2016年03月04日

複雑化する円相場を読む4つのポイント~金融市場の動き(3月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(2月): 日銀内での意見の乖離が鮮明に

(日銀)維持(開催なし)
今年から金融政策決定会合の開催が年8回へと減少したことで、2月は会合の非開催月にあたる。従って、必然的に金融政策の変更は行われたかった。次回の会合は3月14日~15日に予定されている。
 
なお、2月8日に「金融政策決定会合における主な意見」(1月28~29日開催分)が公表され、マイナス金利が決定された1月会合での政策委員の主な意見が明らかになった。
金融経済情勢に関する部分では、年明け以降の金融市場の不安定な動きによって、「人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大している」との意見があったほか、新興国・資源国経済の先行き不透明感の強まりや原油安によって「賃上げの動きが拡がりを欠き、物価上昇ペースが下振れるリスクには重大な関心を払わざるを得ない」との意見もあり、日銀内において、最近の世界経済・金融情勢が本邦物価に与える悪影響への強い警戒が広がっていた様子がうかがえる。
 
また、金融政策運営に関する部分では、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は、「量」・「質」・「金利」の3 つの次元で、追加緩和の余地が十分あることを示すことを可能とする」、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和は、イールドカーブの起点を引き下げ、大規模な長期国債買入れと合わせて、予想実質金利を一層引き下げる効果を発揮する」といったマイナス金利に賛同する意見が出た一方で、「ただちに政策対応が必要な情勢ではない。マイナス金利導入が市場にかえって政策の限界を印象づけてしまうことを懸念する」、「現状維持が適当である。(中略)マイナス金利導入は、資産買入れの限界と受け止められるほか、複雑な仕組みは混乱・不安を招くリスクがあり、かえって、金融緩和効果を減衰させる惧れがある」、「現在の状況は大がかりな政策変更を行うタイミングとは考えない。(中略)国債のイールドカーブをさらに引き下げても、民間の調達金利の低下余地は限られ、設備投資の増加も期待し難い」など、追加緩和やマイナス金利政策への反対意見も多数存在したことが明らかになった。
黒田総裁は自身の考えに近い委員を4名と総裁自身を入れて過半数の5名を確保しており、今後の政策決定に大きな支障は無いと見られるが、日銀内で意見の相違、すなわち不協和音が目立っていることは、期待に働きかける効果に影響を与える可能性がある。
 
消費者物価上昇率の推移/次回の金融政策変更の予測分布
今後の政策運営に関しては、日銀はしばらくは様子見スタンスを維持すると筆者は予想している。今回のマイナス金利導入は、従来の金融緩和措置(量的緩和拡大)と比べて、市場や国民による「副作用への警戒が強い」という特徴がある。日銀としては副作用が限定的であることをデータとして示さなければ、さらなるマイナス金利拡大には踏み出しにくい。
従って、筆者は次回の追加緩和の時期を今年の7月と予想している。この頃になれば、副作用に関するデータもある程度揃うほか、最近の円高などから、日銀が「物価の基調改善」の根拠としてきたエネルギーと生鮮食品を除くCPIなどの変調が顕著となり、追加緩和をせざるを得なくなると見ている。手法は、マイナス金利の拡大とETF買い入れ増額が最有力。マイナス金利の拡大は、小幅に刻むとインパクトに欠けるため、少なくとも0.2%以上の引き下げ幅になると見ている。
 

