2016年03月08日

福岡オフィス市場の現況と見通し(2016年)

竹内 一雅

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4. 福岡の新規供給計画・人口見通し

福岡では2008年と2009年の大量供給以降、オフィスビルの新規供給が少ない時期が続いている(図表-10)。2016年は久しぶりに、JRJP博多ビル(延床面積4.4万㎡)と東比恵ビジネスセンターⅡ(8.9千㎡)という複数の大規模ビルの供給が行われる予定だ。
福岡市中心部では福岡空港に近接するため航空法による高さ規制があり、容積率の問題からも築古ビルの更新が進まなかった。1981年以前に竣工したビル(ほぼ旧耐震ビルに相当)の構成比は床面積で41.4%に達し、主要政令指定都市の中で最も高い比率となっている(図表-11)。
しかし、国家戦略特区(グローバル創業・雇用創出特区)の指定を期に高さ規制の緩和(天神明治通り地区で67mから76mへの規制緩和)がなされたことなどにより、天神地区でのオフィスビルの大規模な建替えが期待できることとなった。福岡市は「天神ビッグバン」プロジェクトを開始し5、今後10年間で30棟の民間ビルの建て替えを誘導する計画である。
天神明治通り地区では、福岡地所による天神ビジネスセンター(仮称)の建設計画が進んでおり、福岡ビルの建替え計画なども実現に向けて動いている。また、七隈線の博多駅への延伸を控え、博多駅周辺でも再開発の動きがみられるなど、今後さらに、さまざまな開発計画が打ち出されると考えられる。
 
図表-10 福岡における新規供給計画/図表-11 主要都市における1981年以前に竣工したオフィスビルの棟数・面積構成比
住民基本台帳人口移動報告によると、2015年の福岡市の転入超過数は7,680人(前年比+1,116人の増加)と高い水準を維持している(図表-12)。男女年齢別の転入超過数(日本人)をみると、20~24歳女性の転入超過数が3千人を上回り、同年齢の男性の約2倍に達している。この若年女性の転入超過人口の多さが福岡市の大きな特徴である(図表-13)。
2015年国勢調査(速報)によると、2015年10月の福岡市の人口は1,538,510人だった(図表-14)。過去五年間での人口増加は+74,767人(+5.11%増)となり、市町村別では東京都区部に次ぐ第二位の増加数であった。2015年の人口規模は、国立社会保障・人口問題研究所の予測を上回っており、転入者数の多さや出生率の高さ6が人口増加につながっていると思われる。
一方、住民基本台帳に基づく人口によると、生産年齢人口は2013年から減少に転じている。福岡ビジネス地区の賃貸面積の増加は、福岡市の生産年齢人口増加数(前年)と高い相関関係があったが、2014年からその関係がくずれている(図表-15)。福岡におけるインバウンドの増加やIT・コンテンツ産業の成長といった経済の活況等が、生産年齢人口の増加を大きく上回るオフィス賃貸面積の増加をもたらしていると思われる。ただし、今後も生産年齢人口の減少が続くのであれば、賃貸面積の動向とその要因を注視する必要が出てくると思われる。
 
図表-12 主要都市の転入超過数/図表-13 福岡市の男女年齢別転入超過数(2015年、日本人)/図表-14 福岡市の人口見通し(5年毎)/図表-15 福岡ビジネス地区の賃貸面積増加と福岡市の生産年齢人口増加数(前年)
 
5 福岡市「『天神ビッグバン』始動!」を参照のこと。高さ規制の緩和にあわせ、天神明治通り地区の地区計画の変更により、当該地区の容積率を現行の800%から上限1400%まで上乗せ可能とした。福岡市「天神明治通り地区地区計画」参照のこと。なお、「天神ビッグバン」プロジェクトでは、地区内の延床面積を1.7倍(+31万3千㎡の増加)に、雇用者数を2.4倍(+5万7200人の増加)に拡大することを目指している。
6 人口動態統計によると2014年の福岡市の出生率(年間出生数/人口×千)は9.6‰で、主要都市では川崎市(9.7‰)とともに最も高い。
 

