2016年03月31日

ものづくりコミュニティの場として発展するファブラボ(FabLab)

社会研究部 上席研究員 百嶋 徹

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2財源構造
ファブラボでは、運営・管理費用として、工作機械の維持・メンテナンス費用やリース料、スペース賃料(部屋代)、光熱費などが主要な費目として想定されるが、その財源も運営形態と同様に多様である。

日本のファブラボでは、会員制による会費を徴収するケースもあれば、利用者がラボの機材利用のための講習会を受講したり、機材を実際に利用する都度に、講習会参加費や機材の使用料金(定額や時間貸しなどラボによって多様)を徴収するケースもある。

一方、機材購入などのための設備投資費用は、会費収入などに加え、個人や企業からの出資金、機材メーカーなど企業からの現物寄付(寄贈)や無償貸与などによりカバーされているとみられる。
例えば、ファブラボ北加賀屋では、場所と設備の維持を参加会員の年会費でまかなうことによって、自分たちのつくる(学ぶ)場は自分たちで確保するという点からも、ものづくりに参加する全員が対等な関係性を構築することを目指している。

同ラボでは、定款に「財源」という項目を設け、そこに「事業に要する資金は、会員有志による出資金、会員による年会費、補助金、寄付金、主催するワークショップの参加費等の事業収入をもってこれに充てる。但し不足の際は代表及び副代表が負担する」ということを明記している。一般会員の会費(機材利用参加費を指す)は、 3か月ごとに7,500円(月額2,500円)となっており、機材利用予約は、会員で機材講習(無料)を受けた者に限定している。

また、会費規約で、出資金(1口10万円)を「個人/法人を問わず大型機材購入時に必要とされる設備投資費をまかなうものとして集める資金」と定めている。同ラボの目的に賛同し出資を行なった法人を「ビジョンシェアリングパートナー」と呼び、当該法人は出資額に関わらず同ラボの運営に関する決定権を持たないことも明記されている。

なお、ビジョンシェアリングパートナーは、ファブラボで共通して用いられる特有の言葉であり、出資金の範囲としては、現金だけでなく機材の現物出資も含むケースが多い。また、ビジョンシェアリングパートナーの特典としては、ラボが持つメディアでの当該法人のロゴの表記、ラボが参加するイベントにおける当該法人のロゴの掲載や当該法人の広報物の配布が、ラボによって行われることが挙げられる。

これによって、当該法人が社会的価値の高いファブラボの活動を支援していることが社会で認知され、ブランド価値へのプラス影響が期待されるている。
 

4――リアルとバーチャルを融合したネットワーク

4――リアルとバーチャルを融合したネットワーク

1DIY(自分で作る)からDIWO(みんなで創る)への進化を志向
個々のファブラボは、子供、学生、退職したシニア、エンジニア、デザイナー、職人、研究者など多種多様な背景を持った市民が自由に集い、自由な発想・アイデアで実際にものづくりを行えるオープンワークショップスペースであり、それは顔の見えるネットワークを形成する「リアルな場」である。

ファブラボでは、“Learn(ツールの使い方を学び)”→“Make(ツールを使って実際にものを作り)”→“Share(その成功体験や失敗体験を他者と共有する)”をグローバル共通の基本サイクルとしており、「ラボは機材貸しの場所ではなく、集う人々が共にものを創る場所」であるとの発想で運営されている。ラボに集う人々が実際のプロジェクトを通じて、異なる背景を超えて緩やかにつながり、互いに教え合い学び合うのがファブラボの特徴であると言える。

デジタルデータを基に3Dプリンターなどデジタル工作機械を用いてものづくりを行う「デジタルファブリケーション」は、個人によるものづくりを指す「パーソナルファブリケーション」と呼ばれることが多いが、ファブラボでのデジタルファブリケーションは、共創によるものづくりを指す「ソーシャルファブリケーション」の方が実態に近い。言い換えれば、ファブラボは、“DIY:Do It Yourself(自分で作る)”から”DIWO:Do It With Others(みんなで創る)”への進化を志向しているのである。
 
2世界中のファブラボを橋渡しする国際的ネットワーク
前項で述べた個々のラボ内での市民の緩やかなつながりに加え、世界中のラボを橋渡しする国際的ネットワークがファブラボの重要な特徴だ。

この国際的ネットワークには、まず設計データの共有などネットでつながることが可能であるという、デジタルファブリケーションの特性をフル活用した「バーチャルな場」としての側面がある。すなわち、ファブラボでは、ウェブ環境を活用して、ものづくりに関する知識・ノウハウやデザインなどの世界規模での共有活動、換言すれば「オープンソース化」に取り組んでいる。既述の通り、それを可能とするインフラとして共通の推奨機材を備え、そして実際にこの活動に協力・参加することが、ファブラボの名称を利用するための条件にもなっている。

オープンソース化の一例としては、ファブラボ鎌倉で、地元の革職人とデザイナーによるユニット「KULUSKA(クルスカ)」が作成したスリッパキットのデータをウェブ上でオープンにしたところ、ケニアのファブラボがそのデータを活用しつつ、地元の素材であるフィッシュレザー(世界最大の食用魚ナイルパーチの革をテグスで縫ったもの)を用いるなどのアレンジを加えて商品として販売し、ラボの収益源になったという例が挙げられる2

