2016年03月16日

北イタリアのまちづくり事例に学ぶ公共空間活用の重要性~その2:ボローニャ、創造都市における公共空間利用~

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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■要旨

初回のフィレンツェに続き、本稿はボローニャ訪問から得た公共空間利用の状況について報告する。ボローニャのアーバンセンターや市職員との面談から、市が公共空間の活用をリードする案件として、(1)EUによる都市政策の動向にしたがって、旧市街地の道路や広場を歩行者と自転車優先の魅力ある空間として整備するT-days事業、(2)路上駐車帯などの公共空間を非営利組織がコミュニティ活性化のために活用することを認可し支援する小さな路のプロジェクト、(3)空いている公共施設などの空間を起業家への公募と審査を通じて利用させ、支援策を講じることによって、公共施設の再利用を通じた賑わい創出と経済効果、芸術家の育成を同時に行おうとするインクレディブル事業の3事例を紹介する。

■目次

1―はじめに
2―T-days事業
3―小さな路のプロジェクト
4―インクレディブル事業
5―ボローニャの公共空間利用のまとめ

1―はじめに

1――はじめに

初回のフィレンツェに続き、本稿はボローニャ訪問から得た公共空間利用の状況について報告する。
ボローニャ市はイタリアの中央部北側に位置するエミリア・ロマーニャ州の州都であり、市人口は先に訪れたフィレンツェよりやや多く37万人を超えているが、横ばい傾向にある。イタリアの産業の特徴は専門に特化した高度技術を持つ中小企業が集積していることであるが、ボローニャも中小企業がネットワークを形成し、地域経済の活力を保持してきた都市である。
訪問先のボローニャ・アーバンセンター(http://www.urbancenterbologna.it/en/1のGiovanni Ginocchini館長によれば、ボローニャは市民力が強く、世界でもいち早く「創造都市」の概念を提唱し、まちづくりにおいても常にイノベーションに取り組んできた都市である。総合大学としては世界最古のボローニャ大学があり、1年で8万人の市民が入れ替わる若者の力に満ちた都市でもある。
以下では、Ginocchini館長から紹介されたまちづくり事業のうち、歴史的な旧市街地における2つの事業事例と、ボローニャ市の都市経済発展部テリトリー促進・部門間プロジェクト調整室のGiorgina Boldrini女史が中心となって展開している、公共1の空家や空床、店舗、空地等の再活用を推進するインクレディブル(Incredibol)事業について紹介する。いずれも、市民や起業者とともに、市が公共空間や施設の活用についてリーダーシップをとって支援・推進している事業である。
 
1 アーバンセンターは市が運営しているコミュニティ活動やまちづくり活動のための場である。ミラノなどにも同様のセンターがある。
2 市所有の空家や店舗等の施設、空地には、税の滞納などの事情によって物納されたり、収用されたりしたものや、市が出資して建設したショッピングセンターなどの空床や政策的に市が買い取った施設や土地などがある。
 

2――T-days事業

2――T-days事業

T-days事業は、世界歴史遺産に登録されているボローニャの旧市街地において市民や来訪者が自由に都市空間を歩き、楽しむことによって中心部の活性化を促そうという事業である。一見、銀座や新宿などの歩行者天国に類似した取り組みだが、既に市の中心部は交通規制ゾーンの指定下にあり、1日の交通量が2千台程度まで減少しているところに、さらに、中心部への特殊車両を除く自動車乗り入れ制限を厳しくし、歩行者優先の公共空間をつくるという点で違いがある。

1.事業主体
ボローニャ市交通局(http://www.comune.bologna.it/trasporti/notizie/2:10507/
 
2.対象公共物
市中心部のRizooli通り, Ugo Bassi通り, Indipendenza通りの3本の通りとこれらに入る連結部や広場からなる公共区間とエリア。これら3本の通りがT字型になっているため、T-days事業と名付けられている。
図1 T-daysの実施対象地区(Via Rizzoli, Via Ugo Bassi, Via Indipendenza)
3.事業概要
(1) 事業背景
EUが推進する都心政策にしたがって、市の中心部における安全で魅力ある歩行者自由空間の形成を通じて市民と来訪者の回遊を促し、市の活性化を促すことが目的である。
(2) 事業内容
毎週土曜日の午前8時から日曜日の午後10時まで、中心部のT字型の指定エリアへの自動車乗り入れを原則不可とし、歩行者と自転車だけが通行できるエリアとする。実施にあたっては、2011年2月と9月に試行を行い、2012年2月から社会実験を行いつつ、効果や影響を確認しながら、同年5月から実施に踏み切り、現時点で定着に至っている。
http://www.urbancenterbologna.it/nuovo-centro/529-tdays-ogni-weekend
(3) 事業スキーム
広場や道路、歩道、庭園などの公共施設の質的水準を高めるのと同時に、公共空間利用については、長期利用(Permanent 1年以上)と短期仮利用(Temporary 1年以下)に分けて、ルールづくりを行い、事業者や市民による活用を促進した。
指定エリアに入る通りは、時間が来るとゲートを閉めて自動車の進入を規制する。一部には時間が来ると自動的に進入や退出を規制するライジングボラード3を設け、自動的に車の規制を行っている。
(4) 事業評価
実施前に行った近隣住民会議では、地区の約400人の住民から約200の質問と約300 の提案を受けている。ウェブには1,700 、ブログには2万を超すアクセスがあった。約840人から公開提案に対する意見等を得ており、アーバンセンターのYou Tube チャネルを通じて約2,300回のT-daysに関する動画閲覧も行われた。
市がリードをとった事業であるが、住民参加を得ながらの実施であるため、市民からは大好評を得ている。週末には道路ではないまったく別の空間を提供した結果、市民団体による様々なイベントが展開され、にぎわいが形成され、住民が受けるT字型エリアの印象は大きく変わっている。この事業を歓迎してくれたのはファミリー世帯と若い人たちである。
一方で、高齢者からは公共バス等が使えないため不便になったという声がある他、一部の商業者からは常にどこでも同様だが、不便な状況が多いという不平も出ている。
高齢者や障がい者向けには、郊外部から縁辺部、縁辺部同士を回遊できるような公共交通網を新設し、利便性改善のための試行を行っている。
この事業が続けられるのは、ボローニャ大学が位置し、地域に若い世代が多いためである。高齢者が多い都市では、今以上に、高齢者の移動に配慮した方法を採り入れる必要があるとのことである。
 
図2 T-days実施エリアの様子やロゴ、市民の活動状況など
 
3  ボラード(bollard)は、元々船を岸に繋留するために岸壁に取りつけた杭であるが、現在、道路や広場などに設置して自動車の進入を阻止する目的で設置される。これが時限的に開閉する装置をライジングボラードと呼ぶ。図2の右下の写真を参照。
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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴
  • 【職歴】
     1975年 丸紅(株)入社
     1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
     2001年より現職

    【加入団体等】
     ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
     ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
     ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
     ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
     ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
     ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
     ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
     ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
     ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
     ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

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