2016年03月31日

ものづくりコミュニティの場として発展するファブラボ(FabLab)

社会研究部 上席研究員   百嶋 徹

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22番目の共通点は大企業との接点の拡大可能性
ファブラボもメイカーズも、生産者(企業)と消費者(市民)を分断した大企業中心のものづくりを市民に解放し、大企業によるトップダウンのイノベーションから、誰もが参加できるボトムアップのイノベーションへの転換を図ることを標榜して、当初スタートした。しかし、今後は大企業との接点が増えてくる可能性があるとみられる。

米GEや同プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など一部の大企業では、「クラウドソーシング」7の活用により、自社の仕様を公開してデザインを公募するといった動きが出てきている。この流れの中で、大企業が技術プラットフォームをオープンソース化し、ファブラボやメイカーズがこれに応えて生活者・ユーザー視点の製品開発を行い、大企業が大量生産するといった、新しいコラボレーション・モデルが生まれるかもしれない。これは、今は分断されている大企業とファブラボ、メイカーズの間に、緩やかなネットワークを橋渡しすることに他ならない。

なお、エレクトロニクス、情報通信、環境・エネルギー、ライフサイエンスなど最先端の科学技術を駆使したイノベーションは、大企業の研究開発部門がその中心を担っているが、これらの技術領域は当面ファブラボやメイカーズに代替されることはなく、大企業主導のイノベーションが今後も重要な位置を占めると考えられる。例えば、半導体産業は量産段階で巨額の投資を必要とする設備集約型産業だが、プロセス技術等の研究開発段階でも高価な試作ラインでの評価が必要となるため、人材や資金など研究開発のためのリソースを多く抱える半導体メーカーや製造装置メーカーなど、大企業がイノベーション推進において主導的な役割を果たしている。
 
7 インターネットを利用して不特定多数の人々に協力を募り、必要とするサービスやアイデアを取得することをクラウドソーシングと呼ぶ。
 

6――海外の政府・自治体によるファブラボの先進的な政策展開事例

6――海外の政府・自治体によるファブラボの先進的な政策展開事例

1米国:科学技術人材育成政策への展開
ファブラボでは、子供から大人まで市民の誰もが、DIWOの精神で連携しながらデジタルファブリケーションに取り組むことにより、アイデアを形にする喜びを分かち合うとともに、ものづくりに関するリテラシーを獲得し高めることができる。すなわち、ファブラボは人々の能力を引き出すエンパワーメント(empowerment)の場となりうるということだ。

ファブラボで生まれた生活者・ユーザー視点の創造的なアイデアや発明は、参加者自らの生活や趣味に活かされることが多いとみられるが、中にはラボの運営費の一部を稼ぐビジネスに育ったり、さらには参加者による起業につながることもありうるだろう。

次世代のイノベーションを創出する人材や将来の起業家を育成する視点では、とりわけ先入観を持たない子供たちが、ファブラボで試行錯誤しながらものづくりの喜びを体感し、創造性やものづくりのDNAを育むことが極めて重要になると考えられる。ファブラボ等で、次世代を担う子供たちの潜在的な可能性を引き出し、起業家精神やチャレンジ精神を育ませる啓発活動の成否は、国のイノベーション創出力ひいては将来の国際競争力に大きく影響するだろう。

前述の通りファブラボ拠点数が世界で最も多い米国では、これまで草の根であったファブラボの活動を国策としていち早く取り上げるべく、2013年に「National Fab Lab Network Act of 2013」という法案が超党派で連邦議会に提出された8。この法案により設立されるNational Fab Lab Network(NPO形態)では、人口70万人につき少なくとも1か所のファブラボを構築することを目標としており、これは街に「21世紀の図書館」を整備していくことであると考えられている。

本法案の主眼は、オバマ政権が初等中等教育段階からの科学技術人材育成政策として推進する「STEM(Science, Technology, Engineering and Math) 教育」で求められるスキルを学生が身に付けるのを支援し、次世代を担う起業家やイノベーターを育成することだ。
 
