2016年02月05日

配偶者控除見直しについて~家計の可処分所得への影響~

薮内 哲

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(図表14)配偶者控除の廃止+子育て支援策 C)子育て世帯に年間5万円給付・所得制限あり
次に給付額を年間5万円に減額した(C)についても確認しよう(図表14)。

給付水準が5万円の場合、配偶者控除の廃止による負担増が全年収層で給付額を上回る。

低所得層においても負担増となることから給付水準については検討の余地があるものの、夫年収別にみた、年収に対する世帯の負担割合は概ねフラット化しており、0.24~1.0%程度に収まっている(図表16)。現在の税制から家計への影響を最小限に留めるという視点からすると、今回検討した中では(C)の「給付水準は5万円かつ所得制限を設ける」ケースは一つの目安となろう。
(図表15)(A)~(C)における世帯の負担増加割合・夫年収別/(図表16)(A)~(C)における世帯の負担額・夫年収別
単純に配偶者控除を廃止すれば、妻年収141万円未満である世帯は負担増となる。その場合、低所得層かつ専業主婦またはパート世帯については配慮が必要と思われるが、廃止による負担増分以上の子育て支援と給付金を支給することで子育て世帯の低所得者層には配慮した措置をとることができる 。もっとも、政府税調が指摘しているように「子どものいない低所得者層の世帯への負担増」に対しては、別途配慮する必要があるか検討が必要だろう。
 
制度改正による家計の可処分所得の影響のイメージ
3おわりに

配偶者控除の見直しによる家計に与える影響を概観すると、配偶者控除は税制上の優遇措置であることから、廃止すれば専業主婦世帯、共働き(会社員、パート年収141万円未満)世帯などで負担増となるものの、同時に子育て世帯への支援策の拡充を行えば、子育て世帯を中心に負担を回避できる。

例えば、所得制限付きで子育て給付金を支給するといった施策が導入されると予測するが、年間5万円程度の給付金を支給することが可能であれば、低所得層・子育て世帯の負担増をほぼ回避できる。給付額をさらに増やすことができれば、主に低所得層・子育て世帯の負担を軽減できる。また廃止による高所得層の負担増は、年収に対する負担割合でみれば低所得層ほど高くないことから、給付金支給にあたっては一定の所得制限を設けることも妥当であると考えられる。

これらは「働き手を増やす、子育て世帯を支援する、低所得者に配慮する」といった、現状の日本が向かうべき方向性に合致していると思われる。ただし、見直しにより世帯によって負担増と負担減となる世帯が生じることから、国民には丁寧に説明する必要があろう。特に配偶者控除の見直しによって生まれる財源は、子育て世帯または低所得者対策に重点的にまわすべきだ。
  
                                                                                          
配偶者控除の見直しは、女性の活躍を妨げる一つの壁を解消することにすぎない。本稿で紹介した壁を解消できても、家事・育児・介護などの事情で働く時間を増やしたくても増やせないという現状もある。男性の家事・育児への参画促進や保育環境の整備、そして長時間労働の見直しなど、多様な働き方ができる環境を整えていくことも必要だ。そのような施策も同時に進めていくことができれば、配偶者控除の見直しに対する理解も得られやすくなるだろう。女性の活躍推進、一億総活躍社会実現に向けた改革は始まったばかりであり、今後も一つ一つ丁寧な取り組みが求められる。

(参考)「いわゆる移転的基礎控除の導入」で影響が出る世帯は?

(図表17)二重の控除のイメージ ⅰ)二重の控除と移転的基礎控除
配偶者控除に大しては就労調整の原因となっている問題とは別に税の公平性という観点からも「二重の控除」という問題点が指摘されている。

「二重の控除」とは、ある夫婦世帯で妻年収が65万円超141万円未満の場合、それ以外の世帯と比べると控除適用額が最大で38万円多く適用されることである(図表17)。具体的には、妻は年収が65万円以下であれば、妻が受ける控除は給与所得控除のみであるが、年収が65万円超141万円未満の場合、妻は給与所得控除の65万円分に加えて基礎控除が適用される。一方で、夫側にも103万円までは配偶者控除、141万円までは配偶者特別控除が適用されているから妻年収が65万円超141万円未満の層だけ二重に控除を受けていることになる。

一般的な世帯類型で考えれば、妻年収が65万円超141万円未満に当てはまる世帯は夫が正社員、妻がパート社員である場合が想定される。配偶者控除は、夫正社員で妻パート社員(妻年収が65万円超141万円未満)を妻年収65万円以下に該当する専業主婦世帯や妻年収141万円以上に該当する夫婦共に正社員で共働き世帯よりも、手厚く優遇しているということなる。

そこで、夫婦2人で受けられる控除の合計額が妻年収の左右されない(つまりは世帯類型と違いに左右されない)、いわゆる移転的基礎控除導入が案として挙げられている。夫婦の合計控除額について妻の年収に左右されないということは、女性の就労調整の要因ともならないことから今回の配偶者控除見直しの目的とも合致する。
 
(図表18)移転的基礎控除導入による影響 ⅱ)いわゆる移転的基礎控除の導入における影響・妻の年収別
いわゆる移転的基礎控除が導入された場合の影響について確認しよう(図表18)。
二重の控除の恩恵を受けられなくなることで妻年収65万円超141万円未満である世帯が負担増となる。導入前の妻年収103万円の世帯は、妻の基礎控除と夫の配偶者控除を全額適用できていた(=二重の控除の恩恵を最も受けていた)ので、負担増の額が最も大きい。この時の負担増の額は、配偶者控除の廃止により妻年収103万円以下の世帯が負担増となる額と同額となる(夫年収550万円のケースで7.2万円)。夫の年収別の負担増の額の変化については、2章2 - iiを参照。
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(2016年02月05日「基礎研レポート」)

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