2016年02月01日

EUソルベンシーⅡの動向- 各社のSCR算出のための内部モデルの適用申請等はどのような結果になったのか(2)-

保険研究部 取締役   中村 亮一

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1―はじめに

EU(欧州連合)における新たな保険監督規制の重要な改革であるソルベンシーIIが2016年1月からスタートした。基礎研レター「EUソルベンシーIIの動向-各社のSCR算出のための内部モデルの適用申請等はどのような結果になったのか(1)-」(2016.1.25)(以下、「前回のレター」)において、内部モデルの使用に関する各国の監督当局の承認状況や残された課題等の状況について報告した。

このレターでは、欧州の大手保険グループのソルベンシーIIによるSCR比率(=自己資本/SCR(ソルベンシー資本要件))や内部モデルの適用状況等について、各社のプレス・リリース資料や投資家・アナリスト向けの資料に基づいて、報告する。現段階では、各社は内部モデル使用に関する承認を得たとはいうものの、未だ不確実性を有している面もあることから、内部モデルの詳細な説明等の情報開示は行っていない。あくまでも現在までに公表されている情報に基づいて、報告する。
 

2―内部モデルに関する大手各社の公表状況

大手保険グループについては、内部モデルを使用することにより、グループ全体でのSCRを有意なレベルで軽減することができることから、各グループとも内部モデルを使用する方向で、以前から準備を進めてきていた。

今回、監督当局から内部モデル使用の承認を得たことに伴い、各社ともプレス・リリースを行い、投資家やアナリスト向けの説明会等を開催している。ここでは、その中から、Prudential、Allianz 、AXA、Aegon、Munich Reの5社について、各社のプレス・リリース資料や投資家・アナリスト向けの説明会資料等に基づいて、SCR比率の状況や内部モデル等に基づくSCRの算出方法等を報告する。

なお、今回の各社のプレス・リリース等においては、内部モデル使用の承認を得たとはいうものの、ソルベンシーIIに基づくSCR比率については、引き続き、(公表時点において)EUの同等性評価の問題が決着していないことや税の取扱等に関する規制の解釈の問題があることから、不確実性を有しているとコメントしているので、この点は留意しておく必要がある。
 

3―各社のSCR比率や内部モデルの適用状況等(概要)

各社毎の詳しい内容については、次の4で述べる。その前に、ここでは、各社の状況の概要を、次ページの図表の通りにまとめているので、これに基づいて報告する。

この図表から見てとれるように、欧州の大手保険グループの間でも、SCRの算出方法等が統一されているわけではない。そのため、表面上のSCR比率の水準だけを比較することは必ずしも適切とはいえない。ただし、各社のSCR比率の算出方法等の考え方を比較してみることは意味があるものと考えられる。

(1)SCR比率
SCR比率の目標範囲については、200%をベースに設定している会社が多い。Aegonの目標範囲が他社に比較して低いのは、オランダにおいて各種の長期保証措置の適用を行っていないこと等が1つの要因となっている。

(2-1)SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況)
Aegonが部分内部モデルを使用しているが、他の4社は完全内部モデルを使用している。

内部モデルの適用対象については、元受会社の4社は、母国に加えて、欧州の主要事業国やアジア等、実質的に米国を除く主要事業国を含めている。米国については各社とも同等性評価に基づいている。内部モデル適用比率の違いは、米国子会社のウェイトの差によるものである。ただし、米国子会社の資本要件のSCRへの反映方法である「転換率」1については、150%~300%と幅がある形になっている。

再保険会社であるMunich Reは、グループ・ソルベンシーの算出に、控除・集計手法(Deduction and Aggregation method)ではなく、連結ベース手法(Accounting Consolidation-based method)を用いている。 なお、これに関係して、EIOPA(欧州保険年金監督機構)は1月27日に「グループ・ソルベンシーの算出における(「連結ベース手法」と「控除・集計手法」の2つの)組み合わせ手法の適用に関する意見」2という形で、各国の監督当局に対するガイダンスを公表している。

(2-2) SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる経過措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置3の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。ここでは、母国市場での適用状況だけを示しているため、この図表に記載されている内容だけでは、公平な評価はできない面もある。

ただし、この図表には記載されていないが、例えば、英国における事業についてみた場合でも、Prudentialは技術的準備金に関する経過措置とMAを適用しているが、AXAの英国子会社はVAのみを、Aegonの子会社は経過措置、MA、VAの全てを適用している、というように、各社の置かれている状況等によって、長期保証措置の適用方針は異なっている。

(3)SCR比率の感応度
SCR比率の感応度については、各社とも低下させる方向で対応してきているが、相対的には、Aegonの感応度が低く、事業構造が元受会社とは異なることにもよるが、Munich Re の感応度が高くなっている。
欧州大手保険グループのソルベンシーIIによるSCR比率及び内部モデルの適用状況等(概要)
 
1 米国RBCのCAL(会社行動水準:Company Action Level)の何%がソルベンシーIIによるSCR比率の100%に相当するのかを示す率
2 EIOPAの以下のWebサイトによる。https://eiopa.europa.eu/Publications/Opinions/20160127_EIOPA%20opinion_combination%20of%20methods.pdf
3 長期保証措置(経過措置を含む)の内容については、筆者による、基礎研レター「EUソルベンシーIIの動向-長期保証措置(MA・VA・経過措置)の適用申請・承認等の状況はどのようになっているのか-」(2015.10.13)を参照していただきたい。
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保険研究部   取締役

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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