2016年03月04日

大阪オフィス市場の現況と見通し(2016年)

竹内 一雅

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2015年は新ダイビル、清和梅田ビル、HK淀屋橋ガーデンアベニューなどの新規供給があり、これらのビルが立地する地区(梅田地区、淀屋橋・本町地区)で賃貸可能面積と賃貸面積の増加が顕著だった8(図表-9)。賃貸面積は梅田地区での増加が最も多く(+2.7万坪)、次いで淀屋橋・本町地区(+1.1万坪)だった。賃貸面積の減少は心斎橋・難波地区でのみ見られた。
地区別に空室率の動きをみると、2015年に空室率が最も改善したのは梅田地区(7.45%→6.07%)で、次いで南森地区(6.34%→5.42%)だった(図表-10)。逆に空室率が悪化したのが心斎橋・難波地区(5.74%→8.78%)と、淀屋橋・本町地区(7.92%→8.27%)だった。
空室率の推移を月次でみると、年間で空室率の悪化が見られた心斎橋・難波地区では、2015年3月までは大阪ビジネス地区で最も低い空室率だったが、その後大きく上昇している(図表-11)。心斎橋・難波地区はビジネス地区内で最もオフィス集積の規模が小さいため(図表-8)、地区外への移転等による空室率上昇への影響が大きいためと思われる9。募集賃料については、2015年を通して、横ばいかわずかに下落する地区が多かった(図表-12)。
 
図表-9 大阪ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2015年)/図表-10 大阪ビジネス地区の地区別オフィス空室率(年次)/図表-11 大阪ビジネス地区の地区別オフィス空室率(月次)/図表-12 大阪ビジネス地区の募集賃料(2013.1=100)
 
8 淀屋橋・本町地区では、自社ビルへのテナント移転の影響が大きかったため結果的に空室面積は増加した。
9 自社ビルの移転によるテナントの移転が多く発生した淀屋橋・本町地区では、三鬼商事のデータによると2015年3月までに大きく空室率が上昇し、その後は改善が続いている。三鬼商事のデータでは、新築自社ビルへの移転による空室率への顕在化が三幸エステートよりも早めの2015年2月から表れている。脚注5を参照のこと。

4. 大阪の新規供給・人口見通し

4. 大阪の新規供給・人口見通し

大阪では2013年のグランフロント大阪やダイビルの供給(約6万坪)以降、新規のオフィス供給量は比較的低水準で推移している(図表-13)。2016年は市内での大型以上のビル供給は全くなく、2017年に中之島フェスティバルタワー・ウエスト、2018年に新南海会館などが計画されているが、当面のオフィス供給水準は過去と比べると多くはない10
住民基本台帳人口移動報告によると、2015年の大阪市の転入超過数は前年比+69.7%(11,076人)の大幅な増加で、主要政令指定都市の中で最も転入超過数が多くなった(図表-14)。転入超過数(日本人)を男女年齢別にみると、大阪市では20代の転入超過が顕著で、2015年は13,108人(前年比+2,923人の増加)で、大阪市全体の転入超過数を大きく上回っている(図表-15)。
国勢調査(速報)によると2015年の大阪市の人口は269.2万人となり、2010年(266.5万人)から+2.6万人の増加となった(図表-16)。国立社会保障・人口問題研究所では266.4万人と5年前と比べ若干の減少を予測しており、転入超過数の増加などから予測を上回る人口増加となったようだ。
 
図表-13 大阪のオフィスビル新規供給見通し/図表-14 主要都市の転入超過数/図表-15 大阪市の男女年齢別転入超過数(2015年、日本人)/図表-16 大阪市の年齢3区分別人口の現況と見通し
 
10 今後、梅田1丁目1番地計画(大阪神ビル・新阪急ビル建替え)、うめきた2期区域開発、梅田3丁目計画(大阪中央郵便局跡地開発)などでオフィスが供給される見込みである。

