2016年02月16日

2016・2017年度経済見通し(16年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2.実質成長率は2015年度0.6%、2016年度1.2%、2017年度0.0%を予想

(景気が回復基調に戻るのは2016年度入り後)

2015年10-12月期の鉱工業生産は前期比0.5%と3四半期ぶりの増産となったが、4-6月期(前期比▲1.4%)、7-9月期(同▲1.2%)の落ち込みを考えれば持ち直しのペースは極めて鈍く、月次ベースでは11月が前月比▲0.9%、12月が同▲1.7%と年末にかけて弱い動きとなっている。
2015年夏場以降、在庫調整に一定の進捗が見られたが、11月、12月と2ヵ月連続で在庫指数が上昇し在庫調整は足踏み状態となった。輸送機械の在庫水準が大きく低下しているのは明るい材料だが、個人消費を中心とした国内需要の弱さから幅広い業種で在庫積み上がりの動きが見られる。
また、GDP統計の民間在庫は2四半期連続でマイナスとなったが、2015年10-12月期の在庫品増加額は1.0兆円のプラスとなっており、在庫の積み上がりが続いていることを意味している。特に、流通在庫は7-9月期の0.7兆円から0.9兆円へと積み上がり幅が拡大しており、最終需要の弱さを背景に在庫調整圧力が強い状態が続いている。
 
消費税率引き上げ後の生産動向/消費税率引き上げ後の在庫動向
2015年10-12月期の輸出は前期比▲0.9%と2四半期ぶりの減少となったが、先行きについても高い伸びは期待できないだろう。中国をはじめとした新興国経済の減速が続いていることに加え、ここにきて急速に進展している円高も輸出の下押し要因となる。当研究所では足もとの円高はやや行き過ぎで、投資家のリスク回避姿勢が和らげば、米国の利上げ、日本の金融緩和継続を背景とした日米の金利差拡大を主因として徐々に円安・ドル高が進むと予想している。しかし、円高がさらに進行するようであれば、輸出の失速を起点とした景気後退のリスクが高まるだろう。
設備投資は2015年7-9月期の前期比0.7%から10-12月期には同1.4%と伸びを高めたが、2016年入り後にはいったん減速する可能性が高く、景気の牽引役となるには力不足だろう。これまで高い伸びを続けてきた企業収益は個人消費を中心とした国内需要の不振や輸出の低迷などから伸び率が鈍化している。さらに、年明け以降は世界的な金融市場の混乱から円高、株安が急進しており、企業収益の下振れ、企業マインドの冷え込みを通じて設備投資の先送りにつながるリスクがある。
公共事業関係費の推移 公的固定資本形成は2014年度補正予算の効果一巡などから、2015年7-9月期が前期比▲2.0%、10-12月期が同▲2.7%と2四半期続けて大幅な減少となった。1/28には2015年度補正予算が成立したが、このうち公共事業関係費の追加額は0.6兆円にすぎない。2016年度当初予算案が前年度とほぼ同水準にとどまっていることもあり、公共事業による景気浮揚効果は当分期待できないだろう。

2016年1-3月期は民間消費が増加に転じることなどから前期比年率1.2%のプラス成長を予想しているが、GDP統計では季節調整をかける際にうるう年調整が行われていないことに注意が必要だ。当研究所では1-3月期の民間消費はうるう年に伴う日数増で前期比0.4%程度押し上げられると試算している。1-3月期はうるう年の影響を除けばほぼゼロ成長とみており、景気が回復基調に戻るのは2016年度入り後までずれ込みそうだ。


(交易条件の改善が国内景気を押し上げ)
実質GNIと実質GDP 先行きの日本経済を見通す上で明るい材料は、原油価格下落に伴う輸入物価の低下により海外からの所得流入が続いていることである。GDP統計の交易利得が拡大傾向を続けていることを反映し、実質GDPに比べて実質GNI(国民総所得)は堅調に推移している。直近(2015年10-12月期)の実質GDP、実質GNIの水準を消費税率引き上げ直前(2014年1-3月期)と比較すると、実質GDPは▲1.4%下回っているが、実質GNIは逆に1.9%上回っている。
実質雇用者報酬の予測 現時点では交易利得の改善、海外からの所得の拡大が企業収益の改善をもたらす一方、国内の支出拡大には十分につながっていないが、先行きは原油価格の大幅下落を反映し消費者物価が明確に低下する可能性が高く、このことが家計の実質購買力を押し上げるだろう。
前述した通り、春闘賃上げ率が前年度を下回ることなどから、名目の雇用者報酬の伸びは頭打ちとなるが、物価上昇率の低下によって実質雇用者報酬は2015年度が前年比1.5%、2016年度が同1.3%と1%台の伸びを確保し、このことが個人消費の持ち直しに寄与することが見込まれる。
ただし、2017年度は原油価格の持ち直しや消費税率引き上げの影響から消費者物価上昇率が2%程度まで上昇するため、2014年度と同様に実質雇用者報酬の伸びは大きく低下する可能性が高い。2017年度の個人消費は消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動と物価上昇に伴う実質所得低下の影響が重なることから、大幅な減少となることが避けられないだろう。
 
(2016年度後半は駆け込み需要が成長率を押し上げ)

実質GDP成長率は2015年が0.6%、2016年度が1.2%、2017年度が0.0%と予想する。2016年度末にかけて経済成長率は高まるが、これは2017年4月に予定されている消費税率引き上げ(8%→10%)前の駆け込み需要で消費、住宅を中心に成長率が押し上げられるためで、実勢として景気の回復基調が強まるわけではない。2017年度は駆け込み需要の反動と消費税率引き上げに伴う実質所得低下の影響からゼロ成長となるだろう。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
なお、当研究所では2017年4月の消費税率引き上げ前後の駆け込み需要とその反動の規模を実質GDP比で0.3%程度と試算しており、前回(2014年4月)の0.6%程度(当研究所の試算値)よりも小さくなることを想定している、これは税率の引き上げ幅が前回よりも小さいこと、駆け込み需要が発生しやすい住宅、自動車など買い替えサイクルの長い高額品については、前回の税率引き上げ時にすでに前倒しで購入されている割合が高いこと、食品(酒類、外食を除く)などに軽減税率が導入されたこと、などによる。
また、2017年4月の消費税率引き上げによって消費者物価(生鮮食品を除く総合)は1.0%押し上げられると試算される(軽減税率導入の影響も含む)。2014年度に比べて税率の引き上げ幅が小さいこと、軽減税率によって物価の押し上げ幅が縮小することから、消費者物価上昇率への影響は2014年度(2.0%)の半分程度となろう。
 
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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