2016年04月01日

日銀短観(3月調査)~大企業製造業の景況感は悪化、先行きも悲観的

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.全体評価:企業マインドは幅広く悪化、先行きにも悲観現る

日銀短観3月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が6と前回12月調査比で6ポイント低下し、2四半期ぶりの景況感悪化が示された。D.I.の水準は13年6月調査以来の低水準となる。また、大企業非製造業の業況判断D.I.も22と前回比3ポイント低下し、6四半期ぶりにマインドが悪化した。
 
前回12月調査では、大企業製造業・非製造業ともに景況感は横ばいとなり、底堅い企業マインドが示される一方、先行きに対しては強い警戒感が現れていた。
最近にかけて日本経済は停滞感が強まっている。2月中旬に発表された10-12月期のGDP(国内総生産)統計では、日本経済が個人消費の減少などを要因として再びマイナス成長に陥ったことが明らかとなった。消費税率引き上げ後7四半期が経過したが、4度目のマイナス成長ということになる。また、その後に発表された1月以降の経済指標も総じて冴えない。2月の鉱工業生産(季節調整値)は、大手自動車メーカーの一時操業停止の影響もあり、前月比6.2%減と2ヵ月ぶりに低下、1月の上昇分(3.7%)を上回る大幅な落ち込みを示した。家計調査における2月の実質消費支出(同・二人以上の世帯・住居等を除く)も前月比1.2%増と2ヵ月連続の増加となったが、10-12月の平均に届いていない。また、金融市場では、年明け以降、米中経済への先行き不安などから世界的な動揺が続き、急激な円高・株安が進行。直近も年初と比べて大幅な円高・株安水準にある。
大企業製造業では、中国をはじめとする新興国経済の減速や急激な円高進行を受けて事業環境が悪化しており、景況感の悪化が鮮明になった。非製造業も国内消費の低迷がマインドの下方圧力となったが、建設・不動産業などに対するマイナス金利(金利低下)の恩恵が下支えとなったとみられ、製造業よりも小幅の低下幅に留まった。
 
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が▲4、非製造業が4とそれぞれ前回比で4ポイント、1ポイント低下した。大企業同様、中小企業でも製造業の景況感悪化が非製造業よりも顕著になっている。
 
先行きの景況感については、企業規模や製造業・非製造業を問わず、幅広く悪化した。中国経済の減速や米利上げの影響など、海外経済の先行き不透明感は強い。円高への警戒もあり、製造業の悲観に繋がったと考えられる。また、非製造業では、中国経済の減速や円高によって訪日客需要が今後鈍化するリスクや、勢いを欠く賃上げ情勢が先行きへの懸念を高め、景況感を下押ししたようだ。景況感の牽引役が見えない状況にある。
 
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計8、当社予想も8)、先行き(QUICK集計7、当社予想も7)ともに市場予想を下回った。大企業非製造業も、足元(QUICK集計23、当社予想も23)、先行き(QUICK集計20、当社予想も20)ともに予想を下回った。
 
一方、15年度設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比で8.0%増と、前回調査時点の7.8%増から小幅に上方修正された。例年、3月調査では計画が固まってくることに伴って、中小企業で上方修正される傾向が強く、今回も大企業における下方修正の影響を穴埋めした。
さすがに経営環境の悪化を受けて一部先送りの動きも出ていると考えられ、昨年3月調査での上方修正幅(0.8%ポイント)には及ばないものの、依然高水準の企業収益を背景に、下方修正は避けられた。とりわけ、労働集約的側面が強い非製造業では人手不足感が強く、省力化投資が一部下支え役になっているとみられる。
 
今回から新たに調査・公表された16年度の設備投資計画(全規模全産業)は、15年度計画比で▲4.8%となった。例年3月調査の段階ではまだ計画が固まっていないことから前年割れでスタートする傾向が極めて強いため、マイナス自体にあまり意味はない。そこで、近年の3月調査との比較が重要になるのだが、今回調査の結果は例年よりもややマイナス幅が大きめだ。先行きの不透明感が強いことが一部企業の様子見スタンスに繋がったものとみられる。
 
