2016年01月22日

中国発の世界株安はECBが止める?

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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欧州では中国市場への期待は依然として高い

ユーロ圏は、域内市場が大きく、圏外の欧州諸国や米国との結びつきも強いため、日本との比較で見ると中国経済の減速や人民元政策の変更に伴う影響を受け難い。圏内の需要は緩やかに回復しているとは言え、緩慢に留まる。隣接するロシアとの関係が悪化、中東・北アフリカ情勢が不安定でもある。中国経済にかつてのような勢いはないとは言え、欧州では市場としての中国への期待は依然高いように感じられる。

国際世論調査でも、西欧の国々は、世界における米国の支配的な地位が続くかという問いに対して、およそ6割が「中国がとって替わる」と回答している。8割近くが「米国の支配が続く」と答えている日本よりも、中国の将来に対して悲観的ではないと言えるだろう(図表7)。
図表7 国際世論調査「米国の支配的地位は続くか?」という問いに対する回答の割合
中国が掲げる人民元の国際化による新たなビジネス・チャンスへの期待も伺われる。中国は、すでに経済規模で世界第2位、世界貿易では米国と並ぶに比重を占めるようになっているが、人民元の国際通貨としての利用は、資本取引が規制されてきたこともありごく限定的だ(表紙図表参照)。欧州からは、人民元の国際化への歩みは直線的には進まないにせよ、経済や通商面での地位とのバランスを是正する余地はあると見えるだろう。IMFによる人民元のSDR構成通貨としての採用も欧州諸国が支持したとされる。アジアインフラ投資銀行(AIIB)にも欧州からは英国が逸早く名乗りを上げ、ユーロ参加国でもドイツ、フランス、イタリアなど10カ国が創設メンバーとして参加した。
 

AIIBではユーロ圏からの参加国が単独の議決権を行使

AIIBは、アジア、大洋州、中東を「域内」、その他の地域を「域外」と区分し、資本金1000億ドルのうち「域内」が75%を出資する。それぞれのセグメントの出資比率は、新興国に有利な購買力平価に基づくGDPで決まり、中国が全体のおよそ3割。「域内」の新興大国であるインドが8.4%、ロシアが6.5%で続く。重要事項の決定に75%以上の賛成を必要とするため、中国は事実上の拒否権を有する唯一の国となる。

ユーロ圏からの参加国の出資比率は最大のドイツでも4.5%でインドやロシアを下回るが、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)では、AIIBの開業に先立ち、ユーロ圏から参加する国の代表を一本化し、議決権を行使することで合意している。10カ国合わせることで14.2%となり、拒否権こそ行使できないが、中国に次ぐ勢力となる(図表8)。

日本は米国と共に、AIIBへの創設メンバーとしての参加を見送った。AIIBの運営や透明性や公平性を欠くとして慎重な評価が支配的だ。創設メンバーとしてAIIBへの参加を率先して表明した英国、議決権の一本化という形で影響力の発揮を狙うユーロ参加国が、今後、どのような役割を果たすのか注目されよう。
図表8 アジアインフラ投資銀行(AIIB)出資比率
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

(2016年01月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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