2016年03月14日

北イタリアのまちづくり事例に学ぶ公共空間活用の重要性~その1:フィレンツェの魅力を高める光の演出~

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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2.対象公共物
市内すべての公共物(道路、歩道、広場、橋梁、河川等の公物および民間建築や歴史的遺産等を含む)。
3.事業概要
(1) 背景
フィレンツェ市では人口が減少するとともに観光収入も伸び悩んでいるが、旧市街地では再開発などによる思い切った振興策はとれないことから、何らかの施策を講じ、新たな魅力を創出する必要があった。
(2) 事業スキーム
Silfi 社は公共照明を担当する市交通局や経済観光開発局、情報・メディア局と連携し、特に技術面を担当している。同社は芸術面からの要請通りに光を演出できる専門的あるいは職人とも言える照明技術者を擁しており、Silfi社の存在意義を一段と高めている。Silfi 社に対する市の支援は、通常、公共空間を所定の目的以外のために利用する場合に課せられる占有料を、この事業では公共性を重視して課さないことである。
市の各局の役割は次の通りである。市交通局は、Silfi社による公共照明の時限的活用を認可する。経済観光開発局は、公共空間の時限的空間利用に関する認可を行うとともに、個々のイベント及び市内全域事業における芸術性を調和させるアート・ディレクションを担当する。このために、一貫したコンセプトに基づき全事業をマネージする専門家を起用4するとともに、スポンサーによるイベントへの資金調達を担当する。情報・メディア局は、これらの動きを逐一広報するとともに、事業実施に係る最終報告書作成を担当する。
(3) 事業内容
芸術性や社会性、観光促進、今後のビジネス展開を念頭に、市内全域の道路や歩道、広場、歴史的遺産などの公共空間を活用し、照明による演出やプロジェクション・マッピングによるアートパフォーマンスを実施する。
具体的には、シニョリーア広場(8,000 ㎡)、サント・スプリト広場(5,000 ㎡)、サンタ・マリア・ノヴェッラ広場(350 ㎡)、ムラテ(2,500㎡)、中央市場(5,000 ㎡)などの公共空間や歴史的遺産を拠点として、様々な光のイベントが開催されている。
F-Light 2014 では、“Beyond Generations”(世代を越えて) をコンセプトに掲げ、市民も子どもも参加できるようなイベントが導入された。子どもたちからオンラインで送られたすべての絵を、速やかにサント・スプリト教会の壁面を利用したプロジェクション・マッピングで投影するイベントである。多数の絵が毎日届き、観光客だけではなく、市民からも、非常に感動的で思慮深い、魅力的なイベントという評価が得られた。今後は他市との連携を実現することも考えているという。
昨年のF-Light 2015は、国際連合総会第68会期(2013年12月) において、2015年を光技術の革新によって様々なチャレンジが進んだ国際光年(IYL2015)とすることが宣言されたことを受け、「F-Light 2015 光とともに」というコンセプトに基づき開催された。
市内のあらゆる場所の公共空間や歴史遺産で様々な光のイベントが行われるが、F-Lightでは、このような統一コンセプトに基づき、アート・ディレクターによってすべてのイベントが美しく調和するようにマネージされている。
 
図7 サント・スプリト教会の壁面(正面)を用いた子どもの絵のプロジェクション・マッピング
 
4 F-Light 2015 では、フィレンツェやルカ、プラトー、ボローニャ、ミラノ、ベニス、パリ、リヨン、ルクセンブルグなどにおける芸術祭・展示会・イベント等のマネージメントで著名なSergio Risaliti氏をアート・ディレクターに起用している。
 

3――フィレンツェの公共空間利用のまとめと今後の事例について

3――フィレンツェの公共空間利用のまとめと今後の事例について

フィレンツェでは、数多くの公共空間利用事例のうち、F-Lighting Festivalについて概要を報告した。民間が個々の商業目的で行うイルミネーションや光イベントからさらに飛躍し、公共がリードすることによって、都市レベルで調和ある美しい古都の空間を光の芸術で満たし、フィレンツェの市民や観光客を魅了している。旧市街地の歴史遺産は、新しい命を吹き込まれ、誰もが認める付加価値を得ている。公共空間の活用が、いかに都市の価値を高めるのかが強く認識できた訪問であった。
民間事業や市民の参加は当然であるが、これを実現しているのが、市やSilfi社の強いリーダーシップとアート・ディレクターや照明技術等の専門家による取り組みである。日本の場合、市内の全域をまとめてマネージできるようなアート・ディレクションを行う人材を確保することは大変難しいものと考えられ、公共の役割と責任について改めて考えなければならないと感じた。
次回以降は、ボローニャにおける中心市街地における歩行者優先事業や小路プロジェクト、空き店舗を再生するインクレディブル事業、フェラーラにおける広場等の活用とカノネ、MIBAC(文化財・文化活動観光省)の存在、ヴェネツィアの伝統的カーニバルと歴史遺産の保全、ヴェネツィア対岸メストレの都市構造改革と旧都市機能・遺産をつなげる回遊路整備事業などの紹介を行い、公共空間の活用を推進する重要性や方法論について考えていくことにしたい。
 
図8 市内の広場や通りにおける美しく落ち着いた光の演出
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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴
  • 【職歴】
     1975年 丸紅(株)入社
     1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
     2001年より現職

    【加入団体等】
     ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
     ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
     ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
     ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
     ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
     ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
     ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
     ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
     ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
     ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

(2016年03月14日「基礎研レター」)

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