2016年04月01日

日銀短観(3月調査)~大企業製造業の景況感は悪化、先行きも悲観的

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(中小企業)
中小企業製造業の業況判断D.I.は▲4で前回から4ポイントの低下となった。業種別では全16業種中、悪化が13業種と、改善の3業種を大きく上回っている。業種別では、大企業同様、鉄鋼(15ポイント悪化)の悪化が最大となったほか、窯業・土石(13ポイント悪化)、石油・石炭(10ポイント悪化)など素材系の悪化が目立つ。一方、大企業では大幅な悪化を示した生産用機械(2ポイント改善)、電気機械(2ポイント悪化)は小動きに留まっている。大企業に比べて輸出比率が低く、新興国経済の減速や円高の悪影響を直接受けにくかったためと考えられる。
先行きは、悪化が11業種と改善の4業種を大きく上回り(横ばいが1業種)、全体では2ポイントの悪化となった。大企業同様、木材・木製品(13ポイント悪化)で悪化幅が大きいほか、生産用機械(9ポイント悪化)なども大きく悪化する見込みとなっている。
 
中小企業非製造業のD.I.は4と前回比1ポイント低下した。全12業種中、悪化が8業種と改善の4業種を上回った。大企業同様、対個人サービス(8ポイント悪化)や、宿泊・飲食サービス(4ポイント悪化)、卸売(3ポイント悪化)などで悪化が目立つ。一方、不動産(5ポイント改善)が下支え役となっている点も大企業と同様である。
先行きは、小幅改善の小売を除いて全業種が悪化を示しており、全体では7ポイントの悪化となった。幅広く悪化が示され、ほぼ総崩れの様相だ。
 
(図表3) 大企業と中小企業の差(全産業)

3.需給・価格判断:内外需給は悪化、マージンは原油安でやや改善

3.需給・価格判断:内外需給は悪化、マージンは原油安でやや改善

(需給判断:内外需給は悪化)
大企業製造業の国内製商品・サービス需給判断D.I.(需要超過-供給超過)は前回比3ポイント低下、非製造業では2ポイント低下した。個人消費の低迷が響いたとみられる。製造業の海外での製商品需給も前回から2ポイント低下。新興国の景気減速が影響したとみられる。
先行きについては、国内需給は製造業で横ばい、非製造業で1ポイント上昇、製造業の海外需給は2ポイントの上昇が見込まれている。いずれも小動きに留まり、需給の大幅な改善は見込まれていない。
中小企業では、国内需給は製造業で2ポイント低下、非製造業では1ポイントの上昇となった。製造業の海外需給は1ポイント低下している。先行きについては、国内需給は製造業・非製造業ともに悪化する一方、海外需給は小幅に改善しているが、大企業同様、大幅な改善は見込まれていない(図表4)。
 
(価格判断:販売価格が低下、マージンはやや改善)
大企業製造業の販売価格判断D.I. (上昇-下落)は前回から4ポイント低下、非製造業では5ポイント低下し、マイナス圏となった。過去の円安を価格に転嫁する動きが一巡したうえ、資源安や個人消費低迷を受けて価格引下げの動きも出ているようだ。一方、仕入価格判断D.I. (上昇-下落)は製造業で6ポイント低下、非製造業でも5ポイント低下しており、原油などの資源価格の下落と円高によって仕入コストが低下した状況がうかがわれる。製造業では、販売価格D.I.の低下幅を仕入価格D.I.の低下幅が上回ったため、両者の差し引きであるマージン(利鞘)は前回から拡大している(非製造業のマージンは前回から横ばい)。
販売価格判断D.I.の3ヵ月後の先行きについては、製造業では2ポイント、非製造業では1ポイントの上昇が見込まれているが、今回の低下分を取り戻してはいない。年明け以降の円高進行による輸入物価の下落、内需の低迷を背景に、企業は今後の価格引き上げについて慎重に見ているようだ。一方、仕入価格判断D.I.は製造業で7ポイント上昇、非製造業で5ポイントの上昇が見込まれている。ともに販売価格D.I.の上昇幅を仕入価格D.I.の上昇幅が上回っているため、マージンは縮小に向かうことが見込まれている(図表5)。
 
中小企業の販売価格判断D.I.は製造業、非製造業ともに前回から2ポイント低下となった。一方で、仕入価格判断D.I.はともに7ポイントと大きく低下したため、差し引きであるマージンは、それぞれ拡大している。
先行きについては、販売価格D.I.が製造業で2ポイント低下する一方、非製造業では1ポイント上昇しているが、仕入価格判断D.I.は製造業で5ポイント、非製造業で8ポイントとそれぞれ大きく上昇しており、マージンの縮小が見込まれている。
(図表4)製商品需給判断DI(大企業・製造業)・製商品需給判断DI(中小企業・製造業)/(図表5) 仕入・販売価格DI(大企業・製造業)・仕入・販売価格DI(中小企業・製造業)

4.売上・収益計画:16年度の利益計画は減益

4.売上・収益計画:16年度の利益計画は減益

15年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年度比1.0%減(前回は0.5%増)、経常利益が4.3%増(前回は5.4%増)となった。売上、利益ともに下方修正されており、減収に転じたものの、増益は確保している(図表6~8)。主に新興国経済の減速が響いたとみられ、製造業を中心に収益が下押しされた。
15年度想定為替レート(大規模製造業)は119.80円(上期120.93円、下期118.69円)と、前回時点の119.40円から若干、円安ドル高方向に修正されており、実績である120.06円に近い水準となった。年明け以降、急激な円高が進行したが、もともとやや保守的に設定されていたため、変化が出なかった。
 
また、今回から公表された16年度収益計画(全規模全産業)は、売上は前年比横ばい、経常利益は2.2%の減益計画となっている。減益でのスタートは14年度以来2年ぶりとなる。しかも、16年度想定為替レート(大規模製造業)が117.46円と、足下の実勢よりも5円程度円安に設定されている点には留意が必要。今後、想定どおりに円安が進まない場合には、収益計画に下方修正が入る可能性が高い。
 
(図表6)売上高計画/(図表7)経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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