2016年01月22日

原油価格下落と米国経済-価格下落は米マクロ経済にはプラスも、資本市場の不安定化に注目

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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一方、民間設備投資では原油安の悪影響が顕在化している。15年の民間設備投資は、原油価格下落に伴う資源関連の建設投資削減が全体を押下げる状況となっている(図表8)。

米国の原油生産と在庫の推移をみると、これら設備投資削減にもかかわらず、15年の春先以降の生産量は横這いとなっており、在庫が積み上がっている(図表9)。前述のように、暖房需要の減少も見込まれる中で在庫の早期解消は難しく、EIAも予想するように今後の生産減少は確実とみられる。このため、今後も資源関連の設備投資削減が見込まれる。
 
(図表8)民間設備投資(寄与度)と原油価格/(図表9)米国原油生産と原油在庫
(図表10)S&P500企業の設備投資計画見通し S&P500指数構成企業の設備投資に対するアナリスト予想をみると、エネルギー関連業種では16年に前年比で2割弱の削減が見込まれている(図表10)。これは、全10業種で最大の削減見込みである。

S&P500構成企業では、エネルギー関連業種の設備投資額のシェアが2割超と最大になっている。このため、S&P500全体でもエネルギー関連業種に足を引っ張られる形で、前年比3%程度の減少となり、影響は大きい。

もっとも、GDP推計におけるエネルギー関連企業の設備投資シェアは、鉱業とパイプラインの合計が8%程度3となっており、大企業中心のS&P500企業に比べて低く、米国企業全体への影響はここまで大きくない見込みだ。さらに、設備投資がGDPに占める割合は、1割強と個人消費の7割弱に比べて小さいため、資源関連の設備投資削減の影響は、消費に対する恩恵に比べれば限定的である。
 
3 14年の名目GDPにおける設備投資の割合。
(図表11)S&P500指数(業種別) (資本市場)原油価格下落に伴う株式市場、社債市場の不安定化が懸念
これまでみたように、原油価格下落はマクロ経済全体ではプラスとみられるものの、米株式市場や社債市場を不安定化する要因となっており、その影響が懸念される。

S&P500指数は、原油相場の下落基調が強まった動きに連動するように15年11月から下落基調に転じた(図表11)。同指数の1月19日までおよそ3ヵ月の下落率は▲10.5%である。

一方、業種別の収益率寄与度は、情報技術(▲2.4%ポイント)、金融(▲2.0%ポイント)が大きいが、エネルギー関連も▲1.6%ポイントと10業種で3番目に大きくなっている。さらに、11月初を100とした業種別のパフォーマンスをみるとエネルギー関連指数の下落率が20%を超えており、最も大きくなっていることが分かる。
次に、社債市場のパフォーマンスをみると、信用力の高い投資適格社債は昨年秋口以降も安定している一方、高金利社債のパフォーマンスには悪化がみられる(図表12)。米国では政策金利が引き上げられており、金融環境がタイトになるとの懸念から信用力の低い社債市場に影響がでたとみられる。もっとも、その中でもエネルギー関連社債のパフォーマンス悪化が際立っていることから、金融環境だけでなく原油価格下落もこれら企業に対する信用力の評価に影響している可能性が高い。

実際、石油・ガス関連企業の倒産件数をみると、15年に27件と急増しており、リーマン・ショック後の09年の26件を上回った(図表13)。米国では、15年の雇用者増加が月間平均20万人超と好調だったが、エネルギーを含めた資源関連部門では15年を通じて雇用が減少しており、これら企業の信用力低下が懸念されている。
 
(図表12)米国債インデックス/(図表13)石油・ガス関連企業数倒産件数
(図表14)非投資適格社債発行額 さらに、投資適格基準を満たしていない(BBB格未満)の社債発行額に占めるエネルギー関連企業のシェアは、15年に1割弱まで増加するなど、プレゼンスが増しているため高金利社債市場全体に対する影響が懸念される(図表14)。

このようにみると、原油価格下落はエネルギー関連企業の株式や社債の価格を下落させることで、株式市場や社債市場の不安定化の要因の一つとなっていることが分かる。

16年に入って、中国経済への懸念から中国株が大幅下落したことを引き金に、世界的な株式市場の下落となったことから、世界経済に対する悲観的な見方が強まっている。米国では労働市場の改善を背景に、消費主導の底堅い成長が持続している。原油安は消費を刺激するため、米経済に必ずしもマイナスではない。一方、原油価格のみでなく鉄鋼石や石炭価格など資源価格全般に下落する中で新興国を中心に資源国経済に対する懸念が強まっているほか、中東地域の地政学的リスクが高まっている。さらに、米国では大統領選挙を控えて政治的な対応がし難いことも、投資家のリスク回避志向を高まり易くしているとみられる。

当研究所では原油価格下落は行き過ぎとみており、資源関連企業の設備投資や信用力の問題は緩やかながら改善するとみているものの、リスク回避的な動きから資本市場の不安定な状況が長期化する場合には、実体経済に影響するため、今後の動向が注目される。
 
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年01月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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