5. 大阪のオフィス賃料見通し

5. 大阪のオフィス賃料見通し

大阪の今後のオフィス供給や人口流入、経済成長率などに基づいたオフィス需給の見通しから、2022年までの大阪のオフィス賃料を予測した11(図表-17)。
推計の結果、大阪のオフィス賃料(標準シナリオ)は、2014年(下期、以下同じ)から2015年にかけて大きく上昇したために、2016年までの上昇率はわずかにとどまるが(2015年比で+2.7%)、その後の2018年までの下落(同▲0.8%)も小幅なものと予測された。2019年から賃料は再び上昇をはじめ、2022年に2015年比+11.5%になるという結果が得られた。
楽観シナリオでは上昇が続き、2022年に2015年比で+28.7%になると予測された。悲観シナリオでは2015年から2018年(2015年比で▲11.8%)まで下落が続き、その後上昇に転じ2020年に同▲4.1%、2022年に同▲5.7%という結果になった。
 
図表-17 大阪オフィス賃料見通し
 
11 推計で利用した経済成長率は以下の経済見通しを参照して設定した。ニッセイ基礎研究所保険研究部・経済研究部「中期経済見通し(2015~2025年度)」(2015.10.9)ニッセイ基礎研究所と斉藤太郎「2016・2017年度経済見通し(16年2月)」(2016.2.16)ニッセイ基礎研究所。なお、消費税率は2017年に10%、2021年に12%に引き上げられると想定している。

6. おわりに

6. おわりに

大阪のオフィス市場では、供給の少なさから当面、市況の改善が続くことが予測される。堅調な需要に比べて供給計画が少ないため、2017年の消費税率が10%に引上げられることによる景気悪化の影響も大きなものにはならないという見通しとなった。
オフィス需要の増加も堅調である。2015年は自社ビルの供給による賃貸オフィスからの移転が約1.5万坪あったと言われているにも関わらず、需要が大きく増加したことは、大阪のオフィス市場の力強さを示すものといえる。大阪市は転入者数の増加が顕著で、2015年の国勢調査では予測以上の人口増加が見られた。人口増加もオフィス需要の増加にプラスに働いていると考えられる。
現在、大阪では訪日外国人旅行者が急増し、心斎橋などを中心に外国人向けの商業販売が活況を呈している。大阪では近年、住宅開発が大きく進展してきたが、それに加えインバウンドの拡大によるホテルや商業開発も大きく進展することが期待される。そうした流れが競争力の低下したオフィスビルの建替えなどオフィスストックの更新や調整に貢献すると思われる。
当面、大阪のオフィス市況の底堅さは継続すると思われる。その中で、今後も築浅の大規模ビルが好まれる流れは変わらないだろう。周辺立地の築古ビルなどでも、空室率の低下や賃料の底打ち・上昇が続く可能性が高い。しかし、国立社会保障・人口問題研究所によると2015年以降、大阪市では人口の減少やさらなる高齢化の進展が予測されている。競争力がさほど高くない周辺立地の築古中小ビルを中心に、今後の競争力の維持可能性を考慮した中長期的なビルの利用方法についての検討を、ビル賃貸市況や不動産売買市況の良いこの時期だからこそ、改めて検討する必要があるように思われる12・13
 
 
12 うめきた2期区域の都市計画決定がなされていないため、本稿の予測では、うめきた2期におけるオフィス供給面積の想定は行っていない。うめきた2期の開発で大量のオフィス床面積が供給される場合は、大阪駅周辺への業務機能のさらなる集中が進展するとともに、いったん落ち着くと思われる大阪市内でのオフィス市況の二極化が再び拡大する可能性が高いと思われる。
13 少し古い分析となるが、1986年~2006年の事務所・営業所従業者の増加数の要因分析(シフトシェア分析)によると、当該期間における大阪市内事務所・営業所従業者数の減少は、成長産業の不足要因(産業要因)とともに、人口要因や他地域と比べたリストラの進展など産業構造では説明できない地域特有の要因(地域要因)が、他の主要都市大きいことが明らかとなった。竹内一雅「地方主要都市の事務所・営業所従業者数の動向」(2009.8.5)、竹内一雅「大阪オフィス市場の現状と見通し」(2010.2.26)を参照のこと。なお、これらの分析は事業所・企業統計調査のデータを基に分析しているが、事業所・企業統計調査の経済センサスへの移行に伴い、事業所・営業所従業者数の調査を行わなくなったため、同じデータを利用した直近までの分析は実施できなくなっている。
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竹内 一雅

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(2016年03月04日「不動産投資レポート」)

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