3.金融市場(2月)の動きと当面の予想

3.金融市場(2月)の動きと当面の予想

(10年国債利回り)
2月の動き 月初0.0%台後半からスタートし、月末は-0.0%台後半に。
1月末の日銀によるマイナス金利導入を受けて月初から金利は低下基調となり、5日には0.0%台前半に。世界的な株安に伴う安全資産需要もあり、9日には史上初のマイナスを付ける。その後は高値警戒感から10日にプラス圏に戻り、12日には0.0%台後半を回復したが、20年債入札で強い需要が確認されたことで金利低下に転じ、22日には再びマイナス圏に。以降も、日銀オペや2年債入札で需給逼迫が示されたことでマイナス幅を拡大し、月末は-0.0%台後半となった。
当面の予想
今月に入り、リスク回避地合いが緩和したことや、決算期末を控えた利益確定売りなどから10年国債利回りはややマイナス幅を縮小し、-0.0%台前半で推移している。今後とも日銀による大規模国債買入れとマイナス金利政策によって金利抑制圧力の強い状況が続く。ただし、高値警戒感や(未だプラス金利である)超長期債への需要シフトなどから、マイナス幅をどんどんと広げていく展開にもなりづらいだろう。当面の長期金利は小幅なマイナスからゼロ近辺での推移が予想される。ちなみに、今月の日銀決定会合で追加緩和が見送られた際に、一部追加緩和を織り込んでいた部分が剥落し、一時的な金利上昇の反応が出る可能性がある。

 
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールド・カーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(2月)
(ドル円レート)
2月の動き 月初121円台前半からスタートし、月末は113円台前半に。
月初、日銀マイナス金利導入の余韻でやや円安に振れたが、原油安等に伴ってリスク回避の円買いが優勢となり、3日に120円を割り込む。その後、米経済指標の悪化などに伴うドル売りも加わり、ドル円は急速に下落し、10日には115円を割り込んだ。さらに、イエレンFRB議長の議会証言を受けた米利上げ観測の後退もあり、12日には112円台に円高が進行。その後は世界的なリスク回避が一服したことで、16日には114円台を回復したが、原油安再開で再び円が買われ、19日には112円台に戻る。その後はG20を控え小動きが続いたが、月末は、米GDPの上方修正等を受けて113円台前半に回復。
当面の予想
今月に入り、米国で予想を上回る経済指標が出たことで足元は113円台後半にある。今後は、本日の米雇用統計で追加利上げの可能性を推し量ることになるが、3月16日のFOMCでは利上げが見送りとなり、政策委員の政策金利見通し(ドットチャート)も下方修正されるだろう。その前日の日銀決定会合で追加緩和が見送られると予想されることもあり、円安ドル高のエンジンは本格稼働せず、ドル円の上値は当面重いままだろう。中国株や原油価格の動向次第では、さらに円高方向に進むリスクもある。
 
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
2月の動き 月初1.08ドル台後半からスタートし、月末は1.08ドル台後半に。
月初、米経済指標の悪化を受けたドル売りで、4日に1.12ドル台へ上昇。しばらく一進一退の推移を経た後、リスク回避の高まりで低金利のユーロに買いが入り、11日には1.13ドル台半ばを付ける。その後はリスク回避の一服でユーロが売られ、15日には1.11ドル台へ下落。その後は、英国のEU離脱懸念が高まったことやECBの追加緩和観測が意識されたことでユーロ安圧力が強まり、22日には1.10ドル台に。以降、1.10ドルを挟んだ展開となる。月末は、米GDPの上方修正を受けて1.08ドル台後半に下落した。
当面の予想
今月に入り、米経済指標改善に伴ってドル高圧力が一旦強まったが、持ち高調整のユーロ買いも入り、足元は1.09ドル台前半で推移している。目先はドル円同様、本日の雇用統計が焦点となるが、来週にはECB理事会が開催される。ECBは既に追加緩和を示唆しており、その内容が注目される。市場は既に小幅なマイナス金利拡大は織り込み済みのため、それだけで終われば、12月のように失望によるユーロの買戻しが発生しそうだ。メインシナリオとしては、ユーロ圏の物価のマイナス転落を受けてマイナス金利拡大に加え何らかの対応が採られると予想され、ユーロは一旦下落すると見ている。ただし、中旬以降は、米利上げ見送りを受けて再びユーロが値を戻す展開になると見ている。
 
金利・為替予測表(2016年3月4日現在)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2016年03月04日「Weekly エコノミスト・レター」)

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