2016年02月23日

仙台オフィス市場の現況と見通し(2016年)

竹内 一雅

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4. 仙台の新規供給・人口見通し

仙台では2007年から2010年にかけて大規模なオフィス供給があり、その後、震災の影響もあり新規の供給は低水準で推移している。
仙台の今後のオフィス計画としては、2017年に野村不動産仙台青葉通りビルが、2018年にJR東日本による仙台駅東口開発計画(業務棟)があるが、当面、オフィス供給の少ない状況が続くと考えられる(図表-10)。オフィス計画が少ない一方、仙台では仙台駅のエスパルⅢやパルコ仙台新館などの商業開発が活発化しており、これは2015年12月に仙台市営地下鉄東西線が開業し仙台駅周辺へのアクセスが改善されたことも影響していると思われる。
仙台市は若者が非常に多い都市である。高校卒業後の若者の大量流入により、19歳を山とする特徴的な人口ピラミッドを形成している(図表-11)。ただし流入の数年後には他都市や地元に転出してしまう人が多いため20歳代後半にかけて全国の人口ピラミッドには見られない谷が生じている。
2015年の仙台市の転入超過数は1,140人だった。これは最近のピークである2012年の転入超過数(9,284人)の12.3%(▲87.7%の減少)である(図表-12)。転入超過数の減少は、転入者数が低下傾向にある一方、転出者数が増加しているためだ(図表-13)。東日本大震災直後からの復興事業に伴い大量に転入してきた関連事業従業者や、被災者の一部が、地元など市外へと転出し始めている可能性がある4
 
図表-10 仙台における大規模ビル新規供給計画/図表-11 仙台市と全国の人口ピラミッド(2010年)/図表-12 主要都市の転入超過数/図表-13 仙台市の人口移動
男女年齢別に転入超過数をみると、震災後の2012年にはほとんどの年齢層で大量の転入超過が見られた(図表-14)。しかし、2015年には、20歳代後半から転出の超過が見られ、それ以降の年齢層ではほぼ転出入が均衡する状況にあり、震災前の2010年とほぼ同様の転入超過状況に戻った。
すでに震災後の転入超過の流れはほぼ収束しており、今後は2012年~2013年に見られた大量の転入超過人口のうち、特に20歳代~50歳代の男性など、復興事業関連で転入してきたと見られる従業者の、仙台市からの転出の増加(転出超過への反転)によるオフィス市況への影響が懸念される。というのも、オフィス賃貸面積の増加(図表-5など)は転入超過数(図表-12など)との相関があると考えられるからだ。
国立社会保障・人口問題研究所によると、仙台市の人口は2015年に106.1万人2020年に106.2万人と今後もわずかに増加すると予測されている5。一方、生産年齢人口(15~64歳)は減少が進み、2010年の71.4万人から2015年には69.1万人6、2020年には66.9万人に減少する見込みだ。
 
図表-14 仙台市の転入超過数(男女年齢別)/図表-15 仙台市の人口見通し(2010年基準)
 
4 集中復興期間は2015年度に終了となる。これに伴い復興事業費は2011年度~2015年度の25.5兆円(変平均5.1兆円)から、2016年度~2020年度には6.5兆円(同1.3兆円)へと4分の一に減額される(復興庁「平成28年度以降5年間を含む復興期間の復旧・復興事業の規模と財源について」2015.6.30閣議決定)。
5 国立社会保障・人口問題研究所の将来予測は、青葉区、太白区、泉区に関して、震災後の転入超過数の急増を考慮したものとなっている。「日本の地域別将来推計人口(平成25(2013)年3月推計)について」参照のこと。
6 住民基本台帳に基づく人口によると、2015年9月末日における仙台市の生産年齢人口(15~64歳人口)は688,976人だった。
 

