2016年02月10日

東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2016年)-2016年~2022年のオフィス賃料・空室率

竹内 一雅

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4.今後のAクラスビル新規供給、都区部オフィスワーカー数の見通しと経済見通し

4.今後のAクラスビル新規供給、都区部オフィスワーカー数の見通しと経済見通し

三幸エステートによると、今後のAクラスビルの新規供給は、2018年と2019年に20万坪を上回る大量供給が予定されている(図表-7)。一方、最近の建築コストの上昇や人手不足から、2017年に完成予定だった一部のオフィスビルの竣工が後ろ倒しとなり、消費税率の引上げによる景気後退が見込まれている2017年における大量供給は避けられることとなった。 
東京都区部および都心5区のオフィスワーカー数は、東京都によると、2015年をピークにしだいに減少していくと予測されている(図表-8)。東京都区部では転入超過が続いていることから、当面はオフィスワーカー数の大幅な減少はないと思われる
ニッセイ基礎研究所経済研究部によると、2017年4月の消費税率引上げにより2017年度の経済成長率は▲0.1%とマイナス成長になるが、前年の2016年度は駆け込み需要の影響もあり+1.8%と高めの成長が予測されている(図表-9)。また、2020年の東京オリンピックに向けて、しだいに経済成長率は高まると予測されている。
東京都心部Aクラスビル新規供給見通し、東京都区部・都心5区のオフィスワーカー数見通し、実質GDP成長率見通し
 

 
   住民基本台帳人口移動報告によると2015年の東京都への転入超過数は8万2千人で前年比+11.5%の増加だった。

5.東京都心部Aクラスビル市況見通し

5.東京都心部Aクラスビル市況見通し

2016年から2022年までの東京都心部Aクラスビルの空室率と賃料を、今後の経済見通しや新規供給計画、オフィスワーカー数の見通しなどから予測を行った。
推計の結果、東京都心部Aクラスビルの賃料は、2017年Q1期(2015年Q4期比+0.7%)まで横ばいが続き、消費税率の引上げ時(2017年Q2期)から下落が始まると予測された(図表-10)。その後、2018年と2019年の大量供給に伴い賃料の停滞は続くが、2019年Q2期を底に(2015年Q4期比▲17.8%)賃料は上昇傾向となり、2022年には2015年比で▲9.7%まで回復するという結果となった。
Aクラスビルの空室率は、2016年中はほぼ横ばいで推移するが、2018年から2019年初めにかけて5%代後半まで上昇し、2020年から回復が始まると予測された。
当面の賃料のピークは2015年Q4期を基準として、標準シナリオでは2016年Q2期の+4.9%、楽観シナリオで2016年Q2期の+13.6%、悲観シナリオは今後、下落が続く。賃料の底は標準シナリオで2019年Q2期の▲17.8%、楽観シナリオで2019年Q3期の▲7.6%、悲観シナリオで2021年の▲31.7%だった。また、2022年の賃料水準は、2015年Q4期を基準として、標準シナリオで▲9.7%、楽観シナリオで+2.5%、悲観シナリオで▲28.1%だった。
標準シナリオにおける2015年Q4期以降の一年ごとの変化率は、2016年+0.2%、2017年▲8.4%、2018年▲8.4%、2019年▲1.7%、2020年+5.0%、2021年▲2.4%、2022年+6.6%であった。
東京都心部Aクラスビルオフィス賃料(オフィスレント・インデックス)見通し

6.おわりに

6.おわりに

東京のAクラスビル市況は現在、着実に改善が進んでいる。空室率は低下し、賃料も上昇傾向が続いている。しかし、2014年10月以降、消費税率の8%への引上げに伴う消費の落ち込みなどから、オフィス需要の純増分が縮小してきている。また、オフィス賃料に関しては改善期が約4年続き、過去の賃料サイクルを考慮すると市況の潮目が近づいてきている可能性が高い。なお、弊社が行っている不動産市況アンケートによると、不動産投資市場の6ヵ月後の景況感の見通しDIは、2008年調査以来、7年ぶりのマイナスとなった(図表-11)。
オフィス需要増加分の縮小傾向は、最近の大規模新築ビルの竣工の少なさにより、都心の築浅の大規模ビルにおいてまとまった空室が少なくなっていることも一つの要因と思われる。そのため、今後の大規模ビルの新規供給に伴い、本稿での予測を上回る需要が喚起される可能性もある。
今後の東京Aクラスビルのオフィス市況の堅調な推移のためには、面積需要の旺盛なIT系やゲーム・アミューズメント企業、外資系企業などの起業支援や立地促進に加え、郊外などに立地する自社ビルが老朽化した企業の都心誘致、生産年齢人口の増加や高齢者・女性のさらなる雇用拡大、さらには2020年東京オリンピック関連事業やインバウンドの一層の拡大などによる、オフィス需要への取り込みが重要になると考えられる。
不動産投資市場の景況感DI(現況、6ヵ月後の見通し)
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竹内 一雅

研究・専門分野

(2016年02月10日「不動産投資レポート」)

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