2016年02月22日

ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度を巡る動き-BaFinによる適用緩和策-

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4―BaFinによるZZR算出方法の緩和策について

BaFinは、2015年10月16日に「ZZRの再計算」に関する通知を公表している。ここでは、この内容について報告する。

1|緩和策の内容
BaFinは、継続する低金利環境下で、法令の下で許容されている裁量の範囲内で、生命保険会社によるZZRの積立等を容易にするために、今後のZZRの算出において、より現実的な形で、解約や年金開始時等に一時金を選択する確率を考慮に入れることができる、こととした。
ただし、この方式は、全ての保険契約に対して同じように適用されるわけではない。
1994年以前の契約2に対して調整を行う場合には、BaFinに事業計画の変更を申請し、その認可を得なければならない。
一方で、1994年以後の契約の調整は、責任アクチュアリー(日本の保険計理人に相当)がその報告書の中で、採用された解約や一時金選択率が適当であるとの説明を行うことで認められることになる。
ただし、いずれにしても、会社は、その計算式や計算結果さらにはそれらをバックアップする統計的証拠を提出する必要がある。BaFinは、2015年11月3日の通知の中で、この点を説明している。

2|影響及び効果
今回の緩和策により、ZZRを算出する上での、今後の契約の平均デュレーションが短くなることになり、追加の責任準備金負担が一定程度軽減されることになる。
DAVは、この調整の結果として、ZZRの増加は、保険会社の保有契約の状況にもよるが、5%~15%下落するだろうと推定している。一定程度の負担軽減効果はあることになるが、抜本的な解決策等になっているわけではない。なお、個別会社のベースでは、各社の商品ポートフォリオによって、影響度はさらに異なってくることにもなる。
新たな計算手法の適用に関しては、2015年度決算においては、通知の時期が年度の後半であったこともあり、一部の会社にとどまるようである。BaFinは、今後全ての保険会社が適用することを想定している、としている。
 
3|今回の緩和策についての評価
今回の緩和策については、それ自体は合理性はあるものと考えられるが、結局は、解約や一時金選択といった保険契約者の行動に関わる部分を、いかに合理的に推定計算ができるのかによっている。このことの説明責任を、保険会社や責任アクチュアリーに課した形になっている。
2014年7月の生命保険改革法の成立により、契約を解約する保険契約者の債券ポートフォリオの含み益を配分しなければならないという要件が改正された。株式及び不動産についての要件は継続しているが、この改正により、低金利下において保険契約者が契約を解約することが、これまでに比べて不利になっている。こうした点も考慮すれば、契約者サイドから見れば、高予定利率の契約ほど、解約や一時金選択へのインセンティブが働きにくくなっている。従って、保険契約者の解約等の効果を過大に見積もることは適当とは思われないことになる。ましてや、現在のような環境はこれまでに経験がないものであることから、このような状況下で、どの程度の解約や一時金選択が発生するのかについて、合理性を有する形で想定することは容易ではないものと想定される。保険会社にとって、一定の保守性に関するマージンも確保しつつ、いかに適正な水準を設定するのかは、大きな課題になってくるものと考えられる。
 
2 ドイツの保険会社における剰余の算出等は1994年7月の株主への利益配分に関する規制緩和以前の契約と以後の契約等に区分して行われている。
 

5―まとめ

5―まとめ

今回、BaFinによって、一定程度有意なZZRの積立緩和策が示された形になったが、大きな考え方の変更が行われたわけではない。現在のZZRに対する基本的な考え方が変更されない限り、今後も保険会社のZZR積立負担は続いていくことになる。
これまで、保険会社は、ZZRの積立財源を確保するために、金利低下で増加した債券の含み益を実現化してきた。このことは、ある意味で、オンバランスの追加責任準備金の積立を行うために、オフバランスの含み益の実現を図り、付け替えを行うことに等しい形になっている。 ただし、このことは将来の高利回りの収入を現時点で一括計上することを意味し、保有資産の平均利回りの低下を加速させていくことになる。
現在の低金利環境が継続する場合だけでなく、今後金利が上昇していく場合でも、ZZRの算定基礎となる参照利率は10年移動平均法で算定されていることから、金利上昇が参照利率に与えるプラスの影響は遅効的にしか効いてこない。従って、この場合には、債券の含み益が低下していく一方で、ZZRの積立負担が引き続き継続するということになる。仮に、金利が急激に上昇した場合には、資産と負債の差額としてのマージン等へのマイナスの影響が極めて大きなものとなっていく可能性がある。
こうした状況も踏まえて、BaFin自体も、さらなる分析・調査を進めることで、対応策を検討していくことを認めている。さらには、前回のレポートでも触れたように、DAVは、責任準備金評価用の最高予定利率制度のあり方と併せて、ZZR制度のあり方に関しても、意見を述べてきている。DAVは、(全社一律の強制積立ル-ルということではなく)一定の合理的な理由がある場合には、より個別の会社の状況も踏まえた上でのルールの判断も行えるように、責任準備金命令(DeckRV)の規定を改正することも提案してきている。これらの提案も参考にしながら、BaFin等において今後さらなる議論がなされていくものと考えられる。
ドイツにおけるZZR制度の見直し等を巡る動きについては、低金利がより長期間継続する環境下にある日本においても、極めて参考になるものがあることから、引き続き注視していくこととしたい。
 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年02月22日「基礎研レター」)

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