金融政策との関連では、今回の短観の内容は日銀が追加緩和に軸足を移す材料になりそうだ。今回の短観では、足元・先行きの景況感が明確に悪化し、今年度設備計画にも企業の慎重姿勢が垣間見える。さらに、企業の価格設定スタンス(すなわち値上げの動き)も日銀が「物価の基調」を判断する一要素に挙げられているが、今回短観における「販売価格判断D.I.」は、足元に弱い動きが見られ、販売価格引き上げが慎重化している可能性を示唆している。なお物価関連では、4日に発表される「企業の物価見通し」も引き続き注目される。企業の物価見通しは、14年3月調査から開始されたものだが、以降の企業のインフレ期待はずるずると低下してきている。今回発表される「企業の物価見通し」において、さらに下振れが認められれば、日銀の予想物価上昇率判断のさらなる下方修正に繋がる可能性がある。
追加緩和の時期については、本命はもうしばらく先(7月)になると予想している。日銀はマイナス金利政策を導入して間もないことから、しばらくは様子見スタンスを維持するとみられるためだ。特に今回のマイナス金利政策は市場や世論の反応が厳しいため、より慎重に効果と副作用を検証して説明する必要がある。ただし、今回の短観の内容は総じて弱く、4月に動く可能性もやや高まった。その場合はマイナス金利の拡大は避け、ETFの買入れ増額が主体になると見ている。
 

2.業況判断D.I.:全規模全産業の景況感は悪化、先行きはさらに悪化

2.業況判断D.I.:全規模全産業の景況感は悪化、先行きはさらに悪化

全規模全産業の業況判断D.I.は7(前回比2ポイント低下)、先行きは1(現状比6ポイント低下)となった。規模別、製造・非製造業別の状況は以下のとおり。

(大企業)
大企業製造業の業況判断D.I.は6で前回調査から6ポイント低下した。業種別では、全16業種中、悪化が10業種と改善の4業種を大きく上回った(横ばいが2業種)。市況悪化に苦しむ鉄鋼(22ポイント悪化)を筆頭に、生産用機械(10ポイント悪化)、電気機械(10ポイント悪化)、造船・重機等(8ポイント悪化)など円高・新興国経済減速の影響を受けやすい業種で悪化が目立つ。産業の裾野が広い自動車(6ポイント悪化)も、昨年の軽自動車税増税の悪影響を引きずっており、前回に続いて悪化した。
先行きについても、悪化が11業種と改善の5業種を大きく上回っており、全体では3ポイントの悪化を示している。木材・木製品(29ポイント悪化)、窯業・土石(12ポイント悪化)のほか、引き続き生産用機械(8ポイント悪化)、自動車(6ポイント悪化)などで悪化が目立つ。
大企業非製造業のD.I.も22と前回調査から3ポイント低下した。業種別では、全12業種中、悪化が7業種と改善の5業種を上回った。対個人サービス(16ポイント悪化)を筆頭に、政府からの値下げ要請を受けた通信(11ポイント悪化)や、国内消費低迷の影響を受ける卸売(6ポイント悪化)・小売(4ポイント悪化)などで悪化がみられる。訪日客増加の追い風を受ける宿泊・飲食サービス(10ポイント改善)も今回は大幅な悪化を示しており、円高によってインバウンド消費の勢いに悪影響が出ている可能性を示唆している。
先行きについても、悪化が9業種と改善の5業種を上回り、全体では5ポイントの悪化となった。引き続き通信(22ポイント悪化)が劇的な悪化を示すほか、足元は改善した建設(13ポイント悪化)、不動産(11ポイント悪化)も悪化。小売(5ポイント悪化)や宿泊・飲食サービス(3ポイント悪化)も引き続き悪化が見込まれている。
 
(図表1) 業況判断DI/(図表2) 業況判断DI(大企業)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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