2016年03月25日

資金循環統計(15年10-12月期)~個人金融資産は前年比29兆円増の1741兆円

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(15年12月末): 15年9月末比では39兆円増

2015年12月末の個人金融資産残高は、前年比29兆円(1.7%)増の1741兆円となり1、(現行ベースで遡れる2005年以降で)過去最高を更新。年間で資金の流入超過が21兆円あったほか、株価上昇を受けて、時価変動2の影響がプラス8兆円(うち株式等がプラス10兆円、投資信託がマイナス5兆円)発生した。
四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(15年9月末)比で39兆円の増加となった。例年10-12月期は一般的な賞与支給月を含むことからフローで流入超過となる傾向があり、今回も19兆円の流入超過となった。さらに、10-12月期は中国不安の一服などから株価が持ち直したため、時価変動の影響がプラス20兆円(うち株式等がプラス16兆円、投資信託がプラス4兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。
 
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)/(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と為替の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 ちなみに、家計の金融資産から金融負債を控除した純資産は、1361兆円と、15年9月末の1327兆円から34兆円増加している。9月末以降、負債も5兆円増加しているため、資産残高と比べて伸びがやや限定的となっている(図表5)。
 
なお、その後の1-3月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年フローで資金流出超となる時期にあたる。また、中国不安の再発や原油安などから、市場で急激な株安・円高が進んだため、現在の個人金融資産残高は12月末から大きく減少していると考えられる。
 
 
1 今回、2008SNAを踏まえた見直しが実施されており、ストックは2005年1-3月期、フローは4-6月期以降のデータが遡及改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.内訳の詳細: 投資信託への資金流入が継続

10-12月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を見ると、季節要因(賞与等)によって例年同様、現預金(とりわけ普通預金等の流動性預金)への資金流入(積み増し)が顕著になっている。ただし、近年の同時期と比べると、現金・預金への流入規模は少なめとなっている。現金は近年を上回る流入となったものの、流動性預金への流入が近年を下回った。また、この時期としては異例となるが、定期性預金から資金が流出した影響も大きい。
 
リスク性資産に関しては、引き続き株式等からの資金流出が続いたが、その規模は1.5兆円と、近年の同時期をやや下回った。一方、投資信託への資金流入は1.3兆円と近年を上回る流入額となり、株式等からの資金流出額をほぼ相殺している。
一方、株と投資信託に外貨預金や対外証券投資などを加えたリスク性資産の残高は284兆円、その個人金融資産に占める割合は16.3%と、9月末の265兆円、15.5%からそれぞれ拡大した。株価上昇によって時価が増加した。
 
その他証券については、例年と比べて大きな特徴はなかった(図表6~9)。
 
(図表6)家計資産のフロー(各年10-12月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年10-12月期)/(図表8)株式・出資金・投信除く証券のフロー(10-12月期)/(図表9)リスク性資産の残高と割合
なお、1月末に日銀がマイナス金利導入を決定し、預金金利が幅広くほぼゼロまで低下したため、家計の資産運用を見直す機運が高まっている。運用収益を求めてリスク性資産へのシフトが見られるか?が次回1-3月期資金循環統計の注目点となる。
 

3.その他注目点: 企業の対外投資は継続、海外勢の国債保有シェアが初の10%越え

15年10-12月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると、これまで同様、企業部門と家計部門が資金余剰、一般政府と海外が資金不足となった。特徴的な動きは、企業の資金余剰が7-9月期から大きく減少し、家計が持ち直した点だ。10-12月期に雇用者報酬が増加する一方で消費が抑制的となったことが影響した可能性がある(図表10)。
 
また、12月末の民間非金融法人のバランスシートを見ると、現預金残高は247兆円と、9月末から3兆円増加し、過去最高を更新した。ただし、負債サイドの借入金もこの間に5兆円増加しているため、純借入金残高(借入金-現預金、111兆円)としては9月末から3兆円増加。例年年末に純借入が増加する傾向があり、今回の動きも同様とみられる。
これまでに積み上がった現預金が前向きな資金として積極的に取り崩される動きはまだ見えないものの、企業による海外直接投資は引き続き投資超過となっている。現地生産の流れや活発な海外M&Aなどから、企業による海外投資の拡大基調は続いている(図表11~12)。
 
(図表10)部門別資金過不足(季節調整値)/(図表11)民間非金融法人の現預金・借入/(図表12)民間非金融法人の現預金・対外直接投資(フロー)/(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア
国庫短期証券を含む国債の12月末残高は1036兆円と、従来の過去最高であった12月末(1040兆円)からやや減少。前年比では15兆円の増加となる。また、12月末からの減少についても、主に一時的な資金不足を補うために発行される国庫短期証券が減少したためであり、国債・財投債はこの間に13兆円増加している。
国債の保有状況を見ると、従来同様、預金取扱機関(銀行など)の保有高が減少(238兆円、9月末比18兆円減)する一方で、異次元緩和で国債の大量買入れを継続している日銀の保有高が増加(331兆円、9月末比16兆円増)し、両者の差がさらに拡大した。全体に占める日銀の保有シェアも32.0%(9月末は30.3%)と最高を更新している。日銀は今後も異次元緩和を継続するため、日銀の存在感(シェア)は着実に高まっていく。
 
また、海外部門の国債保有高は110兆円と9月末から8兆円増加し、過去最高を更新。そのシェアも10.6%と、初めて二桁に乗せた。海外金利の低下やドル調達コスト上昇によって、大量の海外マネーが日本国債に流れ込んだ(図表13)。
 
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2016年03月25日「経済・金融フラッシュ」)

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