2016年02月01日

【アジア新興経済レビュー】底堅い内需も輸出不振の長期化が足枷に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.生産活動 (韓国・台湾・タイ:12月、その他の国:11月)

(図表1)生産指数 アジア新興国・地域の生産指数の伸び率(前年同月比)を見ると、内需は底堅いものの、輸出の低迷で持ち直しの動きが鈍い状況が続いている(図表1)。

フィリピンは前年同月比7.5%増と、内需が好調で電気機械に加え、これまで足枷となっていた非電気機械と石油製品がプラスに転じ、大きく上昇した。さらにタイは同1.3%増となり、物品税導入を前に需要が拡大した自動車や中国向け輸出が増加したゴムなどが上昇した。

一方、韓国と台湾は、輸出不振や在庫増を受けた生産調整により電子部品や機械設備が低迷し、それぞれ伸び率が低下した。またインドは前年同月比3.2%減と、祭事期需要の終了を受けて減少に転じた。2014年10月以来のマイナスとなった。さらにマレーシアはリンギ安による価格競争力の向上を受けてリンギ安が追い風に製造業が堅調だったが、鉱業の不調で鈍化した。
 

2.貿易 (韓国・台湾・タイ・インドネシア・インド:12月、その他の国:11月)

(図表2)輸出/(図表3)輸入

輸出(通関ベース)の伸び率(前年同月比)は、原油一段安や中国をはじめ世界経済の回復が鈍いことから輸出に下押し圧力が掛かり、フィリピン・タイを除いて二桁マイナスと低迷している(図表2)。

フィリピンは、主力の電子製品の好調が一次産品やその他製造品のマイナスを下支えし、マイナスが大きく縮小した。

一方、韓国は供給過剰感がある鉄鋼や液晶パネルなど、マレーシアは通貨安で好調だった電気・電子製品が鈍化し、3ヵ月・6ヵ月平均を下回った。台湾は主力の電子製品、化学製品、プラスチック製品などの低迷が続いている。またインドネシアは石油・ガスの価格下落や非石油ガスの輸出鈍化により、8ヵ月連続の二桁マイナスを記録した。


輸入の伸び率(前年同月比)は、加工貿易の縮小による大幅マイナスが続いているものの、景気刺激策や公共投資の執行加速などによる内需回復により、総じて上昇傾向が見られる(図表3)。

フィリピンは同10.1%増と、投資需要が旺盛で資本財や原材料・中間財が牽引役となり、2ヵ月連続の二桁増となった。インドは通信機器や金などの輸入が増加してマイナス幅が大きく縮小した。
 

3.自動車販売 (12月)

(図表4)新車販売台数 12月の自動車販売台数の伸び率(前年同月比)を見ると、韓国・フィリピン・インドは堅調に推移し、マレーシア・タイが大きく上昇するなど、幅広く持ち直しの動きが見られた(図表4)。

韓国は同13.7%増と、引き続き新車効果や個別消費税の引下げ1が追い風となり、5ヵ月連続の二桁増を記録した。インドは同+10.7%と、金利引下げによる消費者心理の回復や新車投入を受けて3ヵ月連続の二桁増となった。またタイは同13.3%増となり、1月からの自動車の物品税改定を前に駆け込み需要が増加し、自動車買い替え促進策が終了した2013年12月以来の二桁増を記録した。さらにマレーシアは同7.3%増と、リンギ安を背景とする1月からの値上げを前に駆け込み需要が生じ、3ヵ月ぶりに上昇した。このほか、台湾は同0.0%増と、1月から実施される自動車買い換え促進策(2016年施行)で減免の対象外となる者らの買い控えの動きが弱まって2ヵ月連続のプラスとなった。

一方、インドネシアは同7.0%減と、3ヵ月・6ヵ月平均を上回ったものの、販売台数は直近5ヵ月で最も少ない7.3万台となった。景気減速による消費者の購買力低下が影響したと見られる。
 
1 政府は8月に消費刺激策として、同月27日から年末までの期間限定で乗用車や大型家電製品に課される個別消費税を引き下げることを決めた。乗用車の個別消費税は従来の5%から3.5%に引き下げられた。

4.消費者物価指数 (12月)

(図表5)消費者物価指数 12月の消費者物価上昇率(前年同月比、以下CPI上昇率)は、14年後半の原油価格下落による物価下押し圧力が後退して緩やかな上昇傾向にはあるものの、景気減速や原油一段安の影響で上昇ペースは鈍っている(図表5)。

インドは前年同月比5.6%増と、豆類をはじめ香辛料、油・油脂といった食品価格を中心に4ヵ月連続の上昇となった。 またフィリピンは同1.5%増と、力強い経済成長やペソ安によるインフレ圧力、そして12月の台風被害を受けて3ヵ月連続の上昇となった。

一方、インドネシアは同3.4%増と、14年11月の補助金付き燃料価格値上げの上昇要因が剥落し、中央銀行のインフレ目標圏内(2015年は3-5%)の下方まで低下した。またタイは同0.9%減と、国内ガソリン価格の値下げや食料供給量の増加から低迷しており、本稿対象7カ国中で唯一伸び率がマイナスとなった。
 

5.金融政策 (1月)

(図表6)アジア新興国・地域の政策金利の状況 1月は、韓国・マレーシア・インドネシアの中央銀行で金融政策会合が開かれた。政策金利はインドネシアが引下げ、その他の会合では据え置きとなった。

インドネシアは14 日に、政策金利を0.25%引き下げて7.25%とした。11月の会合では、インフレ率や経常収支などマクロ経済環境の安定を材料に先行きの緩和余地を示していたものの、12月は米国の利上げ決定の翌日だっただけに先送りしていた。1月は金融市場でリスク回避の動きが進んでいたものの、景気浮揚に向けた利下げを決めた。

またマレーシアは、国内金融市場の流動性を確保するために預金準備率を0.5%引き下げた。
 
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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