2016年02月16日

【タイGDP】10-12月期は前年同期比+2.8%~政府支出を支えに緩やかな回復基調を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2015年10-12月期の実質GDP成長率1は前年同期比+2.8%の増加と、前期の同+2.9%から僅かに低下したものの、Bloomberg調査の市場予想(同+2.6%)を上回った。これまで景気を牽引してきた観光業が鈍化し、海外経済の減速によって財貨輸出は減少したものの、政府支出の拡大で緩やかな回復基調を維持した。
前期比(季節調整値)は+0.8%と前期の同+1.0%から低下した。また2015年通年の成長率は前年比2.8%増と、2014年の同0.8%増から上昇した。


需要項目別に見ると、内需拡大が成長率上昇の主因となったことが分かる(図表1)。
民間消費は前年同期比2.5%と、耐久財・半耐久財の持ち直しとサービス消費の拡大により前期の同1.8%増から上昇した。原油一段安に伴うインフレ率の低迷や消費者マインドの改善、自動車増税前の駆け込み需要、そして昨年末に実施した政府の消費刺激策2が消費を押し上げた(図表2)。
政府消費は同4.8%増と、前期の同2.3%増から更に上昇した。10月から始まる政府の16年度予算は2.7兆バーツ(前年比5.6%増)と積み増しされ、景気浮揚のための予算の前倒し執行が政府消費の拡大に寄与したと見られる。
 
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイの企業景況感と消費者信頼感
また投資は同9.4%増と、前期の同2.6%減から大きく上昇した。まず公共投資は前年同期比41.4%増(前期:同21.9%増)と、輸送インフラや治水事業など政府の大型事業の執行によってさらに上昇した。また民間投資は同1.9%増(前期:同10.1%減)と、金融機関による住宅ローンの審査強化で建設投資が減少したものの、企業景況感の改善で設備投資が拡大してプラスに転じた。
純輸出は、まず輸出が同3.5%減(前期:同1.7%増)と低下した。財貨輸出は同5.6%減(前期:同1.8%減)と、海外経済の減速を受けて農林水産品や工業製品の減少傾向が続き、マイナス幅が拡大した。品目別に見ると、繊維・衣類やPC部品、石油・化学製品、ピックアップトラックの輸出が減少した。またサービス輸出も同3.8%増(前期:同16.5%増)と、訪タイ外国人観光客数の鈍化を受けて低下した(図表3)。一方、輸入は同1.3%減(前期:同2.6%減)と内需の拡大を受けてマイナス幅が縮小した。その結果、外需の成長率への寄与度は▲1.9%ポイントと、前期の+3.3ポイントから減少した。
 
供給項目別に見ると、農林水産業が低迷する一方、堅調な非農業部門が景気を支えていることが分かる(図表4)。
農林水産業は前年同期比3.4減%(前期:同5.5%減)と、5期連続の減少となった。干ばつで灌漑用水が不足し、コメ、キャッサバ、ゴム、油ヤシの生産量が減少した。
非農業部門では、まず製造業が同0.8%増となり、前期の同1.0%増)に続いて停滞した。紙・紙製品や石油製品などの素材関連が拡大する一方、競争力低下が進む軽工業や海外経済の低迷によるコンパクトカーの生産鈍化など資本・技術関連産業が低迷したことが影響した。その他の産業を見ると、建設業が同15.8%増(前期:9.4%増)と公共部門を中心に上昇したほか、卸売・小売業が前年同期比5.5%増(前期:同4.1%増)、金融業が前年同期比7.5%増(前期:同5.9%増)、不動産業が前年同期比6.6%増(前期:同3.1%増)など拡大基調の続いた業種が多かった。
 
(図表3)タイの外国人観光客数/(図表4)タイの実質GDP成長率(供給側)
政府は8月に内閣改造を実施し、ソムキット経済担当副首相は就任直後から農家や低所得者、中小企業などを対象に短期的な景気対策を打ち出し、その後も大型インフラ整備計画の着工や投資奨励制度の見直しを行った。当面は短期的な景気刺激策の効果が剥落して景気の牽引力は弱まるかもしれないが、政府は今後も外需から内需主導の経済成長への転換を進めることから、政府消費と公共投資が景気を支える展開は続くだろう。
こうした政府の動きに合わせて、消費者と企業のマインドには持ち直しの動きが見られる。民間投資は輸出不振の逆風下にあるが、携帯電話第4世代(4G)サービスの本格化を追い風に増加傾向を維持するものと見られる。もっとも、コメやゴム、パーム油など主要作物の価格下落や干ばつなどに伴う農業所得の低迷が続くほか、高水準の家計債務が消費の重石となることから、消費の更なる回復は見込みにくい。
輸出は海外経済の下振れリスクが高まっており、持ち直しの兆しは見えない。また観光業も14年5月の軍事クーデター後の政情安定の影響が一巡して牽引力が落ちてしまった。内需拡大で輸入の緩やかな拡大が続くことから、純輸出のマイナス寄与は続きそうだ。
以上の結果、外需の回復に期待はできないものの、政府消費・公共投資の加速や経済刺激パッケージなど政府主導の内需拡大が景気を牽引し、3%前後の緩やかな景気回復が続くだろう。
 
 
1 政府は昨年末に一般消費者を対象に12月25-31日の商品・サービス(一部を除く)への支出額のうち1万5000バーツまでの所得控除枠を設定した。
2 2月15日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)が2015年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年02月16日「経済・金融フラッシュ」)

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