2016年01月29日

中国経済:2016年の注目ポイント~構造改革の進捗とそれに伴う3つのリスク(雇用不安、金融不安、消費失速)に注目!

三尾 幸吉郎

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1.2015年の経済概況(GDP)

(図表1)中国の実質成長率の推移 1月19日に中国国家統計局が公表した2015年の経済成長率は実質で前年比6.9%増となり、2014年の同7.3%増に比べて0.4ポイント低下した。ここ数年の緩やかな成長率鈍化傾向が続いていることを示す結果となった(図表-1)。
 
供給面から見ると、第2次産業の不振が目立ち、2014年の前年比7.3%増から2015年は同6.0%増へと1.3ポイント低下した。一方、第3次産業は2014年の前年比7.8%増から同8.3%増へと0.5ポイント上昇した(図表-2)。

需要面から見ると、総資本形成(≒投資)の不振が目立ち、寄与度で見ると2014年の3.4ポイントから2015年は2.5ポイントへとプラス寄与を大きく減らした。一方、最終消費は2014年の3.7ポイントから4.6ポイントへとプラス寄与を大きく増やすこととなった(図表-3)。
 
(図表2)産業別実質成長率/(図表3)需要別の寄与度
(図表4)名目成長率と実質成長率の比較(2015年) また、同時に公表された2015年の国内総生産(GDP)は67兆6708億元となり、2014年の63兆5910億元に比べて4兆798億元増えて、前年比6.4%増となった。これを前述の実質成長率と比べると0.5ポイント下回っており“名実逆転”となった。産業別の内訳を見ると、図表-4に示したように“名実逆転”の主因は第2次産業で、第1次産業・第3次産業は逆転していない。特に工業部門の逆転幅が5.5ポイントと大幅となり、名目成長率は前年比0.4%増と極めて低いレベルに留まった。
 

2.ここもとの景気動向(供給面)

(図表5)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移 中国経済を供給面から見る上で最も注目されるのが工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)である。2015年は前年比6.1%増と2014年の同8.3%増を2.2ポイント下回り大きく減速した。2015年の流れとしては、3月と10月に前年同月比5.6%増、6月に同6.8%増、11月に同6.2%増となっており、昨年は6%前後で一進一退の動きとなった(図表-5)。直近12月は同5.9%増と、11月の同6.2%増をやや下回り、工業生産の一進一退が最近も続いていることを示した。
また、供給面を見る上ではPMIもタイムリーで有効な指標となる。製造業PMIを見ると、2015年は図表-6に示したように拡張・収縮の境界となる50%を挟んだレベルで推移、特に8月以降は50%を5ヵ月連続で下回り、景気失速の懸念を高める原因となった。直近12月の製造業PMIは49.7%と11月よりも0.1ポイント改善したものの、同時に発表された12月の予想指数は44.6%と50%を大きく割り込み、景気の先行きに対する不安の高まりを示す結果となった(図表-7)。

一方、非製造業PMI(商務活動指数)を見ると、2015年は図表-6に示したように拡張・収縮の境界となる50%を上回るレベル(単純平均すれば53.6%)と堅調に推移し、景気を下支えする要因となった。直近12月の非製造業PMIは54.4%と11月の53.6%を大きく上回り、非製造業は足元でさらに改善した模様である。但し、同時に発表された12月の予想指数は58.3%と11月よりも1.7ポイント低下しており、先行きに対する不安が浮上してきた。しかし、レベルが依然として高いことから、非製造業は今のところ堅調を維持していると見て良いだろう。

従って、2015年の中国経済を供給面から総括すると、製造業の動きが冴えず工業生産も昨年の伸びを大きく下回ったが、非製造業の堅調に下支えされて減速幅は小幅に留まったといえるだろう。
 
(図表6)製造業と非製造業のPMI/(図表7)製造業と非製造業のPMI(予想指数)

3.ここもとの景気動向(需要面)

中国経済を需要面から見る上では、まず消費の代表指標である小売売上高と投資の代表指標である固定資産投資の2つの動き確認しておく必要がある。2015年の固定資産投資(除く農家の投資)は前年比10.0%増と2014年の同15.7%増を5.7ポイント下回った。固定資産投資は毎月発表されるが年度累計なので時系列の動きが読み取りにくい。そこで、当研究所で単月に直した図表-8を見ると、2015年は右肩下がりで減速、10-11月には底打ちしたように見えたものの、直近12月は前年同月比7.8%増(推定1)と11月の同10.2%増を下回り、ここ数ヵ月は一進一退となっている。他方、2015年の小売売上高は前年比10.7%増と2014年の同12.0%増を1.3ポイント下回った。2015年の流れとしては、4月には前年同月比10.0%増まで低下したものの、住宅販売や自動車販売の持ち直しを背景に徐々に改善、直近12月は同11.1%増まで伸びが回復してきた(図表-9)。
(図表8)固定資産投資(除く農家の投資)の推移/(図表9)小売売上高の推移
(図表10)輸出(ドルベース)の推移 一方、海外需要を見るために、輸出の動きを確認してみると、世界経済の低迷を受けて2015年の輸出金額(ドルベース)は前年比2.9%減に落ち込んだ。直近12月は前年同月比1.6%減とマイナス幅は縮小したものの前年割れが続いた(図表-10)。先行指標となる製造業PMI(新規輸出受注)も15ヵ月連続で50%を下回っており、先行きにも明るさは見えてこない。

従って、2015年の中国経済を需要面から総括すると、輸出の不振が足かせとなり、投資も大きく減速したが、消費の堅調に下支えされて減速幅は小幅に留まったといえるだろう。
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
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三尾 幸吉郎

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