5. 仙台のオフィス賃料見通し

5. 仙台のオフィス賃料見通し

仙台における今後のオフィス供給や人口流入、経済予測などに基づくオフィス需給の見通しから、2021年までの仙台のオフィス賃料を予測した7(図表-16)。
仙台の成約オフィス賃料は2015年下期に大幅な上昇となった。このため、今後の上昇余地はさほどなく、2016年(下期、以下同じ)まで+2.5%(2015年比)上昇するが、2017年から下落に転じ、2018年(同▲6.4%)を底に再び上昇すると予測された。2020年(同▲1.1%)をピークに再び下落し、2022年には同▲5.6%になるという結果になった。
当面の賃料上昇は、楽観シナリオで同+7.5%(2016年)と予測された。その後の賃料の底は2018年で、楽観シナリオでは同+0.7%、悲観シナリオでは同▲15.7%だった。2020年のピークは楽観シナリオで同8.3%、悲観シナリオでは同▲10.8%、2022年の賃料水準は楽観シナリオで同+5.1%、悲観シナリオで同▲15.0%だった。
 
図表-16 仙台オフィス賃料見通し
 
7 推計で利用した経済成長率は以下の経済見通しを参照して設定した。ニッセイ基礎研究所保険研究部・経済研究部「中期経済見通し(2015~2025年度)」(2015.10.9)ニッセイ基礎研究所と斉藤太郎「2016・2017年度経済見通し(16年2月)」(2016.2.16)ニッセイ基礎研究所。なお、消費税率は2017年に10%、2021年に12%に引き上げられると想定している。
 

6. おわりに

6. おわりに

最近の仙台のオフィス市場は、新築ビルの竣工が非常に少なく、移転や賃貸面積の増減も少ない安定した状況が続いている。空室率は10%前後で規模間格差も小さいが、都心の大規模ビルでは空室が少なく、大型のコールセンター需要などに十分応えられない状況が近づいている。中小規模の拡張移転や館内増床が見られる一方、小規模ながら自社ビルなどへの移転や縮小、撤退などの事例もみられる。
2013年から人口の転入超過数が縮小する中で、オフィス賃貸面積の増加分もそれに比例して縮小しており、今後もオフィス需要はさほど強くない状況が続くと考えられる。本稿の推計によると、2017年の消費税率引上げと2017年~2018年にかけての2棟の新規供給をきっかけにオフィス賃料はわずかながら下落に転じるという結果が得られた。
当面の仙台オフィス市場における最大のリスクは、2016年度からの震災復興事業予算の大幅削減と思われる。震災後、仙台のオフィス市況は震災復興関連事業等によって牽引されてきたが、もし事業費削減に伴い仙台市からの関連従業員の転出が進むのなら、オフィス需要も減少に直面する可能性が高く、それを避けるためにも自立的な産業のさらなる育成が必要と思われる。
一方、地下鉄東西線の開通や仙台駅周辺での商業開発の進展など、今後、仙台駅を中心に市内中心部でのさらなる繁華性の拡大が期待できる。仙台のオフィス市場の成長のためにも、中心部での一層のにぎわいの創出やインバウンド産業の取り込み、大学と連携したIT系やコンテンツ産業などの育成、レンタルオフィスの整備など起業しやすいオフィス環境8の官民あげて9の整備などが望まれる。
すでに仙台の転出入状況はほぼ震災前の状況に戻っている。今後、たとえ震災復興事業関係者や被災者の転出があっても、それを補うだけの転入者があるような、あるいは大学卒業後にも仙台で働き続けたいと思われる魅力ある街づくり、産業づくりを期待したい。
 
8 河北新報「仙台市老朽ビル活用肩透かし 見込み違い指摘も」(2015.6.21)。IT系などの成長企業では、成長軌道に乗ると従業員数や賃借面積が一年で倍増するという事例は少なくなく、起業支援は中長期的なオフィス市況の活性化に貢献する可能性が高いと思われる。
9 仙台市は「女性活躍・社会起業のための改革拠点」として、「ソーシャルイノベーション創生特区(仙台市版地方創生特区)」の指定を受けた。ここでは「社会起業」「女性活躍」に加え、「近未来技術実証」や「医療」においても規制改革に取組んでいる。
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竹内 一雅

研究・専門分野

(2016年02月23日「不動産投資レポート」)

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