2016年02月08日

米国経済の見通し-個人消費主導の底堅い成長が持続、政策金利引き上げの影響は限定的と予想

基礎研REPORT(冊子版) 2016年2月号

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1――経済概況・見通し

1|7-9月期の成長率は低下も、個人消費主導の底堅い成長が持続

7-9月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は前期比年率+2.0%(前期:+3.9%)となり、前期から低下した。在庫投資が0.7%ポイント成長率を押下げたことが大きい。さらに、原油安により資源関連の設備投資が減少したほか、ドル高により純輸出が低迷したことも押下げ要因となった。

一方、個人消費は+3.0%(前期:+3.6%)と堅調を維持したほか、住宅投資も+8.2%(前期:+9.3%)と高い伸びとなった。これらが好調な要因としては労働市場の回復が挙げられる。

雇用者数は15年の年初来で月間20万人超の好調な増加ペースとなったほか、失業率も低下基調が持続した[図表1]。
 
米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)
さらに、ガソリン価格の下落や低金利も自動車や住宅などの高額消費に追い風となった。

15年夏場に中国経済の減速懸念が強まり、米株式市場が大幅下落となったことから、実体経済への影響が懸念されたが、7-9月期は個人消費主導の底堅い成長であったことが確認された。

10-12月期については執筆時点(1月15日)で、消費をみる上で重要な年末商戦の結果は公表されていない。しかしながら、10-12月期も雇用増加数が月間平均28.4万人と、前期から更に加速しており、労働市場の順調な回復が続いている。

FRBは、12月に06年以来となる0.25%の政策金利引き上げを実施した。金融政策の転換が実体経済に与える影響が懸念されたが、利上げ後も金利は低位安定しており、影響は限定的であろう。

このため、10-12月期も7-9月期同様、消費主導の成長が持続しているとみられる。
2|経済成長率は16年+2.6%、17年+2.5%を予想

消費主導の成長は16年以降も持続しそうだ[図表2]。

労働市場は、雇用増加が持続しているものの、労働参加率*は77年以来の水準に留まっており、人口対比で雇用には一段の増加余地がある。

また、企業の採用計画は中小企業で採用意欲が高まっていることを示しており、今後も中小企業を中心に雇用増加が期待できる状況となっている[図表3]。

労働市場の回復に伴う所得の増加にも係わらず、貯蓄率は依然として金融危機前に比べ高い水準となっており、所得対比で個人消費には一段の回復余地がある。

さらに、住宅市場も、利上げにより回復ペースの鈍化は見込まれるものの、住宅ローン金利が過去と比べて低い状況は持続することから、雇用不安が後退する中で腰折れの可能性は低いと判断される。

一方、原油安やドル高により民間設備投資や外需は引き続き回復が遅れる見込みだ。

原油安に伴う資源関連の設備投資削減により、民間設備投資は15年以降大きく押下げられてきた[図表4]。

当研究所では原油価格は緩やかに上昇に転じると予想しており、資源関連のマイナス寄与は緩やかに解消されるとみている。

もっとも、資源以外でも鉱工業生産の回復は力強さにかけており、製造業を中心に民間設備投資は当面緩やかな伸びに留まろう。

また、外需についてはドル高基調が持続する中で、ISMの新規輸出受注指数は、製造業が15年6月に受注の減少を示す50割れに転じたほか、これまで比較的底堅く推移していた非製造業でも12月に50割れとなるなど、ドル高の悪影響が輸出に顕著にみられている[図表5]。

さらに、ドル高に加え米国経済が相対的に好調な状況が暫く続くことから、16年前半は純輸出のマイナス寄与が持続すると予想している。

もっとも、年後半以降は日本やユーロ圏景気が持ち直すほか、ユーロに対するドル高の緩和などにより、マイナス幅は縮小すると予想している。

最後に政府支出は、景気に対して中立の状況が持続しよう。11月に2015年超党派予算法が成立し、17年度までの予算枠が決定された。

同予算法は共和党が求める国防関連支出拡大や、民主党が求める非国防関連支出拡大を同時に満たす財政拡張的な内容となった。

しかしながら、歳出増加額はGDP比0.2%程度に留まっており、財政政策による景気への影響は限定的である。

以上の経済見通しに対するリスク要因としては、中国経済のハードランディングなど海外経済の減速や、17年の政権交代に伴う米国の政治リスクが挙げられる。とくに、大統領選が接戦になる場合や、共和党から大統領が選出される場合には、将来の政策予見性が大きく低下し、企業や消費者の意思決定に影響する可能性が注目される。
米国実質GDP成長率の推移(暦年)、大企業・中小企業の採用計画、民間設備投資(寄与度)と原油価格、ISM新規輸出受注および実質実効レート

2――物価・金融政策・長期金利の動向

1|物価は上がり難い状況が持続

エネルギー価格の下落に伴い消費者物価の総合指数(前年同月比)が低迷しており、エネルギー・食料品を除いたコア指数との乖離が拡大した[図表6]。

当面、物価上昇圧力が抑制された状況が持続するとみられるが、原油価格の反発に伴い、消費者物価(前年比)は、16年に+1.6%、17年は+1.9%まで緩やかに上昇すると予想している。

もっとも、16年に入ってからも供給過剰懸念から原油価格の下落基調が強まっていることから、原油価格の反転時期が先送りされるリスクには注意したい。
消費者物価の推移(寄与度)
2|利上げペースは緩やか

FRBはこれまで政策金利引上げの条件としていた、「労働市場の更なる改善」および「物価が中期目標とする2%に向けて上昇する合理的な確信」を満たしたとして、12月に政策金利の引き上げを実施した。

もっとも、足元の物価は目標を大幅に下回っているほか、前回(04年6月開始)や前々回(99年6月開始)の利上げ開始時点と比べても低位に留まっている。

物価は緩やかに上昇するとみられるものの、物価目標の達成時期は見込み難い状況となっている。

このため、当研究所では今後の政策金利引き上げ幅を16年は0.75%、17年を1.0%と予想している[図表7]。

これは、前回や前々回より緩やかなペースとなっているほか、12月時点のFOMC参加者予想と比べても小幅な水準である。

政策金利引き上げが、このような緩やかなペースに留まれば、金融政策は米経済に対して引き続き緩和的な状況が持続するとみられる。

このため、利上げが新興国を含めた内外経済に与える影響も限定的と予想している。
政策金利上げペース
3|長期金利は緩やかな上昇を予想

長期金利(10年国債金利)は、政策金利引き上げに伴い上昇するとみられる。もっとも、物価上昇圧力が抑制されているほか、利上げペースも緩やかに留まることから、長期金利の上昇も緩やかとなろう[図表8]。
米国金利見通し

 
  * 生産年齢人口(16歳以上人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者を合計したもの)の比率。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2016年02月08日「基礎研マンスリー」)

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