2016年03月31日

まちづくりレポート|多摩に広がる共感コミュニティ

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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2|共感コミュニティの特徴
以上5つの事例に共通する特徴は、いずれも、個人的な興味・関心事に基づく自発的な活動であり、外に開かれた、共感する者同士のゆるやかなつながりが形成されており、参加者が楽しげで、前向きであることだ。

中には、商店街の活性化という地域課題の解決を目的とした事例も含まれている。しかし、そこで実際に行われている個々の活動は、メンバーの興味や関心事に基づいた自発的なものであり、義務感や使命感から行っている活動ではない。

その活動は、いずれも人とのつながりを希求しており、つながり自体は閉じたものではなく外に開いたオープンなものである。運営するメンバーの関係はフラットで、そこで行う活動への関わり方、楽しみ方は人それぞれという、ゆるやかなつながりである。ミッションがあり、規約があって、メンバーの役割が決まっていてという組織的なものではない。

興味・関心事に基づく自発的な活動に、背景が異なる者同士で取り組むことで、一人では得られない発見や新たな展開が生じ、広がりが生まれる。だから活動が楽しく、前向きに取り組むことができるのだ。
 
3|共感コミュニティを成立させる3つの要素
5つの事例はいずれも、「共感の種」、「開かれた場所」、「つながる仕組み」という3つの要素を持っている。「共感の種」は、人々がつながるきっかけを提示するものである。「開かれた場所」は、文字どおり誰でも入ることができる場所だ。「つながる仕組み」は、人と人のゆるやかなつながりを生む仕掛けである。

例えば、「国立本店」であれば、本とまちが共感の種と言える。「国立本店」は誰でも利用できる外に開かれた場であることから、本とまちに引っかかりを持った人が集ってくる。そこには店番がいて、「ほんの団地」や「貸本」という、つながる仕組みを利用することで、ゆるやかなつながりが生まれる。そうした経験からさらに、「国立本店」の取り組みに興味を持ち、「ほんとまち編集室」のメンバーに応募する人が出てくるのである。

5つの事例からは、共感コミュニティを成立させるためには、この3つの要素が必要不可欠であることがわかる。
図表2 各事例における共感コミュニティを成立させる3つの要素

3――共感コミュニティが増えている理由

3――共感コミュニティが増えている理由

ここでは、これら事例の運営者や参加者の証言から、共感コミュニティが増えている理由、背景を考察したい。

1|リアルなつながりが生む価値に重きを置く人の増加
そもそもこれだけ人とつながろうとする人が増えているのはなぜか。「国立本店」の加藤さんは、「インターネットによって様々な情報を得ることができるようになり、選択肢が広がりすぎた分、必要な情報を選択することが面倒になった」ということを指摘する。また、「テレビなどのマスメディアから与えられる情報に、これまでほど多くの人が共感することがなくなり、むしろリアルなつながりの方が面白いと思うようになっている。ここに来ればある程度、人と共有できるものがある」と話してくれた。

メディアを通して与えられる情報より、直接的、間接的な人とのつながりから得られる情報や体験に価値を見出す人が増えているということだろう。「国立本店」に限らず、これらの事例の「開かれた場所」に集う人すべてに当てはまるのではないか。

リアルなつながりが生む価値に重きを置く人が増えたことが、利用者の側面から見た、共感コミュニティが増えていることの背景だとすると、共感コミュニティを運営する人たちの背景には何があるのだろうか。

2|暮らしのそばで楽しみ、働くことを志向する人の増加
加藤さんは、多摩地域には「自分が暮らす地域で仕事以外に何かしたい、ここに住んで、ここで何かしたいと考える人が多い」と思うと話してくれた。

「Chika-ba」の西川さんは、「仕事以外に自分のやりたいことをしたい人が増えているのではないか」と加藤さんと同様の見方をする。また、「多摩地域は都心で働く人が住んでいる場所だが、最近、フリーで仕事をし始める人が増えてきて、そういう人はプロジェクト単位でつながる働き方をしている」と、多摩地域の人の働き方が変わってきたと指摘する。

加藤さんも、「多摩地域には、フリーランスの人が集まっているので、何かしらやろうとするとできる人がたくさんいる」と言う。

「西国図書室」の篠原さんは、住み開き10をしようとする人から相談を受けることがあると言い、そのような人は、「今は都心で働いているけど、将来地域で何かしたいと思っている人で、それが前提にある」と教えてくれた。さらに、「多摩の人は都心に行かなくなった。多摩地域の中で楽しめる場所があり、そこで働こうとする人が増えている。自分のまちで楽しもうとしている」と話す。

「キョテン107」の宮崎さんは、「多摩には都心部と違う楽しみ方がある。人々が近くでどう楽しめるかを考え始めた。新しい遊び方、楽しみ方を見つけ出そうとしていて、そこに共感があるから動きが出て、価値観も合うので横のつながりもできてきている」という。

これらの証言から、多摩地域に共感コミュニティが増えている背景には、自分が暮らす地域に関心がある人の増加があることが分かる。自分が暮らす地域で人との関係を育み、楽しみを見出そうとしている人が増えているのだ。そのような人が、共感の種を入り口につながり、ここで示した事例のような各々の楽しみ方を現実の形にしている。

さらに興味深いのは、仕事も地域で見出そうとしている点だ。地域に接点を持ち、自分のスキルを生かして、可能であれば地域で仕事をしたいと考えている人が増えていると考えられる。

事業で成功を収めて都心3区にオフィスを構え、六本木や銀座といったメジャーエリアで遊ぶといった発想や、多摩の郊外に住み、平日は都心で働き、休日は家で身体を休めるかレジャーで郊外地に行くというライフスタイルとは違った生き方を追求しようとしている人が増えているといえる。
 
3|つながりが、つながりを連鎖させる
「キョテン107」の高畑さんは、「キョテン107で会った人が、ここで面白いことをしているとSNSで語っていることを見ることが多くなった。ここを離れたところで伝わっている」と話す。

また、「地域資源をアレンジしてSNSで発信する人が増え、そこから広がって、別のところで新たなコミュニティが立ち上がる状況になっている」と話す。高畑さん自身も、他の取り組みを見て、「キョテン107」でもやりたいと思うことがたくさんあるという。

自分が暮らす地域に着目する人が増え、さらに地域の資源を編集して見せる人が登場している。そこで地域の魅力を再発見する人が増えており、面白いことをしているところに参加して、楽しさに気付いた人が、別のところで面白いことを始める。このように連鎖していく状況が現在の多摩地域にある。

さらに、連鎖的につくられた共感コミュニティ同士が、またつながっていく。「キョテン107」で「Chika-ba」が参加する交流会が開かれ、「キョテン107」のプロフィールボックスを「Chika-ba」が借りている。面白いことをしている場同士がつながって、そこからまた面白い状況が生まれている。
 
以上のように、多摩地域では、リアルなつながりが生む価値に重きを置く人が増え、暮らしのそばで楽しみ、働く志向のある人が共感コミュニティをつくり、その楽しさを知った人が拡散し、連鎖的に新たな共感コミュニティをつくっていくという、共感コミュニティ拡大の連鎖が形成されているのである。
 
 
10 自宅などの私的な空間を限定的に開放し、公的な場として活用する取り組み。活用方法は公益性のあることに限らず、自分の興味・関心事に共感する人と分かちあおうとする行為を、無理せず身の丈にあった方法で実現しようとしているところに特徴がある。アサダワタル著「住み開き 家から始めるコミュニティ」(筑摩書房)に詳しい。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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