2016年02月26日

名古屋オフィス市場の現況と見通し(2016年)

竹内 一雅

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4. 名古屋の新規供給・人口見通し

名古屋駅前では、2015年竣工の大名古屋ビルヂング、JPタワー名古屋に続き、2016年から2017年にかけてさらに3棟の大規模オフィスビルの竣工が続く6(図表-11)。2011年~2014年の4年間の新規供給面積は2.0万坪と小規模だったが、2015年は4.5万坪の供給があり、2016年~2018年の3年間には約4.2万坪の供給が予定されている。
住民基本台帳移動報告によると、名古屋市の転入超過数は2015年には6,252人(前年比+1,810人の増加)で、他の主要政令指定都市と比べても転入超過数の増加は顕著である(図表-12)。これは、名古屋市への転入超過数の変動が景気回復との相関が高いため考えられる7(図表-13)。転入者数と転出者数に分けてみると、最近は特に転入者数の増加幅が大きく、2015年は前年比+4.8千人の増加で、バブル崩壊後最大の転入者数(8.7万人)となった(図表-14)。
名古屋市の男女年齢別転入超過数における大きな特徴は、転入超過数の多い20~24才において男性の転入超過数が女性を上回っていることである。主要政令指定都市でこの年齢層の転入超過数で男性が女性よりも多いのは名古屋市のみである(図表-15)。
名古屋市によると、生産年齢人口(15~64最人口)は減少が続いており、2015年の名古屋市の生産年齢人口は142万人(前年比▲4.9千人の減少)だった(図表-16)。生産年齢人口は今後も減少が予測されており、中長期的にはオフィス需要の減少や人手不足の深刻化も懸念される。
 
図表-11 名古屋の大規模賃貸ビル新規供給計画/図表-12 主要都市の転入超過数/図表-13 名古屋市への転入超過数と実質GDP成長率(前々年度)/図表-14 名古屋市の転入者数、転出者数と転入超過数/図表-15 名古屋市の男女年齢別転入超過数(2015年)/図表-16 名古屋市の生産年齢人口(15~64才)の現況と見通し
 
6 2016年にはシンフォニー豊田ビル、2017年にJRゲートタワーとグローバルゲートウエストタワーの竣工が予定されている。
7 名古屋市の転入超過数は、図表-13にあるように2年前の実質GDP成長率との相関関係が高い。

5. 名古屋のオフィス賃料見通し

5. 名古屋のオフィス賃料見通し

名古屋における今後のオフィス供給や人口流入、経済予測などに基づくオフィス需給の見通しから、2021年までの名古屋のオフィス賃料を予測した8
推計の結果、名古屋のオフィス賃料は、(標準シナリオによると)2015年(下期、以下同じ)から2016年にかけて+2.3%の上昇(2015年比)となるが、その後に下落に転じ、2018年(同▲4.5%の下落)まで下落し、2019年まで横ばいが続いた後に上昇に転じると予測された(図表-17)。2021年には2015年比で▲0.6%まで回復するが、2022年には再び下落し同▲2.9%に下落するという結果となった。 
楽観シナリオ、悲観シナリオともに、標準シナリオとほぼ同様のトレンドになると予測された。楽観シナリオでは2016年に+5.5%(2015年下期比)の上昇となった後に下落に転じ、2018年の同+0.9%を底に上昇し、2021年は同+7.8%、2022年は同+6.3%という結果だった。悲観シナリオでは、2015年をピークに下落が始まり、2019年まで下落(2015年比▲13.5%の下落)した後に上昇が始まり2021年は同▲8.9%、2022年は同▲10.6%であった。
 
図表-17 名古屋オフィス賃料見通し
 
8 推計で利用した経済成長率は以下の経済見通しを参照して設定した。ニッセイ基礎研究所保険研究部・経済研究部「中期経済見通し(2015~2025年度)」(2015.10.9)ニッセイ基礎研究所と斉藤太郎「2016・2017年度経済見通し(16年2月)」(2016.2.16)ニッセイ基礎研究所。なお、消費税率は2017年に10%、2021年に12%に引き上げられると想定している。

6. おわりに

6. おわりに

名古屋市のオフィス市場では、名古屋駅前での大規模ビル2棟の大量供給にも関わらず、2015年はバブル崩壊後で最大規模の賃貸面積の増加となった。その多くは駅前の供給に吸収されたが、伏見地区や丸の内地区でも賃貸面積の純増が見られるなど、名古屋のオフィス需要は堅調に推移している。
本稿の予測では、オフィス賃料は今後、上昇と下落を2~3年単位で繰り返す小さな振幅が予測された。大規模ビルの竣工による二次空室、三次空室の影響も多少出てくると思われるが、名古屋市への転入超過数の景気との連動性の高さを考えると、景気の堅調が続く限り、現在の拡張移転や館内増床、郊外エリアや自社ビルからの移転などの動きによるオフィス需要の拡大は、継続すると考えられる。
名古屋駅前の大規模ビルなどで需要が堅調な一方、わずかながら栄地区の空室面積が増加していることや、小型ビルの空室率の改善が停滞を始めるなど、回復の状況には二極化の兆候も見え始めている。地区間格差や規模間格差・築年格差が深刻化しないためには、オフィス需要のさらなる拡大に加え、築古ビルの建替えやインバウンド需要などを狙った用途転換などの検討も必要と思われる。
名古屋では現在、名古屋駅周辺を中心に新たな大規模再開発や、商業施設、ホテル、アミューズメント施設などの開発計画が進んでいる。その後は2027年にリニア新幹線の開業も控えており、今後、さらなる都市機能の強化・発展が期待される。ただし、業務・商業の拠点としての機能と魅力をさらに高めるためには、男性と比べて少ない若年女性の転入超過数の増加や、景気が悪化しても安定的に人口が流入するような、これまで以上に魅力的で繁華性のある街づくりと活力ある多様な産業の振興を期待したい。
 
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竹内 一雅

研究・専門分野

(2016年02月26日「不動産投資レポート」)

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