real Capital Analytics によると、1千万ドル以上の日本国内の不動産取引の合計額は、424億米ドルと前年から約2割の縮小であった1(図表-1)。依然として高い水準にあるものの、2014年まで続いた不動産取引の拡大2は一旦途絶えたといえる。さらに、スポンサー企業からの内部取得が多いJ-REITの取得額がほぼ横ばいであったことから(図表-2)、仲介会社の媒介や入札などによる開かれた投資市場の縮小が顕著であったとみられる。
金融市場でのリスク回避の動きを受け、不動産投資市場でも積極的に買い付ける動きが減退したとみられ、また、一定の利回りを見込める他の投資対象も乏しいため、あえて賃貸市況の改善が続く不動産を売り急ぐ動きも増えず、結果的に不動産取引額が縮小したと考えられる。
 
図表-1 国内不動産取引額(土地取引を除く)/図表-2 J-REITによる不動産取得額
 
1 米ドル/日本円の為替レートが円安となった影響により、日本円ベースでは、2015年の国内の不動産取引額は約5兆円で約1割の減少であった。本稿では、海外資金の動きを中心に扱うため、金額については米ドル建てとしている。
2 増宮守「海外資金の国内不動産取得動向・2014年~投資市場の活況がリーマンショック前のピークに迫る~」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2015年3月17日
 

2.海外資金による取得額の縮小

2.海外資金による取得額の縮小

最大の不動産投資主体であるJ-REITの陰で、様々な投資主体が取得額を縮小していたが、それらのなかでも、不動産価格変動の原動力になることが多い海外資金の動向は特に重要といわれる。
2015年の海外資金による日本国内の不動産取得額は、約7,700百万米ドルに止まり、大幅に増加した2014年から約3割の縮小となった(図表-3)。日本国内の不動産取引は全体的に縮小したが、なかでも、海外資金による取得額は世界的なリスク回避の動きを色濃く反映したといえる。
さらに、半期でみると、リスク回避の動きは2015年下期に明確であった。2015年上期の取得額は前年を上回っていたものの、下期の取得額は、上期から大幅に拡大した2014年下期の5割にも満たなかった。近年、海外資金による日本国内の不動産取得は下期に拡大する傾向があったが、2015年は3年ぶりに下期に縮小した。
 
図表-3 海外資金による国内不動産取得額
ただし、2014年に加速した海外資金による取得拡大は一旦途絶えたものの、2015年の取得額は依然として2013年と同水準であり、2009年のように極端に海外資金の動きが失われたわけではない。
また、そもそも海外資金による取得件数が限定的なため、大規模な取引事例による個別の影響が大きい。たとえば、2014年には最大規模案件のGIC(シンガポール政府投資公社)によるパシフィックセンチュリープレイス取得が約1,700百万米ドルにも及んだのに対し、2015年ではCIC(中国投資有限責任公司)による目黒雅叙園取得が約1,170百万米ドルに止まった。これら2件で約530百万米ドルの縮小が説明される点に注意したい。
 

3.海外資金のセクター選好

3.海外資金のセクター選好

海外資金による日本国内の不動産取得額をセクター別にみたところ、特に選好されたセクターはみられず、全てのセクターで2015年の取得額が縮小していた(図表-4)。
たとえば、最近、最も投資家の関心を集めている3ホテルも、2015年の海外資金による取得額は、約660 百万米ドルと前年比で約3割の縮小であった。2015年は訪日外客数が2,000万人に迫り、客室稼働率が全国的に過去最高を記録するなど、ホテルをとりまく環境は非常に良好だったものの、積極的な海外資金の取得対象にはならなかった。
また、リスク回避の動きは、機関投資家の主な投資対象であるオフィスセクターで特に顕著であった。オフィスについては、比較的成熟度の高い投資市場が形成されており、投資マインドやサイクルの変化が表れ易い。2015年の海外資金による国内のオフィス取得額は、約4,300 百万米ドルと前年比約2割の縮小であったが、株価が下落した2015年8月以降、明らかに海外資金の動きが鈍化し、9月以降4ヶ月間の取得額はわずか約600百万米ドルに止まった。
さらに、住宅セクターにおいても、2015年の海外資金による取得額が約1,020 百万米ドルに止まり、前年比で6割以上も縮小した。2014年には米ブラックストーンが米GEから約1,440百万米ドルにも及ぶ大規模なポートフォリオを取得したため、例外的に大きな数値だったといえるが、2015年の取得額は2013年の数値も下回っていた。
 
図表-4 海外資金による国内不動産取得額(セクター別)
もっとも、限定的には、インバウンド需要を意識したアジア資金の取得意欲が強く表れたケースもみられる。たとえば、アジア資金による日本国内のホテルの取得額は2015年も拡大が続いた(図表-5)。ホテルのインバウンド需要の拡大は、ほとんどが中国やアセアンなど、アジアの訪日客の増加によるものとなっている。アジアの投資家にとっては、旅行会社とのネットワークを活かし、日本で取得したホテルをアジアから日本への旅行ツアーに組み込む戦略なども有効である。
さらに、アジア資金によるホテル開発用地の取得も目を引く(図表-5)。香港のグレートイーグルが自社ブランドのランガムホテルの開発用地として六本木の土地を取得したように、アジア企業が自社でホテルを企画、開発するケースもみられ、日本でのホテル事業が多様化しつつある。
 
図表-5 アジア資金による国内ホテル取得額
ただし、ホテルと同様にアジアからのインバウンド需要を享受できるはずの商業施設については、今のところ、アジア資金による取得は本格化していない(図表-6)。成熟経済のもと、一様な消費拡大が見込み難い日本では、厳しい競争下にある商業施設の運用は高度な専門性を要し、海外企業にとって容易なものではない。この分野においては、経験豊富な米国の投資ファンドによる取得や、欧米の小売チェーンやブランド企業による自社店舗用の取得などが多く、一方、アジア資金による取得は、アジア全域で展開するシンガポール企業などの一部に限られている。
 
図表-6 アジア資金による国内商業施設取得額
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増宮 守

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