2016年02月02日

年金改革ウォッチ 2016年2月号~ポイント解説:GPIFの見直し議論

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ――― 先月までの動き

年金部会では、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)について、関係機関や有識者からのヒアリングを行うなど、先月に引き続き活発な意見交換が行われました。現在開催されている通常国会への法案提出を念頭に、さらに議論が深められる見込みです。
  
○社会保障審議会 年金部会
1月12日(第33回)テーマ 年金積立金の管理運用に係る法人の運用の在り方(関係機関・有識者からのヒアリング)
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000109000.html    (配布資料)
 
1月19日(第34回)テーマ 年金積立金の管理運用に係る法人の運用の在り方、ガバナンスの在り方
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000109714.html    (配布資料)
 
1月28日(第35回)テーマ 年金積立金の管理運用に係る法人のガバナンスの在り方、運用の在り方
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000110640.html    (配布資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
1月20日(第20回) テーマ 特定事由に係る申出等の承認基準、日本年金機構の中期目標・中期計画の改訂及び平成28年度計画の策定、その他
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000110049.html    (配布資料)

2 ――― ポイント解説:GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の見直し議論

先月の社会保障審議会年金部会では、国民年金や厚生年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の見直しが議論されました。本稿では、議論の概要と課題を確認します。
図表1 GPIF見直し議論のポイント 1|議論の概要:ガバナンス体制の強化と運用方法の制限緩和が、与えられた論点
論点の1つは、信頼向上のためのガバナンス体制強化です1。現在は外部有識者による運用委員会がGPIF理事長に意見を述べる“実質的な”合議制となっていますが、これを正式な意思決定機関として法定するのがポイントです。加えて、監事2名の体制を意思決定機関の委員3名からなる監査等委員会に改めて1名を常勤化することや、GPIFに関する議論を行う社会保障審議会の会議体の新設も議論されています。

もう1つの論点は、運用方法の制限緩和です。現在は法律に列挙された方法でしか運用できないため、金融機関で用いられている資産運用やリスク管理の新しい手法が利用できません。そこで、法律での制限を緩め、政省令や厚生労働大臣が策定する中期目標、あるいはGPIFの意思決定機関の決定にゆだねることが議論されています。これと併せて、具体的な緩和内容についても議論されています。
 
図表2 公的年金積立金運用の意思決定構造 2|課題:厚生労働大臣に対する牽制機能
現在はGPIFのあり方が議論されていますが、より重要なのは厚生労働大臣が指示する中期目標の策定です。具体的な運用方法はGPIFの執行部が決定していますが、その基礎となる基本的な資産配分(基本ポートフォリオ)はGPIFの運用委員会が策定する中期計画に含まれています。さらに、どのような基本的な資産配分になるかは、厚生労働大臣が策定する中期目標に記載されている目標利回りや許容リスクによって決まります。

中期目標は、社会保障審議会年金部会の専門委員会などの検討内容を参考に策定されていますが、策定過程は不明瞭です。例えば、2014年10月に実施された中期目標の変更(基本的な資産配分やリスク許容度の変更)では、大臣は独立行政法人評価委員会年金部会の意見を聞いたと示されていますが2、この部会では発出の直前(当日)に議論されたに過ぎず、かつGPIFの運用委員会には事前に案が提出されていました3。また、2015年4月に新たな中期計画が策定された際は、GPIFの運用委員会では同年1月から案が議論されていた4ものの、厚生労働省側の社会保障審議会年金部会や独立行政法人評価委員会年金部会では議論されないまま、運用手法の変更を含む新たな中期計画が発出されています。

新設される予定の社会保障審議会の会議体は、中期目標の策定やGPIF役員の任免など厚生労働大臣が権限を持つ事項を審議する見込みです。中期目標について本質的に審議するためには、基礎となる財政見通しの運用利回りの設定についても、この会議体で事前に審議する必要があるでしょう。また、運用の専門事項も理解した上で、加入者や公益の立場からしっかりと質していくことが期待されます。
 
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2016年02月02日「基礎研レター」)

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