2016年01月25日

EUソルベンシーIIの動向-各社のSCR算出のための内部モデルの適用申請等はどのような結果になったのか(1)-

保険研究部 取締役   中村 亮一

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1―はじめに

EU(欧州連合)における新たな保険監督規制の重要な改革であるソルベンシーIIが2016年1月からスタートした。基礎研レター「EUソルベンシーIIの動向-SCR算出のための内部モデルの適用申請・承認等の状況はどのようになっているのか-」(2015.10.5)(以下、「前回のレター」)において、各社における内部モデル使用の要件となっている各国の保険監督当局の承認が、かなり厳しいスケジュール状況にあることを報告した。

その後3ヶ月を経て、2016年1月を迎えるにあたり、さすがに昨年度末までには、各国の監督当局が各社の申請に対して承認を与える状況になり、こうした状況を監督当局自らあるいは各社がプレス・リリースしている。

今回と次回のレターでは、こうした内部モデルの適用申請の結果等について、現段階までに判明している情報に基づいて、報告する。
 

2―内部モデルとは

まずは、内部モデルの概念について、前回のレターから抜粋して説明しておく。

1|内部モデルとは
ソルベンシーIIにおける第一の柱である「定量的要件」については、(1)技術的準備金(Technical Provision)、(2)SCR(ソルベンシー資本要件:Solvency Capital Requirement)、(3)MCR(最低資本要件:Minimum Capital Requirement)の3つの要素で構成されている。

このうちのSCRの算出については、標準的な算式が定められているが、保険会社のリスク管理の高度化を促すために、監督当局の承認を要件に、各保険会社・グループ独自の内部モデル(部分的な適用を含む)の使用も認められている1

標準的方式では、SCRはモジュラー・アプローチと呼ばれる構造に基づいて算出され、保険引受けリスク、市場リスク等の各種のリスク・モジュールでの算出を行った後、各種リスク間の分散効果等を反映させる形で算出されていくが、内部モデルでは、これらのそれぞれの算出等において独自のモデルやパラメータを使用することになる。

内部モデルについては、「全体にわたるリスク・ポジションを分析し、リスクを定量化し、これらのリスクに対応するために必要とされる経済資本を決定するために、保険会社によって開発されるリスク管理システム」であると定義2されている。そして、その目的は「保険会社内部におけるリスクと資本管理のプロセスを完全に統合するため」であるとされている。

2|内部モデル使用に関する各社の考え方
内部モデルを適用するか否かは、各保険会社の判断による。大多数の会社は標準的方式でSCRを算出するが、EIOPA(欧州保険年金監督機構)によると、2015年度中に100以上の保険会社・グループが、2016年1月からの内部モデルの使用に向けて、申請を行った模様である。

保険会社が内部モデルを適用するインセンティブは、それが会社の実態により適合した内部のリスク管理や資本管理と整合的になることから、規制上の資本要件と自社の経営管理上の要件との2重管理を回避することができるということが挙げられる。一方で、より現実的な理由として、内部モデルを使用することにより、リスク評価を圧縮することができ、より適正なSCR水準を実現し、効率的な資本管理が可能になる点が挙げられる。

3|内部モデル使用を含む各社の選択肢
各保険会社は、内部モデル適用に伴う負担等の課題とベネフィットを考慮に入れて、その適用申請を行うか否かの判断を行っている。なお、各保険会社の選択肢としては、(A)標準的方式を用いることや、(B)完全な内部モデルを用いることに加えて、(C)部分内部モデルを用いることや、さらには(D)標準的方式で使用されているパラメータの代わりにUSP(会社固有のパラメータ:Undertaking specific parameters)3を用いる、ことも考えられ、各社に最も適した手法が選択されていくことになる。
 
1 MCRは、監督当局の究極的な行動発動基準であることから、簡便な計算方式で、客観性を有し、保険会社からの法的措置にも十分対抗できる基準としており、内部モデルの使用も認められていない。
2 Solvency II Glossary(CEA(Insurance of Europe))
3 USPの使用については、EIOPAがガイドラインを作成している。

3―内部モデルの申請及びそれに対する承認状況

各社の内部モデルの使用が認められるためには、監督当局の承認が必要になる。昨年の4月以降に各社の申請が行われていたが、つい最近まで中々承認の声が聞かれなかった。さすがに、2016年1月を迎えるまでの 1か月前後になって、11月から12月にかけて、各国の監督当局から各社に対して、承認の通知が与えられ、各社から承認が得られた旨のプレス・リリースが行われている。

この章では、主要各国におけるそうした状況を報告する。なお、各社毎の状況のうち、Prudential、Allianz、AXA等の大手欧州保険グループの詳しい状況については、次回のレター「EUソルベンシーIIの動向-各社のSCR算出のための内部モデルの適用申請等はどのような結果になったのか(2)-」で述べることとする。今回のレターでは、その他の会社で内部モデルの承認等を公表している会社の中から、比較的詳しい情報を公開している会社のケース等を紹介しておく。

なお、今回の各社のプレス・リリースにおいては、内部モデル使用の承認を得たと公表している一方で、ソルベンシーIIに基づくSCR比率の数値については、引き続き、EUの同等性評価の問題が決着していないことや税の取扱等に関する規制の解釈の問題があることから、不確実性を有している、とコメントしている。

1|英国における状況

(1)全体の状況 
英国では、2015年12月5日4に監督当局であるPRA(健全性規制機構:Prudential Regulation Authority)が、以下の19の生命保険会社に対して、内部モデル(部分内部モデルを含む)の使用を承認したと発表している。

Amlin, Aspen Insurance UK, Aviva, British Gas Insurance, Just Retirement, Legal & General, Markel, MBIA UK, NFU Mutual, Pacific Life Re, Pension Insurance Corporation, Phoenix Group, Prudential, QBE European Operations, RSA Insurance, Scottish Widows Group, Lloyd's, Standard Life,Unum European Holdings Company Ltd.

これらの会社のモデルが、全てのリスクをカバーする「完全内部モデル」なのか、選択されたリスクや事業単位の選択のみをカバーする「部分内部モデル」なのかどうかは、この段階では明らかにされていない。これについては、今後の各社のプレス・リリース等を待つことになる。

なお、PRAは併せて、マッチング調整(MA)、ボラティリティ調整(VA)及び技術的準備金の経過措置に関する申請に対する承認も与えている。これらについては、プレス・リリースではなく、Financial Services Registerの中で明らかにされているが、いずれの措置についても、上記の内部モデル使用の承認を受けた会社を含めて、多くの会社の適用が承認されている。

(2)BUPA-USP(会社固有のパラメータ)を使用-
保険リスクを調整することを望む会社のための別のオプションとして、USPを使用することが挙げられる。健康保険会社のBUPA5は、Bupa GroupとBupa Insurance Limitedに対して、標準的な保険料リスクパラメータをUSPに置き換えて使用する承認を得たと公表している。

USPは、保険会社が、標準的方式のパラメータを企業の経験を反映したパラメータに代替させることを意味するが、これは、(部分)内部モデルを開発することに比べて、コストがかからない簡単な代替手法と考えられている。
 
4 以下、特に断りが無い限り、日付は2015年である。
5 2014年度の収入保険料7,091百万ポンド、2014年度末の総資産11,746百万ポンド
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保険研究部   取締役

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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