5. 福岡のオフィス賃料見通し

5. 福岡のオフィス賃料見通し

福岡における今後のオフィス供給や人口流入、経済の成長見通しなどに基づくオフィス需給の見通しから、2022年までの福岡のオフィス賃料を予測した7
推計の結果、福岡のオフィス賃料は、(標準シナリオによると)2015年(下期、以下同じ)から2017年まで+12.0%(2015年比)上昇した後に、2018年までわずかな下落(同+7.52%)となるが、再び上昇して2021年には同+19.9%まで回復し、2022年には同+12.3%になると予測された(図表-16)。
楽観シナリオでは当面の賃料上昇は2017年までに+22.0%(2015年比)の上昇の後、若干の調整はあるが、2021年には同+33.4%の上昇となり、2022年は同27.8%という結果だった。
悲観シナリオでは2017年までに2015年比+2.8%のわずかな上昇となるが、2019年までに同▲6.1%まで下落した後に、2021年に同+2.6%へと上昇し2022年は同▲4.0%になると予測された。
 
図表-16 福岡オフィス賃料見通し
 
7 推計で利用した経済成長率は以下の経済見通しを参照して設定した。ニッセイ基礎研究所保険研究部・経済研究部「中期経済見通し(2015~2025年度)」(2015.10.9)ニッセイ基礎研究所と斉藤太郎「2016・2017年度経済見通し(16年2月)」(2016.2.16)ニッセイ基礎研究所。なお、消費税率は2017年に10%、2021年に12%に引き上げられると想定している。
 

6. おわりに

6. おわりに

福岡市ではオフィス需要の増加が続いている。空室率は大幅な低下が続き、現在では、大規模オフィスビルの建替えをしようにも、既存テナントの移転先が確保できない状況にあるとも言われている。
人口の増加は東京都区部に次ぐ規模であり、インバウンドの増加やIT・コンテンツ産業の成長など経済の活況から、オフィス需要の増加が続くと考えられる。新規供給についても当面は大量供給の予定はなく、2020年頃からの本格化が予測される天神明治通りでの「天神ビッグバン」プロジェクトによる建替えの進展は、築古ビルの多い福岡のオフィスビルの更新と業務機能の新たな集積に大きく貢献するだろう。
2020年度に予定されている七隈線の博多駅までの延伸は、博多駅やキャナルシティの集客を増加させる一方、天神地下街の通行量等に影響を与える可能性があり、「天神ビッグバン」プロジェクトによる天神地区の再開発と就業人口の増加は、天神地区のにぎわいの維持・拡大のためにも重要と思われる。
本稿の予測では、「天神ビッグバン」プロジェクトのうち、具体化しつつある計画しかオフィス供給量として考慮していない。今後、天神地区を中心に、本稿での想定を上回る新規供給計画が発表されてくることが予想され、大量供給を埋めるために業務だけでなくホテルや商業などさまざまな需要を新たに生み出す必要がある。
福岡の都市機能の成長を維持するために、既存産業の振興に加え、ITやコンテンツ産業の創業・成長支援8、インバウンド産業の取り込み、アジアとの連携などによるビル需要の拡大に加え、国家戦略特区の規制緩和によって実現されたストリートパーティー9などを活用したさらなる都市の賑わいづくりに期待したい。
 
8 国家戦略特区(グローバル創業・雇用創出特区)の指定に伴い、「スタートアップ法人減税」や「スタートアップビザ(外国人創業活動促進事業)」などの政策が創設されることになった。
9 内閣府「国家戦略特別区域 区域計画」(2016.2.4)、福岡市「特区通信」各号などを参照のこと。
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竹内 一雅

研究・専門分野

(2016年03月08日「不動産投資レポート」)

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