2016年03月09日

マネー統計(16年2月分)~マイナス金利の貸出への影響はまだ見えず

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 円高が下押し圧力に

日銀が3月8日に発表した貸出・預金動向(速報)によると、2月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.2%と前月(改定値2.3%)から小幅に縮小した。貸出の増勢自体は続いているものの、昨年8月(2.8%)をピークとして伸び率は鈍化傾向にある。伸び率を業態別に見ると、都銀等は一進一退ながらトレンドとしては低下、従来は上昇トレンドにあった地銀(第2地銀を含む)も緩やかに低下してきている。
昨年夏をピークに為替の前年比での円安幅が急速に縮小、足元では前年比で円高に転じている。このことが外貨建て貸出の円換算額を押し下げ、貸出全体の伸び鈍化に繋がっている。全体への影響度は不明だが、少なくとも、貸出の実勢として、増勢が強まっているということはないだろう(図表1~3)。
2月からマイナス金利政策がスタートしたが、始まったばかりということもあり、今のところ貸出残高への影響は見えない。3月以降の動向が注目される。
(図表1)銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)銀行貸出とドル円レート(月次平均の前年比)/(図表4)貸出先別貸出金
また、昨年12月末時点の業種別の貸出伸び率を見ると、海外円借款のほか、輸送用機械や一般機械、鉄鋼といった製造業の伸び率拡大が全体を牽引していたことがわかる。これらの業種は円高や海外経済減速の影響を受けやすいだけに、今後の下振れリスクに警戒が必要となる(図表5)。
 
なお、新規貸出金利については1月までのデータしか発表されていないが、短期(一年未満)、長期(1年以上)ともに昨年半ば以降下げ止まりを見せている(図表6)。マイナス金利政策開始によって、市場金利は大幅に低下しており、今後は貸出金利への波及が明らかになってくると考えられる。どの程度の金利が低下してくるかが焦点になる。
 
(図表5)業種別貸出の伸び率(前年比)/(図表6)国内銀行の新規貸出金利

2.マネタリーベース: 出足は問題ないペース

3月2日に発表された2月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中のお金)を示すマネタリーベース平均残高は前年比で29.0%の増加となり、伸び率は前月(同28.9%)からわずかに拡大した。日銀当座預金の伸び率は前年比40.6%と前月(41.0%)を若干下回ったものの、日銀券(紙幣)発行残高が前年比6.6%(前月は6.2%)と2003年2月以来の高い伸びを示し、これを補った。マイナンバー制度の導入に加え、直近2月はマイナス金利の導入で預金金利引き下げが相次いだことが、日銀券の伸び率拡大の背景にあると推測される(図表7~8)。
なお、マネタリーベースの月末残高は358.8兆円で引き続き過去最高を更新している。
 
(図表7)マネタリーベース伸び率(平残)/(図表8)日銀当座預金残高(平残)
(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移 金融政策との関係では、現行の金融政策におけるマネタリーベース増加目標は「年間約80兆円増」であり、単純計算では月当たり6.7兆円増が必要になる。今年に入ってからの月末残高の増加額は1月が2.6兆円、2月が0.04兆円とこれを大きく下回っている。ただし、1・2月は季節柄国債の発行超過(日銀当座預金減少要因)が大きく、マネタリーベースが拡大しにくい時期にあたることが影響している。
実際、季節調整済みのマネタリーベースの月間平均残高を見ると、1月は前月比8.2兆円増、2月は同9.4兆円増と、目標達成ペースを大きく上回っており、今年の出足としては問題無いペースで積み上げが進んでいると判断される(図表9)。
 
 ただし、2月から導入されたマイナス金利政策では、日銀の国債買入れに積極的に応じるなどして当座預金を積み上げすぎた金融機関は、日銀に対し0.1%の金利支払いを求められることになっただけに、今後の国債買入れ運営に支障が出ないかどうかが注目される。
 

3.マネーストック: 鈍化傾向が続く

日銀が3月9日に発表した2月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.1%(前月は3.2%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)は同2.5%(前月改定値は2.6%)と、それぞれ伸びが鈍化した。昨年夏をピークとして、伸び率は鈍化傾向にある。銀行貸出の伸び率鈍化や、逆張り傾向の強い個人投資家による株式売却(マネー増加要因)減少などが影響しているとみられる。
M3の内訳では、現金通貨の伸びが前年比6.7%(前月は6.4%)と11ヶ月連続で上昇し、2003年2月以来の高い伸びを記録。マネタリーベース中の日銀券発行残高の伸びと整合的な動きとなっている。一方、預金通貨(普通預金など)の伸び率は4.5%(前月は4.2%)と前月からは拡大したものの、伸び悩んでいる(図表10~11)。
 
M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比3.9%(前月も同じ)と前月から横ばいで推移。M3や投資信託の伸びは鈍化したが、残高が大きい金銭の信託(前年比伸び率:前月8.2%→9.7%)が下支え役となった。
なお、伸び率を一年前と比較した場合では(図表13)、国債からの資金流出が急ピッチで続いている一方、現金通貨、金銭の信託、投資信託の伸び率拡大が全体の伸びを牽引している(図表13)。
マイナス金利政策導入で、預金金利はほぼゼロとなり、家計や企業では資金運用再考の機運が高まっている。今後、「預金から現金へ(タンス預金化)」の動きや、「貯蓄から投資へ」の動きが出てくるのかどうかが注目される。
 
(図表10)M2、M3、広義流動性の動き/(図表11) 現金・預金の動き/(図表12)投資信託と準通貨の動き/(図表13)広義流動性主な内訳の伸び率
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2016年03月09日「経済・金融フラッシュ」)

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