KULUSKAは、ファブラボ鎌倉からの提案により「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」3を利用し、KULUSKAのロゴを載せることをデータ利用の条件としている。ケニアのファブラボの近隣にオバマ大統領の祖母サラ・オバマ氏が在住しており、オバマ大統領の顔が刻印された、KULUSKAのデータを用いて作った真っ赤なスリッパをサラ・オバマ氏に贈呈したところ大変喜ばれたという。

さらに世界中のファブラボ関係者が一堂に会する場として、世界ファブラボ会議が年1回世界のどこかで開催されており、国際的ネットワークにおけるフェースツーフェースの「リアルな場」となっている。そこでは、ワークショップ、実習、シンポジウムなど多様な活動を通じて、情報共有の深化が図られており、日本では、2013年に第9回(Fab9と呼ばれる)が横浜で開かれた。
 
3リアルな場とバーチャルな場を最適融合したネットワーク構造
このように、ファブラボでは、デジタルファブリケーションの特性を活かした、ウェブ環境下でのオープンソース化の推進により、世界中のラボ間にバーチャルで緩やかなネットワークが張り巡らされる一方で、各ラボ内でのDIWOに向けた取組や世界ファブラボ会議の開催などにより、顔の見えるリアルな場の構築にも十分な注意が払われている。バーチャルな場とリアルな場を最適融合させることにより、ローカルおよびグローバルレベルで知識や創意工夫の結集を図っている点が特筆される。

ファブラボのネットワークをソーシャル・キャピタル論に当てはめると、ローカルレベルでは、個々のラボ内での人的ネットワークの緊密性を緩やかに高めつつ、グルーバルレベルでは、世界中の多様なラボ間を橋渡しするソーシャル・キャピタルを国境を超えて張り巡らせることに成功していると言えよう4。そして個々のラボに集う人々や世界中のラボにとって、既述のファブラボの4要件やファブラボ憲章が共通の拠り所となっており、これが緩やかなものづくりコミュニティの一致結束を図る役割を担っていると考えられる。
 
2 詳細な説明については、渡辺ゆうか「ほぼなんでもつくるファブラボ ファブラボ鎌倉における実践とその可能性」科学技術振興機構(JST)『情報管理』2014年12月号を参照されたい。
3 CCライセンスとは、インターネット時代のための新しい著作権ルールで、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません」という意思表示をするためのツールである。CCライセンスを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができる。
4 ソーシャル・キャピタルとは、コミュニティや組織の構成員間の信頼感や人的ネットワークを指し、コミュニティ・組織を円滑に機能させる「見えざる資本」であると言われる。
 

5――ファブラボとメイカームーブメントの共通点

5――ファブラボとメイカームーブメントの共通点

11番目の共通点はバーチャルとリアルの両面をうまく活用したネットワーク構造
2012年に刊行された『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』の著者であるクリス・アンダーソン(Chris Anderson)氏が提唱した「メイカームーブメント(maker movement)」の考え方は、ファブラボの思想と共通している点が多いと思われる。同氏によれば、メイカームーブメントはモノを作る機械の革命、コンピューター革命(情報革命)に続く、3つ目の産業革命にあたり、それはデジタルと製造(ファブリケーション)が融合した革命であるという。

その考え方とは、デジタルファブリケーションの進化により、技術アイデアを公開し、ネット上のコミュニティを利用してオープンイノベーション5の下で製品化をスピーディに進めることが可能となったことから、アイデアとラップトップさえあれば誰もがメイカーズ(ものを作る人々)になれる、というものだ。これは、市民の誰もが、デザインのオープンソース化など共有・共創によりデジタルファブリケーションに取り組むことを目指す、ファブラボの考え方に極めて近いと言えよう。

自分の趣味のためにメイカーズになる人が大半であるとされるが、その中から起業する人々も現れてきている。ファブラボも同様の状況にあると思われる。アンダーソン氏も小型無人機「ドローン」の開発販売を行う米3Dロボティクスを2009年に創業し、自らの考え方を実践している。

メイカーズは、デジタルファブリケーションとネットコミュニティを駆使するため、本来は場所を選ばないはずだが、同氏によれば、メイカーズの拠点は都市部に集中している傾向があり、それは製品アイデアを持っている人やそれを実現するデザイン技術を持った人々が都市部に多いためであるという6

つまり、メイカームーブメントでは、 インターネットというバーチャルなネットワークがフル活用されつつも、クリエイティブなアイデアやデザイン技術を持つ人々は、自らが居住する都市部のリアルな場でコラボレーションを繰り広げているとみられる。バーチャルとリアルの両面をうまく活用したネットワーク構造も、ファブラボと共通する点だ。
 
5 外部組織との連携によって、組織外の叡智や知見を積極的に取り入れることをオープンイノベーションと言う。
6 倉沢美左「「メイカーズ革命」は全産業を変える 『MAKERS』著者のクリス・アンダーソン氏に聞く」『東洋経済オンライン』2013年1月22日を基に記述した。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

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