2016年04月04日

ドイツの医療保険制度(2)―公的医療保険の保険者との競争環境下にある民間医療保険及び民間医療保険会社の状況―

保険研究部 研究理事 気候変動リサーチセンター兼任 中村 亮一

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5|保険料
民間医療保険の保険料は、給付に応じた負担が求められる「応益負担」となっている。被保険者の年齢・性別、健康状態等の実際の給付に影響を与える要素が保険料に関係しており、リスクに応じた保険料を支払うことになる。公的医療保険とは異なり、個人単位での保険料負担となるため、本人以外の家族が加入する場合には、家族被保険者に対応する保険料も支払わなければならない。
なお、代替医療保険に被用者が加入した場合、公的医療保険に加入していたとした場合の負担相当額を、雇用者は拠出することができる。通常は、雇用者支援の民間医療保険の契約が締結され、公的医療保険と同様に、雇用者と被用者が保険料を折半する形になっている。

6|民間医療保険の普及状況
(1)被保険者数
民間医療保険連盟の統計に基づくと、2014年度末において、完全医療保険の被保険者数は883万人、介護保険の被保険者数は947万人、付加医療保険の契約数5は2,434万件となっている。
さらに、付加医療保険に関する契約の内訳をみてみると,外来付加保険が773万件,病院付加保険が587万件,歯科治療保険が1,441万件、疾病給付金保険が358万件となっている。
 
代替医療保険の被保険者数(2014年度末)/付加医療保険の契約数(2014年度末)
過去からの被保険者数の増加率の推移をみると、完全医療保険及び付加医療保険ともに、その増加率が顕著に低下してきている。完全医療保険については、ここ3年間、被保険者数が減少している。一方で、付加医療保険については、引き続き完全医療保険を上回る増加率で推移しているが、ここ数年間の増加率は2%台となっている。
 
民間医療保険の被保険者数の増加率
(2)収入保険料
収入保険料は36,323百万ユーロ、うち代替医療保険が27,788百万ユーロ(完全医療保険が25,775百万ユーロ、介護保険が2,013百万ユーロ)、付加医療保険が7,766百万ユーロとなっている。このように、代替医療保険からの保険料が全体の7割以上を占めている。
なお、この民間医療保険の収入保険料水準は、公的医療保険の収入保険料 約1,930億ユーロの2割弱に相当している。
民間医療保険の収入保険料(商品別内訳)
2014年度の収入保険料は、対前年0.7%増加しているが、この増加率はここ5年間毎年低下してきている。この理由としては、2012年から、過去において批判が増加していた導入的タリフ(Einsteigertarifen:Starter tariffs)6の販売推進を止めたことによるもの、と説明されている。
 
民間医療保険の収入保険料の推移
商品別では、公的医療保険に対する付加的な給付を提供する公的医療付加保険や長期介護付加保険が他の商品に比べて、相対的に高い進展率を示している。
 
民間医療保険-収入保険料の商品別内訳の推移-
なお、医療保険の収入保険料は、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の収入保険料192,439百万ユーロの2割弱に相当しているが、ここ四半世紀で、この比率は徐々に増加してきており、医療保険に対するニーズの高まりを反映している。

(3)普及率
一人当たりの保険料及び対GDP保険料比率で見た医療保険の普及率(2013年度)でみると、1)保険密度を示す1人当たりの保険料は447ユーロで、欧州の中で、オランダの2,466ユーロ、スイスの982ユーロに次いで、第3位、2)普及率を示す対GDP保険料比率で、オランダの6.9%、スイスの1.6%等に次いで、1.25%で第4位、となっている。
医療保険の普及率等は、公的医療保険制度との役割分担が大きく影響しており、民間医療保険に大きく依存しているオランダやスイスが高いものとなっているが、ドイツもこれらに次ぐ国となっている。
 
民間医療保険-普及率の推移-
(4)給付額
老齢化積立金(民間生命保険の責任準備金に相当)への繰入額を含む総給付額の推移とそのうちの給付額の保険商品別内訳は、以下の通りとなっている。
保険種類別では、医療費用保険(完全医療保険等)が全体の9割程度を占めており、給付タイプ別では、通院給付のウェイトが高いが、近年歯科治療給付額の増加率が高くなっている。
 
民間医療保険-給付額の内訳-/民間医療保険-給付額の内訳(保険商品別) -/民間医療保険-給付額の内訳(給付タイプ別) -
7|民間医療保険の給付の仕組み
民間医療保険の給付は、公的医療保険とは異なり、加入者は、病院、診療所、薬局の請求に対して、まず自費で支払い、その後支払額に応じて、その全額又は予め定められた割合の給付額の支払いを受ける形で行われる。この場合の医師の診療報酬は、公的医療保険の場合の統一評価基準(EBM)とは異なり、「医師報酬協定(GOA)」に基づき支払われる。一般的には、医師の診療報酬は、公的医療保険に比べて、代替医療保険の方が高くなる。

8|民間医療保険への加入形態
民間医療保険には、個人で又は団体を通じて、加入する。
大企業等は従業員に対して団体医療保険を提供している。関連団体や専門家団体もその会員に対して、団体医療保険を提供している。これらは、家族の保障も含まれる。団体保険の場合、保険料は個人保険に比べて、数%程度安くなる。待ち期間も免除されたり、契約時の査定も簡易なものとなる。
自営業者等は個人保険に加入する。
民間医療保険は、主として、会社専属エージェントによって販売されるが、近年はブローカーを通じても販売される。特に大企業や大団体向けの団体保険の場合には、ブローカーが中心となっている。
 
 
5 1人の被保険者が複数の契約に加入している場合、複数カウントされる。
6 限定された給付水準で、低い保険料水準からスタートして、その後保険料が増加していく商品
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保険研究部   研究理事 気候変動リサーチセンター兼任

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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