2バルセロナ市:都市政策への展開
ファブラボの先進地域であるスペイン(ファブラボの拠点数は世界で7番目に多い)のバルセロナ市は、ファブラボでの取組を活用して、クリエイティブシティ(創造都市)やスマートシティ(環境配慮型都市)への進化を目指している。同市では、街単位でファブラボを設置するとともに、街そのものをファブラボで作りかえようという「ファブシティ(Fab City)」構想を打ち出し、都市政策の中心にファブラボを据えている。これまで以下のような具体的取組が相次いで打ち出されてきた。

2010年にデジタル工作機械を活用して製作した実験的太陽光発電住宅「Solar Fab House(ソーラー・ファブ・ハウス)」を発表し、世界を驚かせた(図表1)。CNCルーターとレーザーカッターを用いて、すべて木材から自前で切り出した部材を、まるでプラモデルのように組み立てて家一軒をまるごとファブラボで自作してしまったのである。太陽の軌跡にぴったり沿う位置に、太陽電池パネルを並べて貼りつけて、自家発電を行うようにした。もちろん家具や内装もファブラボ製である9

バルセロナ市では、2012年にはファブラボの代表ヴィンセント・グアラート氏が市のシティ・アーキテクト(都市設計者)に就任した。続く2013年には、ファブラボ・バルセロナが、気温・湿度、騒音の大きさ、太陽光の強さ、空気の状態などの環境情報を市民が測定し、インターネット上のサーバにアップロードできるセンサー「Smart Citizen Kit」を開発した。設計図がオープンソースになっているので、市民は自分でも同センサーを作ることができ、作り方がわからなければファブラボに行って作り方を教えてもらうこともできるという10

このように、ファブラボが中心となって、企業、起業家、大学、行政、一般市民を巻き込みながら、都市全体の創造性・生産性の向上や生活環境の課題解決に取り組み、将来的には衣・食・住・遊にわたって、必要とするものを自分たちでつくる「自己充足型」の都市の実現を視野に入れているという。
 
8 本法案の概要に関する報道は、以下のURLを参照されたい。
http://3dprintingindustry.com/2013/03/20/rep-foster-introduces-bipartisan-legislation-to-promote-advanced-manufacturing-in-america/
9 田中浩也「ウェブ社会からファブ社会へ─21世紀の発明家を日本から生むための「場」としてのファブラボ」『ダイヤモンドオンライン』2013年8月9日より引用。
10 注9と同様。
 

7――むすびにかえて~ファブラボの今後の可能性

7――むすびにかえて~ファブラボの今後の可能性

最後に、ファブラボの今後の発展可能性を考える上でのポイントを整理して、むすびにかえることとする。
 
1ファブラボの理念と両立する営利活動の重要性
ファブラボは、大企業中心のものづくりを市民に解放し、個人による自由なものづくりの可能性を拡げることを標榜してスタートした活動である。したがって、市民が多様な人々と共創しながら、自由な発想・アイデアをものづくりに活かしていけるような文化を醸成することこそが、ファブラボの最も重要な理念・ミッションであることは今後も変わらない。

一方で、このことは、ファブラボでの営利活動を否定しているわけではない。前述のファブラボ憲章で謳われている通り、市民による自由なものづくりのためのラボの利用と衝突しない限り、新規事業の立ち上げ、プロトタイプの製作、小ロットの商品製作など営利活動のためにラボを利用することは可能であり、さらにそのような活動が成功した場合には、当該利用者がものづくりのためのインフラ・サービスや人的ネットワークを提供したファブラボへ利益還元を行うことが期待されている。

例えば、ファブラボ北加賀屋では、ラボで製作した加工品を販売して得た利益のうち、10%をラボに納付することが利用規約で定められている。また、開発段階のため加工品を当面販売しない場合は、出来る限り同ラボで開発された旨を表記し、将来事業化して収益が上がった段階でその一部を寄付することが求められている。

つまり、ファブラボでの営利活動の成功がラボの自主財源の拡大につながり、それによって最先端の工作機械のさらなる導入・機材ラインアップの充実=ラボの事業規模拡大が進めば、創造性豊かで発明の才能を持った優秀な人材を一層ラボに引き寄せることができ、ファブラボ発展の好循環につながると考えられているのである。

ただし、ものづくり文化の醸成というファブラボの志の高いミッションに反しないためには、ラボで取り組まれる営利活動は、目先の利益追求を優先する短期志向のものではなく、社会的課題の解決により社会的価値を創出するようなものでならなければならないといえる。
 
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

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