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公的年金額の据え置きは、年金財政にとって二重の痛手-年金額改定ルールと年金財政への影響の再確認
保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫
前述のとおり、大雑把に考えれば、現役世代と引退世代のバランスが変わらない場合には、年金額が賃金改定率で改定されても年金財政の収入と支出がともに賃金に連動する形になるため、財政バランスは維持されます。現在の本則改定の原則のように、受け取り始めた後の年金額が賃金改定率よりも低い物価改定率で改定されれば、年金財政が改善する方向に働きます。
しかし、前述した特例措置のうち、賃金改定率がマイナスで物価改定率がプラスの場合(図表3の(5)の場合)と賃金改定率と物価改定率がともにマイナスでかつ賃金改定率が物価改定率よりも小さい場合(図表3の(6)の場合)は、年金額の改定率が賃金改定率よりも高くなるため、年金財政が悪化する方向に働きます。同時に、年金額の伸び率(改定率)が現役世代の賃金の伸び率よりも高いという意味での、世代間のバランスの問題も生じます。
2|財政健全化のための調整ルール(いわゆるマクロ経済スライド)
(1) 基本的な考え方
財政健全化のための調整ルール(いわゆるマクロ経済スライド)は、年金財政が健全化されるまで実施される仕組みです。現在のルールでは、原則として、保険料を支払う現役世代が減少した分と、年金を受給する引退世代が増加する分にあわせて、年金額の改定が調整(削減)されます。具体的な仕組みは、図表4のとおりです。
財政健全化のための調整ルール(いわゆるマクロ経済スライド)にも、特例措置(いわゆる名目下限措置)が設けられています。特例措置は、(a)原則どおりに調整率を適用すると調整後の改定率がマイナスになる場合と、(b)本則の年金額改定率がマイナスの場合、に適用されます。
(a)の場合は、調整後の改定率がマイナスなので年金額が前年度を下回ることになります。これを避けるため、(a)の場合には、実際に適用される調整率の大きさ(絶対値)を本則の改定率と同じ大きさ(絶対値)にとどめて、調整後の改定率をゼロ%とすることになっています。(b)の場合は、本則の年金額改定率がマイナスなので、年金額が前年度を下回ることになります。そこで、財政健全化のための調整率をまったく適用しない、すなわち実際に適用される調整率をゼロ%とすることになっています。
03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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