2016年03月30日

鉱工業生産16年2月~東日本大震災以来の減産幅だが、過度の悲観は不要

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.輸送機械が前月比二桁の大幅減産

経済産業省が3月30日に公表した鉱工業指数によると、16年2月の鉱工業生産指数は前月比▲6.2%(1月:同3.7%)と2ヵ月ぶりに低下し、ほぼ事前の市場予想(QUICK集計:前月比▲6.0%、当社予想も同▲6.0%)通りの結果となった。出荷指数は前月比▲4.6%と2ヵ月ぶりの低下、在庫指数は前月比▲0.1%と2ヵ月連続の低下となった。
鉱工業生産・出荷・在庫指数の推移 2月の生産を業種別に見ると、大手自動車メーカーの工場操業停止の影響で輸送機械が前月比▲10.2%と大幅に落ち込み、輸送機械だけで2月の生産は▲2%程度押し下げられた。その他の業種では新興国経済減速の影響などから電子部品・デバイス(前月比▲14.7%)、はん用・生産用・業務用機械(前月比▲7.3%)などが大きく落ち込み、速報段階で公表される15業種中13業種が前月比で低下、2業種が上昇した。
2月の生産は東日本大震災が発生した11年3月(前月比▲16.5%)以来の大きな落ち込みとなったが、最近の生産指数は1月が急上昇、2月が急低下という傾向がある(14年は1月が前月比3.2%、2月が同▲2.1%、15年は1月が前月比4.1%、2月が同▲3.1%)。今回は事故による操業停止という一時的な要因が加わったことで、減産幅がより大きくなったという側面があるため、2月の急激な落ち込みを過度に悲観する必要はないだろう。
財別の出荷動向を見ると、設備投資のうち機械投資の一致指標である資本財出荷(除く輸送機械)は15年10-12月期の前期比▲0.8%の後、16年1月が前月比6.8%、2月が同▲10.3%となった。また、建設投資の一致指標である建設財出荷は15年10-12月期の前期比▲2.4%の後、16年1月が前月比4.5%、2月が同▲4.8%となった。1、2月の平均を15年10-12月期と比較すると、資本財出荷(除く輸送機械)は▲1.2%、建設財出荷は▲0.7%低い水準となっている。
GDP統計の設備投資は15年7-9月期の前期比0.7%から10-12月期には同1.5%へと伸びを高めたが、10-12月期の経常利益(法人企業統計ベース)は海外経済の減速や円安一巡の影響などから前年比▲1.7%と4年ぶりの減少となった。企業収益の悪化を受けて、16年入り後の設備投資は減速している可能性が高い。
消費財出荷指数は15年10-12月期の前期比0.9%の後、16年1月が前月比3.5%、2月が同▲4.3%となった。非耐久消費財は前月比1.2%(1月:同0.1%)と堅調を維持したが、耐久消費財が前月比▲8.3%(1月:同5.2%)と急速に落ち込んだ。
財別の出荷動向 消費財出荷指数の16年1、2月の平均は15年10-12月期とほぼ同水準(▲0.1%)にある。家計調査の消費支出、商業動態統計の小売販売額等の動きと合わせて考えると、足もとの個人消費は横ばい圏の推移が続いていると判断される。
GDP統計の個人消費は季節調整をかける際にうるう年調整が行われていない。現時点では、16年1-3月期の個人消費は前期比で0.5%程度のプラスになると予想しているが、当研究所ではGDP統計の1-3月期の個人消費はうるう年の影響で前期比0.4%程度押し上げられると試算しており、実態としては横ばい圏の動きにとどまりそうだ。

2.1-3月期は減産が確実だが、実態は横ばい圏の推移

最近の実現率、予測修正率の推移 製造工業生産予測指数は、16年3月が前月比3.9%、4月が同5.3%となった。生産計画の修正状況を示す実現率(2月)、予測修正率(3月)はそれぞれ▲1.8%、▲1.1%のマイナスとなった。
予測指数を業種別に見ると、輸送機械は3月が前月比11.5%と2月の落ち込み分(前月比▲10.2%)を取り戻した後、4月も同9.4%と2ヵ月連続の大幅増産計画となっている。輸送機械は計画と実績の乖離が比較的小さい業種なので、3月、4月の生産計画は前向きに捉えることができる。国内の自動車販売台数の減少ペースが年明け以降加速していることは懸念材料だが、2月の減産は部品調達がストップしたことによるもので在庫水準自体は大きく低下しているため、本格的な在庫調整は避けられるだろう。
一方、情報通信機械は3月に前月比17.5%の大幅増加となっているが、同業種は15年11月以降、翌月の計画が前月比で二桁増、実現率が二桁のマイナスというパターンを繰り返しているため、3月の大幅増産計画はあてにならない。情報通信機械の下振れ分だけでも生産全体の予測指数は▲0.5%程度割り引いてみる必要がある。
輸送機械の生産、在庫動向/新車販売台数(含む軽乗用車)の推移
16年2月の生産指数を3月の予測指数で先延ばしすると、16年1-3月期は前期比▲0.7%となり、2四半期ぶりの減産となることが確実となった。15年10-12月期の増加分(前期比0.5%)以上の落ち込みが見込まれるが、事故による工場操業停止という一時的な要因も含まれているため、実態としては横ばい圏の推移が続いていると判断される。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2016年03月30日「経済・金融フラッシュ」)

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